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№4天才魔術師・剣姫・鑑定士

 フェスタの街をただひたすら練り歩く。

 これが今日の仕事だ。


 確かに私達ジークフリートが街の見回りをすれば、悪事を働くような者は減るのかもしれない。

この街最強と言われるジークフリートに逆らおうとする者などいるはずがないし。


 だからって、依頼が無い日はほぼ毎日とか止めて欲しい。


「はぁ……リノとキノに会いたい……」


 仲間の後ろをふらふらとついていきながら、そんなことをぼやいた。

 ジークがいたら怒られたかもしれないけど、今いるのはウルハとマリクだ。この二人は基本的に私に優しい。


 ジークは怖いし、アルヴは何を考えているのかよくわからない。


「そう気を落とさないでルーちゃん。昨夜は一緒に過ごせたんだよね?」


 そうやって優しく声を掛けてくれるのはウルハンこと剣姫ウルハ・サクラノ様だ。

 彼女は私以外の前だと堅苦しい性格だが、私の前では何故か温厚になる。


 ウルハンの家は華族と呼ばれる東の国ヒノカムから来た貴族様だ。だからフェスタにある家は豪邸で、昨日までの遠征期間は妹達を預けさせてもらっていた。


「だからだよ。だからこそもっと一緒にいたいって思っちゃうんだよ」

「まぁ、今日の見回りはお昼過ぎには終わりますから、もう少し頑張りましょうよ」


 私が露骨に駄々を捏ねて見せると、先頭を歩くマリクが振り向いて言った。

 その振り向く刹那、ウルハが剣を抜いて刃をマリクの首筋に当てつけている。


「口を慎めこの眼鏡風情が……次ルーちゃんに気安く声を掛けたら殺す」


 先も言った通りウルハンは私以外の前では堅苦しい性格になる。が、マリクの前ではそれ以上に野蛮な性格になってしまうのだ。

 理由は私にはわからない。


「あれぇ~、僕、仲間ですよね?」


 マリクが頭を掻きながら動揺している。

 この二人を一緒にするとこうなるから別々にすればいいのに……まぁ、だから私が一緒にされてるんだろうけどさ。


「まあまあウルハン。これでもマリクは一応仲間だから武器はしまおうね」

「……うん。ルーちゃんがそう言うなら」

「一応って……」


 言われて渋々剣を鞘にしまうウルハン。マリクはなにやら不服な様子だ。

 戦闘になればこの二人の連携は凄いんだけどなぁ。

 実は仲良かったり?


「ルーちゃん」

「ルーティさん」


 そんなことを頭の中だけで思っていると、急に二人が同時に呼び掛けてきた。


「え、な、なに? 二人そろって」


 それに二人とも真剣な表情をしている。

 本当になんなの?


