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生まれ変わって救済を望む  作者: 大月 爽
3.執行の始まり
15/26

15.視たくないもの

お、お久しぶりです…

はい。遅くなりました。受験なんて嫌いなのですよ…



 『では、次のニュースです…』


 俺は朝食を食べながらテレビを眺める。

 テレビには瓦礫の山と化した建物の映像が流れた。アナウンサーがリベラリズムによるテロ事件であると説明している。そこは北新宿の一角だそうだ。

 今月に入ってもう2回目になる。1回目は俺が最後に行ったやつで、これで2回目。同じ地域でこんなに立て続けに起きるのは初めてのことだそうだ。一度は治まったように見えたリベラリズムの動きも再び活発になっているし、最近何かがおかしくなり始めているようだった。


 「ヒロトや茜、部長に咲と幸に被害が出ないようにしないとだな…」

 

 この1ヶ月ですでに2回。それだけでなく俺らの学校の件もある。この地域で何かが起きているのは確かだ。なにかしらの手は打っておきたい。みんなに火の粉がかからないように。

 とは言っても俺にできることって意外と…いや、普通に少ない。テロが起きた際に戦闘はできるが、それを未然に防ぐことは俺には無理だ。”未来視”の能力を持っていれば別なのだが。


 「…あ。そういえばいたな、うちのクラスに」


 ふと脳裏に1人の男子生徒の顔…というか前髪がかかってほとんど見えない頭部が思い浮かんだ。いつも自分の席で本を読んでいる物静かなやつ。いつも誰よりも早く学校に来て、誰よりも遅く教室に残っている変なやつ。

 

 「いや、これは俺の問題だし。何より…」


 話なことのないような人に協力してもらおうとは思えない。

 テロによる被害を最小限に抑えるのならこの方法が一番確実だ。それは間違いない。だが、もし協力を頼んだとしてもそいつが信用できなければ意味がない。嘘を言われるかもしれないし、もしかしたら敵かもしれない。

 …何をするにしても、要検討であるのは間違いなさそうだ。今日学校に行ったら話してみるとしよう。1週間。それで見極める。信用できそうだったら協力を頼んでみよう。信用できなさそうであれば別の方法を考えよう。


 「さて、行くか」


 俺は置き勉しているために筆箱とジャージ以外は何も入っていないバッグに弁当を入れ、背負って学校へ向かう。

 家を出ると吐く息が白い。部屋に戻ってマフラーをしてから家を出た。

 いつも通りの道を歩き、知り合いには誰とも会えないまま学校に着く。

 教室に入ると、真ん中あたりの席にそいつは座っていた。少し早く着いてしまったようで教室にはそいつ以外は誰もいない。…とりあえず挨拶でもしてみよう。

 

 「おはよう…」

 「…!お、おおはよう」


 挙動不審だ。怪しいな。信用できな…いや、そういえばこいつはいつもそうだった。こうやって相手を知ろうとしていると何でもかんでも怪しく見えてくる。


 「き、君からはは話かけてくるなんて、めめ珍しいね…」

 「ん?ああ、そうだな」


 なんでこうも挙動不審なのだろうか?確かに俺はヒロトたちと以外は全くと言っていいほどに誰とも話さないが、そこまでか?


 「ど、どうしたん、だい?」

 「あー、いや。なんとなくだな。誰もいなくて暇だったし」

 「そ、そうなんだ」

 「というかなんでそんなに挙動不審なんだよ」

 「きょ、挙動不審…僕はそんなつもりはないんだけど…」


 見るからにしょぼんとした。なんだろう、面白いな。

 そういえば名前なんだっけ?確か…(あら)ナントカだったと思うのだが。


 「そういえば名前、何だったっけ?」

 「え?僕?さ、さすがにひどくないかな。仮にもクラスメイトなのにさぁ…」

 「あはは…わりぃ」

 「笹川(ささかわ)しのぶ。ど、どうぞよろしく」

 「そっか。よろしく、忍」


 全く違っていた。

 そうか笹川忍、笹川忍な。よし、覚えた。


 「つ、ついでに言わせてもらうと僕は挙動不審じゃなくて、その…人と…話すのが、苦手なんだ」

 「はぁ…じゃあ俺と同じだな」

 「そ、そう、なんだ」


 まぁ、慣れれば普通に話せるだろう。何はともあれ今日からしばらくは話してみるか。

 まずは能力が使えるかどうかを知りたいな。


 「確か忍の能力って未来視だったよな?」

 「うん。そ、そうだよ。それが、どうかしたの?」

 「いや、知り合いに同じ能力持ってる人がいて、その人が言うには不便な能力だって言ってたからどんな能力なのかが気になってな」

 「そそうなんだ。ま、まぁでも未来視は人によって視れる程度とか物が違うから…」

 「どのくらい視れるとかって人によって違うのか。初めて知った」

 「そ、そうなんだ。せ、世界中の未来が見えたり、自分の近くしか見れなかったりとか、ね」

 

