16,ヒーローになる
相当遅くなっちゃいました…すみません
さすがに次の日に聞くのはなぁ…と思ったので、忍と話すようになって4日目の朝。
おかげで忍との仲はそこそこ縮まった…ような気がする。それに忍が信用できる人物であるのも確認できたと思う。
「よっ。おはよう忍」
「お、おはよう。きょ、今日も早いんだね」
「おう。最近早く起きるようにしたからな」
朝のうちに冠に言われたトレーニングをこなすために、という言葉が後ろに続くけどな。
あれから毎日しているのだ。今じゃ息がほとんど上がらずにこなせるようになった。最初あんなに辛かったのが嘘のようだ。
「そ、そっか」
「おう。で、未来視について話したの覚えてるか?」
「…そんなに、聞きたいの?」
「いや、確認したい。忍、学校がテロに会うのわかってたんだろ?」
「…ぇ?」
忍の表情が凍りついた。
「だから、言いたくなかった。そうじゃないか?」
「な、んで…?」
「考えてみたんだ、言いたくない理由ってなにかなって。で、あってる?」
「どうして…どうして僕にそんなことを言うんだよ!」
「いや、もしそういうのが視えるなら協力して欲しかったから」
「…協力?」
「忍、結構ヒーローとか好きだろ?俺と一緒にヒーローしないか?」
一昨日、忍の読んでいる本の話をした。
忍は昔からヒーロー…またはそれに準ずる者の話が好きらしい。自分にはできないような形で世界を救ったりするのに憧れているそうだ。本を読んでいる間は弱い自分のことを棚に上げていられる言っていた。
「ヒーロー…?」
「とは言ってもほんの狭い場所限定だけどな。ま、とりあえずこの話は後だ。どうなのか聞かせてくれないか?」
俺は忍に尋ねた。
忍は俺にその理由についてぽつりぽつりと話し始めた。
「…仕方が、なかったんだよ。僕の”未来視”は、僕を守る未来を視せる。僕がその場にいると死ぬ未来を視せる」
「どういうことだ?」
「巻き込まれると僕が死ぬ未来が見えるんだ。そこには行くな、そう言うかのように」
「殺人事件とか、災害とか、テロとか、あとは…まぁいいか。そういうことか?」
「…うん。今も僕の右目には明後日起きるコンビニ強盗の映像が視えてる。そこに行けば僕は強盗に刺されて死ぬんだ」
「そうなのか…じゃあ学校のみんなにテロが起こることを言ってたらどうなってたんだ?そうすればみんな助かったかもしれないわけだろ?」
「む、む無理だよ。それを言うと、僕の住んでる場所がテロにあうことになってた。家族も…近所のおじさんも…みんな死んでた。こ、怖くて言えなかったんだ…」
「そっか。じゃあしょうがないな」
しょうがない。俺だって同じようにするだろう。間違いなく学校全員より友達だけを取る。
無理に決まっている。どうでもいい奴らとみんなを天秤にかけたなら、天秤が一周するくらいの勢いでみんなの方に傾くからな。
「…え?僕を責めないの」
「だってもし俺もそうだったら、同じようにするからな。間違いない。だから俺は忍を責められない」
「そっか…」
「そうだ。なぁ、ところでさっきの話なんだけど…」
ガラガラ…と扉が開いてヒロトが入ってきた。バットタイミングだよ。しょうがない。ヒロトたちには知られたくないし、放課後にでも話すかな。
「彼方、今日も早いね。最近どうしたのさ」
「ちょっと早起きに目覚めた」
「ふ〜ん」
俺はポケットに手を突っ込み、メモ帳を1枚ちぎり、そこへ黒鉛(C)で文字を書く。
操作技能の見せ所だなどとロクでもないことを思いつつ、黒い文字を載せたメモ帳を忍の机の上に置く。
「じゃあ、またあとで」
「う、うん」
忍がメモ帳に気がついたをの確認したところで俺はヒロトのところに向かった。
「では俺が早起きに目覚めた理由でも聞かせてやろう」
「いいよ、どうせ彼方のことだし気まぐれでしょ?」
「うっわ酷くない?もうちょっと別の理由があることも考えてくれてもいいだろ」
いつも通りの1日が始まる。
* * *
放課後。俺は用事があると言って少し早めに部活を終えた。
まぁ事実用事はあった。白樺さんに今月分のカラスを納めるのだ。そのために白木さんに電話をすると、いつものように家まで来て小箱に俺の作ったカラスを入れて帰った。
