⑤新入りの次も新入りで
『隊長、ルーキーが戻ってきました』
「分かった。すぐに行く」
扉越しから聞こえてきたエコーの声に、タイサが向こうに聞こえる声の大きさで返す。そして最後にと、国旗と同じ色に染まった正装用の外套をぐるりと羽織って肩の留め具で固定すると、扉を開けてエコー達と顔を合わせた。
騎士団の倉庫から鎧を受領してきたルーキーは、昨日の鎧より傷が目立ち、かつ手入れもあまり行き届いていない、ややくすんだ鎧を身に纏っていた。
だが彼の表情は、その結果に残念がる素振りはなく、むしろ何かを期待して待っているような、そんな嬉しそうな顔をしている。
タイサがそんな彼の表情にいち早く気付き、茶化すように指先を向けた。
「何だルーキー。昨日よりも今日の鎧の方が良かったのか?」
彼が昨日着ていた鎧は、本来騎士団長のみが着ることを許されている逸品物であった。外見も色もほぼ同じだが、質の良い素材で作られた鎧は一般の騎士よりも高い防御をもつだけでなく、魔法によって多少の物理攻撃を軽減、または弾く加護がかけられている。
先日のゴブリンが放ったスリングショットに、ルーキーが無傷で済んだ理由が正にそれであった。
そんなタイサの冗談に、ルーキーは首と手の平を大袈裟に左右に振った後、両手を少し広げるように動かして理由を説明し始める。
「いえ、そうではなくですね。今日、新しい騎士がここに入ってくると先輩達から聞きまして」
「―――で?」
「ルーキーの名前も今日で返上できるものだと」
タイサの騎士団では本人の名前と意思に関わらず、最も経験の浅い騎士をルーキーと呼んでいた。侮蔑的な意味は今まで込めて来なかったが、たった数日でその名を卒業できる事に、彼はかなりご機嫌らしい。
「いや、お前はまだルーキーのままだが?」
「………え?」
ルーキーの表情が一気に萎む。これ以上ないほどに沈んでいく。
タイサが一度咳き込み、片方の眉だけを持ち上げて分かりやすく説明を始めた。
「あー、今日来る新人は一応貴族出身だからな。あの人種は冗談が通じない事が多いし、通じなかった後が面倒だ。だから、そのぉー、向こうは名前で呼ぶ事にする………つもりだ」
「………ほ、本気で言ってますか?」
「そこまで落ち込むとは思わなかったが………まぁ………すまないな」
目を大きくして聞き返すルーキーにタイサは気まずそうに答えると、彼は天井を仰ぎながら膝から崩れ落ちる。
「まぁ、そう気を落とすなって。その分俺達が守ってやるからよ」
ボーマが慰めにならない言葉を発しながらルーキーの背中を叩き、他人事のように大声で笑い始めた。
「隊長、そろそろ時間かと」
「ああ。そうだな」
手を二度叩き、気持ちを切り替えるようにとタイサが声を低くして話し始める。
「これから会議に出席してくる。その後は新人を連れて街の巡回にあたると思うが、それまでに新人の荷物棚の用意や新しい馬の手配を頼む。それとエコー」
「はい」
タイサの指名にエコーが短い声と共に背筋を伸ばすと、小さく一歩を踏み出した。
「本日付でお前を騎士団『盾』の副長に任命する。既に本部には話は通してあるから、俺が会議に行っている間に人事部から辞令が届くはずだ。特に気張る必要はないが、ジャックに代わり、これからもよろしく頼む」
「はい! ご期待に沿えるよう全力で任務に務めさせていただきます!」
既に気張っていた。