 なるほど。そういうものなのか。

 俺の知人っていうのは英雄軍の冠によく来る指令の情報源の人だ。世界中の未来が視えるらしいが、見える場所はランダム、視える未来はその日のことで、その内容もいろいろらしい。

 そうやって個人差がある物だったのか。初めて知った。


 「じゃあ忍はどのくらい?」

 「ぼ、僕はこの北新宿ぐらいが限界、かな」

 「へぇ…そうなのか。ならどのくらい先が見えるとかどんな物が視えるとかっていうのも違うのか?」

 「う、うん。まぁ、違うよ。いつのことが視えるのかわからない人もいれば、1秒先ぐらいしか見えない人もいるし」

 「忍はどのくらい見える?」

 「僕のは2日後くらい」


 なら使えるな。1秒後とか言われたら話にならなかった。いきなり別の方法を探す羽目にならなくてよかった。


 「じゃあテストの内容とか見れたりするのか?」 

 「い、いや、そそんなことはできないよ!も、もしかしてそんなことのために僕に話しかけたの?」

 「いや、ちょっと聞いてみただけ。別にテストなんか見なくったって点数取れるし」

 「あ、ああ、そうだね。君はいつも1位独占してるみたいだし」


 普通に考えて中3で高校受験の勉強までしていたのに中2の勉強ができないわけがない。もともと頭は悪くない、というかいい方だと思ってるし。ただ、歴史だけちょっと苦労した。まぁ10世紀も違うわけだからしょうがないのだが。

 

 「まぁな。じゃあ忍には何が視えてるんだ?」

 「ぼ、僕の…できれば、言いたくないかな」

 「どうしてだ?」

 「だ、だって…」


 忍は不意に俺から顔を背けた。

 俺がその理由を聞こうとしたところでガラガラ…と教室のドアが開いた。ヒロトが入ってきた。


 「おはよう、彼方。珍しいね、今日は早いんだ」

 「久しぶりに早く起きてな」

 「ふ〜ん」


 忍の表情を少し伺い、軽く手を振ってヒロトの方へ向かう。忍の表情はすぐれなかった。問い詰めるのはもっと仲を深めてからにすべきだな。


 「そういや朝ニュース見た?」

 「ううん、見てないよ。どうかした?」

 「またこの辺でテロだとよ」

 「…そっか。うん。今度は俺らが守らないとだね」

 「おうよ」


 しばらく話すうちにぞくぞくと生徒がやってきて学校が始まった。



 * * *


 