その後、俺は服を着替えて酔い亀に向かう。店の前まで来ると既に忍が待っていた。見慣れた制服姿てはなく、青いジャンパーを着ていた。
「早かったな」
「…こんなにわかりやすい地形じゃ迷わないよ」
「それもそうか。じゃ、入るか」
「え?ちょっ、ちょっとここって飲み屋…じゃないの?」
「うちの父さんの行きつけなんだ。昔からよく来てるし、ヒロトとかも来るぞ」
「そ、そうなんだ」
俺はのれんを上げて中に入る。今日は既に開店しているので中から少し酒臭い空気が流れてきた。
「おおっ、彼方じゃねぇか。今日は珍しくお友達か?」
「うん。まぁそんなとこ。席は空いてる?」
「座敷でいいかい?」
「うん、大丈夫」
「よっし、2名様ご案な〜い!」
俺らは店の一番奥の席に案内された。隣にはサラリーマン風な若い男2人が愚痴を言っている。結構大声だし酔ってるみたいだから気兼ねなく話せそうだ。
靴を脱いで畳の敷かれた座敷に上がった。座布団の上に座り、きょろきょろと周囲を見回している忍に声をかける。
「どう?」
「ど、どうって…?」
「いい店だろ?」
「そ、そうだね…」
なんだかんだ俺はこの亀さんの店が好きなのだ。そういえば俺が誰かをこの店に連れてくるのは初めてかもしれない。
「亀さーん!夕飯食べてくから、適当にお願ーい」
「あいよ〜!2人分か」
「うん!」
そこそこ大きな声で言えば、亀さんがそれに威勢良く返事を返す。
「て、適当にって…」
「ん?ああ、忍はいらなかった?」
「い、いや、そうじゃなくって、お金とか…」
ああ、何も聞かずに頼んじゃったしな。
まぁ俺が持つつもりだし問題はないけど、少し悪かったな。
「ああ、俺が払うからいいよ。こう見えても金持ちだから、俺」
「そ、そんな!悪いよ…」
「いいからいいから。むしろ使い道がなくって最近困ってるくらいだし」
「そ、そんなに?」
「ちょっと財閥に雇われてるからなー。ちょっと前に宝くじの一等を負かしたぞ」
「え、ええ〜…」
忍がどう反応していいのか困り始めたところで水の入ったコップが飛んでくる。
それに忍が驚いて座敷から落ちかけた。俺が笑うと少し不満げな表情を浮かべた。
「亀さんは念動力の能力者なんだ。そのおかげで1人で店をやってる」
「そ、そういうのは先に言ってよ…」
「いや、驚くのが見たかったからな。ヒロトたちもそのうち連れてこようと思ってたら、俺が教える前に来ちゃって驚くところ見逃したからな」
「そ、そうなんだ…じゃあ、驚いたのは僕が初?」
「あー…そうだな。2番目だ」
1番目は俺自身だからな。超能力が本当にあるのか半信半疑だった頃に連れてこられたのだからしょうがないだろう。あの時は一瞬で超能力を信じた。
「じゃ、じゃあ1番目は?」
「俺自身だな。あれはマジで死ぬかと思った。ちょっと皿が自分に向かって飛んでくるの想像してみるといい。保育園児にあれはない」
「ははは…」
「なんだよその呆れ顔」
「いや、君ってそんな風に話す人だったんだなって思ってね」
「うるせい。人見知りなんだよ」
「そっか…」
なんというか、忍とは仲良くやっていけそうな気がする。
初めて話したのがたったの4日前なのに、こんな風に話せる人って初めてだ。意外と気があうのかもしれない。いや、どちらかというと同じようなタイプの人間だから落ち着くて言うべきかな。
「あ、来た」
「へ?…わぁあ!」
「ははっ。驚きすぎだろ」
「…君の気持ちがよくわかったよ。これは怖いね」
「だろ?慣れるまでが大変だったわー」
飛んできた料理が机の上に並ぶのを眺めつつ、俺はぼんやりと初めて来た時を思い出した。普通の人はそんな小さい頃の記憶なんて覚えていないだろうけど、俺はその頃から今までずっと同じような精神で生きている。おかげでしっかりと覚えているのだ。
小さい体で亀さんがふざけて飛ばしていた箸に追い回されたっけな。…なんだろう、結構亀さんってひどい人じゃはないかって気がしてきた。そんなだからいつまでも結婚できないのだろう。
「そ、それで…朝の話って」