「殺気を感じます。僕達に対してではありませんが」

「ええ、あの男ね、フェードアウトを使っているようだけど、あんなに殺気を漏らすなんて馬鹿じゃないの」


 フェードアウトは姿をくらます魔法だ。


「た、大変じゃない。よく気づいたわね二人とも」


 私には全く感じないけど、二人には感じるようだ。


 二人の視線の先に目を向けると、姿は見えないけど確かに人一人分の魔力の塊を感じた。

 街を歩く親子の背後。


「鑑定、始めます」


 私がそれを確認するのとほぼ同時にマリクが眼鏡をはずす。

 ウルハンの姿は既にここにはない。


「はぁ――っ」

「くっ」


 一瞬のうちに剣の間合いまで距離を詰めたウルハンが剣を振るうも、ぎりぎりの所で交わされてしまう。


 姿を現した男は即座に逃亡を始めた。


「追いましょう」

「う、うん。そうね」


 人混みをお構いなしに逃げ惑う男を全速力で追う。

 走りながらだが、どうやらマリクの鑑定結果が出たようだ。


「あの男の魔法履歴はフェードアウト、スクイダルだけです。スキルは影足を持っているようなので、暗殺者の類かと」


 姿を隠すフェードアウトに目くらましのスクイダルね。いかにもそっち系の人間が使いそうな魔法だこと。


 それにスキル何て特別な才能を持ってるなら、そんな馬鹿なことに使わなければいいのに。

 そんなことを思っていると、前を行くウルハンが立ち止まった。


 どうやら男を見失ったらしい。


「ウルハさん、右の路地裏に足跡が続いています!」

「――ちっ」


 マリクの情報に舌打ちをしながらも、即座に路地裏へと走るウルハン。

 ウルハンがもっと素直になればいい関係になると思うんだけどなぁ。

 ま、そんなことより、そろそろ私もお仕事しますか。


「鏡月結界!」


 この魔法は透明な空間で任意の範囲を閉じ込めるものだ。


 光属性魔法と地属性魔法を応用させて私が生み出したオリジナル。今回は路地裏を塞ぐように展開させた。


「がっ――⁉」


 路地裏の奥で結界に衝突した男が姿を現す。


「もう逃げ道はないぞ悪党」


 たじろぐ男に対して剣を前にして詰め寄るウルハン。

 この時点で私達の勝ちは決まったようなものね。


「へっ、それはどうかな?」


 しかし、往生際の悪い男は再び姿を消した。

 ただ、フェードアウトが姿を消すだけである以上、やつに勝ち目はないのだ。


「いや、終わりだよ貴様は……熱波!」


 ウルハンがそう言って剣を横に振りかざすと、剣線から発生した炎の衝撃波が前方に飛ばされた。


「ガハッ」


 直後、その衝撃によって吹き飛ばされた男が結界に当たって倒れる。

 全く、あっけない終わり方だったわ。


「お疲れ様ですウルハさん、ルーティさん」

「大したことなかったわね」

「私とルーちゃんの勝利だね!」


 服装を正しながら眼鏡を掛けなおしたマリク。

 ウルハンはいつものようにマリクの事なんて眼中にない様子だ。


「じゃあ、この男は僕がジークの所に連れていきますから、お二人は規定時刻までパトロールを続けてください。その後は各自解散で」


 そう言いながら軽そうに男を担ぎ上げた。

マリクって見た目の割に意外と力持ちなんだよなぁ。


「はーい」

「行こっか、るーちゃん」

「うん」


 ウルハンに手を引かれて商店街に戻ると、騒ぎはある程度落ち着いていた。

 そこまで大きな騒ぎにならずにすんだみたい。


 もう少しすればリノとキノに会えるし、もう少し頑張ろう。


「そう言えばルーちゃん、そのブローチはどうしたの?」

「え、ああ。昨日妹達に貰ったラナンキュラスを知り合いに加工してもらったの。折角プレゼントしてもらったのに、枯らしちゃもたいないからね」


 胸に着けたラナンキュラスのブローチは昨日妹達に誕生日プレゼントとして貰ったものだ。私の部屋に飾ったのは良いけど、全部枯れてなくなってしまうのは悲しい。


 だから一つだけブローチに加工してもらった。


「そっか。るーちゃんはやっぱり優しいね」

「そう? ありがと」


 それからは二人で雑談をしながら街を歩いて回った。

 気が付いたら空は黄金色に染まり、シチューの良い香りが鼻を擽る。

 どうやら規定時刻を過ぎているようだ。


「もうこんな時間。リノとキノにご飯作らないとだから私行くね」

「うん。また明日ね、るーちゃん」

「また明日。ウルハン」


 ギルドの前でウルハンと別れた私は、駆け足で二人が待つ我が家へと向かう。

 ようやく二人に会える高揚感に思わず笑顔がこぼれてしまう。


 母さんが逝ってしまってから三人だけになってしまった私達だけど、やっと三人で平穏に暮らせる日々を手に入れたんだ。


 今はまだいつも一緒にいられるわけじゃないけど、もっとお金を貯めていつかはずっと一緒にいられるようになるはず。


 だから私は頑張れる。


「冒険者になってよかった」


 私は度々こう思う。


 冒険者になっていなかったら、私たちはもしかしたら今頃奴隷にでもなっていたかもしれない。

 私だけならまだいい。だけど、リノとキノがひどい目にあわされるのだけは耐えられないのだ。


 この生活は当たり前じゃない。この幸せな日々を、毎日かみしめて生きていこう。


 そう、思っていたのに。


「――――え?」


 私がジークフリートとして一生懸命働いて買った小さな一軒家。

 その扉の前で、私は立ち尽くしてしまう。

 そこには、一枚の紙が貼りつけられていた。


『妹達は預かった。返してほしければ、阿吽の魔窟に一人で来い』


 書いてあることの意味が上手く読み取ることが出来ない。


 その紙を剥がしてもう一度目を通すと、ようやく書いてあることの意味が分かった。

 文面を理解した時には、もう既に私の体が動いている。


「リノ! キノ! いたら返事をして!」


 家に入って二人の名前を呼ぶも返事が無く、いつも出迎えてくれる二人の姿も無い。

 人の気配すら、微塵も感じ取ることが出来ない程だ。


 私は今どうすればいい? 誰かに相談する? でも、紙には一人で来いと書いてある。

 少しでも二人に危険が及ぶ可能性があるならそれは出来ない。


 だったら、今すぐにでも阿吽の魔窟に行って二人を取り返すほかない。


「今、行くからねっ」


 もし二人の身に何かあれば私は――


 そんなことを考えながらも、無我夢中で阿吽の魔窟へと走り出した。

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