⑥親友
団長会議は基本三十日に一度、王城にて定期的に開かれる。
だが今回のように不定期に招集がかかる事が稀にある。その場合、内外を問わず、重大な事件や事態が起きた事を暗に意味する事が多い。
「お、タイサじゃないか!」
会議が行われるのは三階の会議室、そこへ向かう一階の階段前で、炭の様にくすんだ銀の鎧に身を包んだ男と鉢合わせになった。黒銀とも呼べる鎧は日の光を鈍く反射させるが傷は1つもなく、何年も使われているはずの鎧が新品同様の姿を保っている。
「デルか? 何だ、もう遠征から帰って来たのか」
タイサはデルと呼んだ騎士との再会を喜び、拳を互いに突きつけ合った。
「相変わらずボロ屋暮らしか? いい加減身の丈に合った家を買えって」
「朝じゃぁギュードにも似たようなことを言われたよ。お前こそ新婚なんだから少しは家に帰ってやれよな」
『色付き』の上位騎士団である銀龍の長を務める彼は、王国騎士団に入る前、まだお互いに冒険者だった頃に二人は知り合い、既に十五年以上の付き合いである。
頑丈さに長けたタイサとは異なり、デルは速さにかけては王国騎士団の中で右に出る者はいない。その速さは残像が複数生まれるも言われ、一般の騎士が一度攻撃するまでにデルは七度は攻撃できる。
その能力から、国王陛下から騎士団長に拝命された際、『七速』の字名を与えられた程であった。
「それで、半月の遠征の方はどうだったんだ?」
半月前、銀龍騎士団は辺境の蛮族の活性化を調査する為、王都から東にあるかつての仇敵カデリア王国領、現カデリア自治領へと赴いていた。
タイサは自分の言葉にデルがすぐに返さなかった事に気が付く。そして眉を降ろして真面目な顔に切り替えると、親友に会議室へ向かおうと声をかけ直す。
階段を上がる途中、デルは溜息をつきながら前髪をかき分け、周囲を気にした上で小さな声で話し始めた。
「酷いものだ。国境に近い東の集落がいくつも襲われ、住民達が攫われていた」
仮に蛮族の襲撃が小さな規模であっても、集落が成す術なく襲われれば、軽く見積もっても数十人ほどの犠牲が出る。
「そうか………それは酷いな」
タイサは言葉を詰まらせながら短く答えるに留めた。
実際に見てきたデルの言葉が自然と大きく、そして強くなる。
「これ以上放置すれば、それなりの規模の村々だけでなく、大きな街に被害が出るのも時間の問題だ。今回の会議はその件に関する事になるだろう」
城内で日に日に大きな噂になってきている蛮族の活性化。
今までも国境を越えて蛮族達が農作物や家畜を荒らす事は度々あったが、ここ数年前から被害が大きくなり、ついには人々が襲われ、酷い時には集落そのものが地図の上から消える事態になっている。
二百年程前は、人間は蛮族達と協力して魔王を倒した、世界を救ったという言い伝えや物語がなお地方に残っているが、今となっては蛮族は人間の賊よりも質の悪い武装集団と化しており、王国としても地方領主の対応だけではままならなくなっているのが現状であった。
「最悪、蛮族との戦争か………大勢の人が死ぬな」
タイサの拳に力が籠る。
そこにデルの手がタイサの右肩に置かれた。
「なぁ、今からでも遅くはない。やっぱりお前がもっと上に………」
「悪いがデル。そこまでだ」
そこまで分かっていながらと言いかけたデルの言葉を、タイサは右手を前に出して遮る。
「俺は、俺のいる所から人々を守りたいんだ。分かってくれ、デル」
何度も言い争った互いの信念。互いを尊重しつつも、最後まで譲る事ができなかった意固地な性格。
デルは溜息をつきながら腰に手を置いた。
「………昔から不器用で頑固だよ。お前は」
「お互い様だ。今じゃ二人共、三十目前になった中年だ」
「まったくだ。嫌な話ばかりで本当に困る」「あぁ、まったくだ」
タイサはデルの肩に手をかけ、共に小さく笑いながら会議室を目指した。