「ん?ああ、そうだった。まぁここに来てるってことは話は聞く気はあるんだよな?」
「う、うん。ヒーローをやらないか…だったよね?」
「おう。まぁヒーローって言ってもこの付近限定だけど」
「と、とりあえず…は、話を聞かせて、くれる?」
「もちろん。まず、守りたい人たちを守るならどうすればいいと思う?」
俺の考えを聞いて、同意してくれるようなら協力を頼もう。同意してくれないなら話を聞かなかったことにして帰ってもらう。もちろん口封じはする。
「え?そ、そうだね…安全な場所にいてもらうとか?」
「それも一理ある。だけど俺はそいつらに何もない普通の日常に生きてほしい。だから、そいつらを安全な場所に移動するのではなく、いる場所の方を安全にしようと思った。それで忍に話をしている」
「そ、そっか。確かに…うん。で、何をしたいの?」
「テロを未然に防ぐのを手伝ってほしい。忍の能力ならテロが起きる場所がわかる。俺ならそのテロが起きる前に止めることができる。いや、できる可能性がある」
「だから一緒にヒーローを…」
「そういうことだ。俺はもう二度とあんなことは起きて欲しくない。いや、ちょっと語弊があるな。あんなことに巻き込まれて欲しくない。だから、俺らで守らないか?」
「それって英雄軍に任せるのじゃダメなの?」
「ああ、ダメだ」
一月半いてわかった。英雄軍じゃ俺の守りたいものは守ってくれない。
英雄軍はテロが起きるまで何もできない場合がほとんどだ。テロが予測できる未来視の能力者は本部にはたったの18名しかおらず、テロを未然に防げるほどの能力者も足りていない。
「い、言い切ったね…」
「まぁちょっと前までそこにいたからな。わかるんだ。無理だってことが」
「い、いたの⁉︎」
「あれ?結構有名だろ?うちの父さん」
「え、あ、ああ。うん。それはそうだけど、いくらなんでも君を連れて行くなんて…」
「まぁ、将来的に英雄軍に入ることは確定してるからな」
帰り際に中学を卒業したら英雄軍に半強制的に所属されることが決まってるという通達をもらったからな。そういうのは先に言うべきだと思うが、まぁしょうがないとも思える。それにそっちの方が効率もいい。英雄軍への所属が認められるのは16歳以上だし、問題はない。入ったらまた冠と仲良くやろうと思っている。
「そ、そうなんだ…」
「そこでだ。入るまでの1年弱、一緒にヒーローやらないか?情報をくれるだけでもいい。俺に協力してくれ」
「…うん。わかったよ。こ、こんな僕でよければ協力する」
「本当に⁉︎マジで⁉︎」
「ほ、本当だから、ちょっ、ちょっと」
「あ…悪い。ちょっと興奮してた」
ものすごく体を乗り出して忍の目の前まで来ていた。
よかった。これで別の方法を考えずに済んだ。一応方法も1つは思い浮かんだのだが、それ以外思い浮かばず、断られたらどうしようか真剣に悩んでいたところだ。
「と、ところで、細かいことは考えてるの?」
「いや、これから。だってやろうと思ったのは結構前だけど、この方法考えたのって忍に初めて声かけた日だし」
「え、えぇ〜…」
忍ががっつり呆れた表情を俺に向ける。
別に無策だったわけではないのだ。そこそこは考えていたが、まだ細かいところまでは考えていなかっただけで。
これだけは言っておくが、方法についてはしっかりと吟味した。
「まぁとりあえず連絡先交換しないか?」
「え?あ、ああそうだね」
俺はポケットからスマホを取り出し、チャッターと書かれたアプリを起動。チャットを1つ作り、そこのパスを設定する。
「”ヒーローズ”って、ずいぶんと安直だね」
「そのくらい気楽な方がいいだろ?」
「どうせだからもっとかっこよくしようよ。なんかこう、もっとさ」
「お?意外と乗り気だな」
「君は僕がこういうのが好きっていうのは知っているでしょ?前に話したんだから」
「そうだな。じゃあ、とりあえず名前から始めるか」
「そうだね。あ、そうだ。どうせだし、連絡する時用にコードネームとかも考えない?」
「やっぱやる気満々だな?」
「うるさいよ。僕だって男の子なの」
こうして俺らのヒーロ作戦が幕を上げた。




