ピンク女事件の終息
社交シーズンが最盛期に入った。
謹慎中なのでパーティーへの参加も見合わせているが、評判は耳に入ってくる。
主に現在訓練に通っている騎士団から。
「お前の言ってたジョアンナさんが来てたぞ、可愛らしい令嬢だな」
「ジョアンナさんに例の寒冷地用のステテコ案を進言しておいたからな」
余計な情報ばかり耳に入ってくる。
幸い、今年は婚約者の選定を待っている家が多いようだ。
学園内部での騒ぎにより、高位貴族の令嬢の婚約が解消される可能性があり…
政略結婚、どうせなら良い条件狙っていきたい貴族は様子見らしい。
王宮主催のパーティーは実質強制参加。久々にパーティーに参加した。
ジョアンナの評判は高い。
可愛らしい容姿、高い教養、新商品を生み出す発想力、狙っている貴族は多い。
実際にダンスの誘いは絶えない。僕もダンスの申し込みをしたが…はねつけられた。
楽しそうに踊るジョアンナの姿が目に入る。
耐えきれなくなり、強引に割り込んだ。
ジョアンナに叱責されたが、それでも一緒に合わせてくれる彼女が嬉しかった。
僕の事を他人の様に見る目が辛かった。
強引に2曲目も踊ろうとしたが彼女の兄に止められ、彼女は帰っていった。
父が一瞬だけ咎めるような目で見たが、その後苦笑して僕の肩を叩いた。
また謹慎生活に戻った。
学園で一緒に行動していた貴族の子息の評判は悪い。
どの舞踏会に行っても、リリアンヌを取り巻き、婚約者令嬢を蔑ろにする姿が見られている。
いや、僕だってそうだったんだ。
なぜそうしたのか、自分でも理解できない。
あの時はリリアンヌを愛しい存在と思い込み、ジョアンナを悪者と決めつけた。
あれをなかったことにしたい。
本当にあの時の事は思い出したくもない。
なぜ、こんな事になったのだろう。
あの日はジョアンナに渡すためのプレゼントを取りに行くために焦っていた。
さっさと王子の用事を済ませようと焦って油断していた。
あの日、男たちに取り囲まれ何かを奪われた。
何だっけ、子供の頃からつけていた、耳飾り!
父に耳飾りを奪われた件について報告する。
ジョアンナの家からも魅了の魔法が使われている可能性について連絡が入った。
早急に対策がなされ、ピンク色の女事件はあっさりと収束した。
久々にジョアンナに会う事を許された。
「ジョアンナは君の事を覚えてない、だけど君と一緒にリュートを弾く時にはとてもいい顔をするんだ」
彼女の兄がそういって、僕を庭に通した。
リュートの音に合わせて、僕も笛を吹く。
昔、彼女と一緒に演奏した時と同じ様に、僕の笛の音をリュートの音が優しく包み込む。
空がだんだんと暗くなり、彼女がリュートを弾くのをやめた。
隣に座ると驚いた彼女は逃げようとした。
ごめん。逃がしてあげない。
抱えた楽器ごと彼女を抱きしめる、懐かしい彼女の香りがする。
君が僕の事を忘れたのだとしても、今までの事は全部僕が覚えている。
2人の思い出ならこれから、今までの事を忘れても問題ないくらいに沢山作る。
僕はジョアンナを失う事だけが怖いんだ。