 放課後になった。俺らはいつものように3-2の教室に集まっている。


 「なぁヒロト、未来視って知ってるか?」

 「未来視って、未来が見えるっていう能力だよね。それがどうかした?」

 「いや、今日の朝忍とその話をしてたから」

 「彼方が誰かと話すなんて珍しいね。俺ら以外と滅多に話さないのに」

 「いや、暇だったから。で、知ってるか?」

 「まぁそこそこは知ってるよ。ていうかさ、こういうのは咲に聞いた方がいいんじゃない?」

 「あー、まぁそれもそうか」


 俺はそれもそうだと納得し、別の話を始めた。

 少しして茜と部長が、さらにその後に咲と幸が入ってきた。そしてみんながいつものポジションに落ち着く。


 「部長、もう大丈夫なんですか?」

 「この私がいつまでもしょげていると思ったのか?」

 「ですよねー。さて、じゃあみんな集まったし…」

 「では本日の部活動を始めようじゃないか!」


 いつものように俺のセリフを部長が持っていく。

 まぁ、今も部長がいるわけだし、俺は副部長か。そう考えればおかしくもない。なんか釈然とはしないわけだが。


 「ああ、そうだ。咲、未来知って知ってるか?」

 「え?あ、はい。知ってるです」

 「む?この私を無視するとはいい度胸ではないか彼方」

 「あはは…」

 「まぁいいぞ。今日はその話をするとしようじゃないか。咲、続けてもよいぞ」


 結局部長に話を持って行かれた。


 「ええと、はい。”未来視”というのは神級能力、時間干渉系能力に分類される能力の1つです。また、個人によって能力の比率に大きな差がある能力でもあるのです」

 「能力の比率ってなんなのよ?」

 「茜はもうちょっと勉強すべきだ。こないだのテストだって散々だっだろ?」

 「う、うるさいわね。私だってやればできるのよ」


 ほとんど最下位を取ったくせにどの口が言うのだか…


 「はいはい。じゃあ咲、茜にもわかるように優しく説明してやってくれ」

 「了解です。一部の能力にはその能力の使えるようになる割合があるのです。それを能力の比率というのです。今話していた未来視なら、視える範囲、視える量、視える期間、視える対象、です」

 「え、ええと…?」

 「ゲームのステータスの振り分けみたいな感じだ。全体の量が決まってて、それを能力に振り分けてる」

 「なるほど、わかったわ」

 「はぁ…ゲームじゃなくて勉強しろよ」


 ゲーム好きなのは俺もだから責めないが、もう少し勉強にも時間を割けとは思う。

 

 「じゃあ、それが存在する能力って他には何があるのよ?」

 「能力干渉系、操作系一部、鑑定系などが主です。大きい括りで言いますが、能力干渉系は方法の制約と拘束力、操作系の一部は操作性とそれぞれの対象への干渉量、鑑定系は観れる情報量と対象の豊富さです。茜先輩の”再生”にもありますよ。再生速度、再生可能量、使用するオード量です」

 「へぇ。そうなの」

 「まぁ話を戻そうか」

 「了解です。個人によってその比率に大きな差があるのです。例えば、世界中が見えるが数秒しか視えない、見たい対象を選べるがいつのことかは決められない、などと様々です。咲の知ってるのはこれくらいです」


 まぁ俺もそこまで詳しいことは知らなかったのだ。せいぜい人によって視え方が違うっていうのを忍に聞いて初めて知ったくらい。


 「さて一応説明が終わったのだが、彼方は結局何が知りたかったのだ?」

 「ん?ああ、そうだった。咲は笹川忍って知ってるか?」

 「ええと…あ、彼方先輩のクラスにいた人です?」

 「そうそう。朝そいつと話して、能力を聞いてみたんだけど視える対象を教えたくないって言われたから、何か都合が悪いことがあるのかと思って聞かないままにしてたけど、ちょっと気になってな」

 「ふむ。都合が悪い…」

 「きっとあれよ、エロいことにしか使えないとかよ!」

 「いや、それはどちらかといえば透視だろ」

 「そ、それもそうね。じゃあ…」

 

 みんなして頭を捻る。

 都合が悪い、言いたくない…なんだろうか?


 「視えて困る未来…」

 「どのくらいの範囲が視えるのです?」

 「北新宿ぐらいだって」

 「…人が死ぬ未来、とかどうかな?」

 「それは違うと思うです。それならいつも未来が視え続けて生活できないです」

 「そんなこともわからないヒロト先輩アホです」

 「酷くない⁉︎」

 

 でもそういう感じではあると思う。

 視たくないものでそういう部類のもの…

 

 「人が大量に死ぬ未来とかならどうだ?それなら常に視えるわけじゃない」

 「なるほど。それならばあるかもしれないな。この私は人の死ぬ事件かと思ったのだが」

 「ああ、そっちでも可能性があるな…」


 でもそういう系等なら俺の目的には好都合だな。テロ…つまり多くの人が死ぬ、それに事件でもある。どちらだったとしても視える可能性が高い。

 それが視えればむしろ危険なところから逃げることもできる。


 「あ…ああ、そういうことか」

 「どうかしたの?彼方」

 「いや、なんでもない」


 そういえばあの日学校にあいつはいなかった。

 つまり、学校でテロが起こることを知っていた。だから言いたくない。言えば、自分がみんなを見捨てて1人で逃げたってことがわかってしまうから。そう考えれば言いたくないということの説明がつく。

 明日確かめてみよう。誰にも言いたくないはずだ。ここで俺がみんなにそう言ってしまうのはさすがに悪いと思うし。


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