13.お世話になった
なんか随分と間が空いちゃってすみませぬ
「んじゃ、オレらは帰るか」
「わかった」
箱を引き渡し、能力干渉系の能力者が能力を封じたところで俺らは部屋から出て行った。
ここの能力者は”手錠をかけるなど対象の行動を封じた上で監視する”ことで能力が封じれるらしい。なんとも条件が厳しいと思う。実際はもうちょっと細かいらしいが、別に俺の能力じゃないし。第一俺の能力だってそこそこ駄能力に分類できると思う。
俺の能力、”原子創造”は物質の最小単位である原子を創造する能力。原子をしっかりと理解し、物質の構造を知っていないと物質として作り出せないような能力だ。つまりそこそこの知能がないと活用できないのである。前世で勉強しておいてよかったよ。こんなことに役立つなんて全く想像もしてなかったけどさ。
「…テメェは今日で帰んだよな?」
「うん。そうだな」
「ちょっと寄るぞ」
「いやどこにさ」
俺の質問に答えないまま冠は通路を歩いていく。ただ、何度か通った道なので向かっている先になにがあるのかはわかった。貸し出ししている倉庫だ。扉のロックを開き、さらにもう一度ロックを開く。
「よぉ、できてるか?」
「おうよ。俺をなんだと思ってんだ」
「ならいい。報酬はあれでいいんだろ?」
「おう」
冠は入り口近くにいる警備員のような人…最近初めて知ったが、グェン・ヴァン・ナムという名前でベトナム人だそうだ。歳は冠と同じらしい。
ということでナムはすぐそばの倉庫…そこが彼の住処なのだが、そこに入って紙袋を持ってきた。そして、その紙袋を冠に渡した。冠はそれと交換するようにローブのような服の中から1本のナイフを取り出して渡す。
「機会があればまた頼む」
「おう。待ってるな」
2人はその一言だけ交わし、冠はなにも言わずにそこから出る。そして、紙袋を持ったままいつもの訓練室に向かった。エレベーターに乗り、なにも言わずに訓練室まで降りる。
訓練室に入ったところで紙袋を地面に置き、訓練室の真ん中あたりまで移動したところで初めて冠が口を開いた。
「これが最後だ。オレを殺す気でかかってこい」
「最終試験みたいなやつか?」
「まぁそんなところだ。さっさと準備しろ」
「わかった…」
刀を抜いた冠を前にして、俺も剣を生み出して構えた。
慣れた手つきで冠が指でコインを弾く。くるくると回ってコインが重力に従い落ちていく。いつもと同じだ。毎日毎日繰り返されてきた光景。
カーン…と、コインが地面に当たった音がした。コインが床に当たって跳ね上がる。
瞬間、俺は剣を持っていない左腕を冠に向け、牽制にダイヤモンドの弾幕を張った。数mm程度の隙間しかないもはや銃弾のようなそれの大群は、俺を中心に展開されていく。キラキラと訓練室の光が反射しとてもきれいだ。
火花が散っているのが冠がこちらに近づいてきているのを認識させる。俺は火花の散る場所をよく観察して次に向かう可能性の高い場所めがけてとぶダイヤモンドの弾丸を砲丸へ大きさを変える。火花の飛ぶ感覚が少し広まる。おそらく一撃一撃が重くなったせいで弾くのが難しくなったのだろう。しかしそれでも俺の放つダイヤモンドは弾かれ続ける。
冠の声がボソッと聞こえた。
「…三重」
冠の能力”加速付与”には段階がある。いつもは”二重”で、すべての速度を2倍にあげる…のではなく、二乗する。それが三乗に上がったということだ。冠は”五重”まであると言っていたが、自分の体に被害なく使えるのは”三重”が限界だと言っていた。それ以上になると体がついていけず、一撃を振るうたびに筋肉がちぎれ、骨が砕け、皮膚が空気摩擦で焼け焦げる。
今までの倍以上の速度で火花が舞い散り、すでに俺の動体視力では見ることはおろか視界にとらえることすらもが難しくなっている。
ダイヤモンドの弾丸から降り注ぐ光が一瞬途絶え、刀が俺に向けて振り下ろされるのがわかった。
「マジでっ…殺す気かよっ!」
その場から後ろに飛びきながら剣を振って刀を弾く。キンッと高い音がして金属同士が触れ合う。
「ほお。これが弾けるか」
「まぁなっ!」
俺は左手を伸ばして冠からの攻撃が来た場所を中心に巨大な水晶(SiO2)の結晶を生み出す。次々に足場から結晶が生え、ダイヤモンドの弾幕と合わさり冠が再び俺から遠のいたのがわかった。
それにしても冠の速さは異常だ。俺がダイヤモンドの弾丸を一度に生み出して放てるのは60個程度が限界だ。それを拳ぐらいまで大きくしているのを放っているのに対し、冠は自分にあたるものだけを弾くとは言っても1秒に10個ぐらいはあってもおかしくないはずなのだ。さらに俺の一撃一撃は人が思いっきり殴るより相当重いはずなのに、それを避けて俺の場所にまで迫ってくるってかなりのものだと思う。
俺は絶えずダイヤモンドの弾幕を張り続けつつ、どうにか冠の残像を目で追う。攻撃は当たることなく決定打となるものがない。このままだとジリ貧になるのみだ。このままいけば確実に俺の方が先にオードが切れてしまう。
結果、再び冠の接近を許してしまう。刀が近づいてきたのがすれすれまで来て初めて見えた。
「どうした?その程度か?」
「まだ今日は…一撃ももらってないからなっ!」
俺は横に転がり、その一撃をギリギリでかわす。冠のいた方向にダイヤモンドを打ち込んで一度距離を取る。
「…やってみるか」
俺は左腕をあげて近くの地面にガラス(SiO2)で大量のビー玉を作って足場を奪う。それと同時に大量の砂鉄を生み出し、俺の周囲に散らす。
ビー玉が蹴り飛ばされ、砂鉄に人の動いた形跡が現れる。
「そこっ…!」
そこから先の動きを予測して剣を振るう。
…が、その剣は何にも当たることなく空振りする。俺の後ろの砂鉄が動くをの感じる。
「ぬるいわっ」
「かかった…!」
今の俺の攻撃はフェイク。本命はその隙を狙う攻撃の方だ。
頭上に黒曜石(SiO2)で矢尻を作り、その動いたものに向けて飛ばす。カンッと何度か火花が散り、全てが弾かれた。
だが、一瞬の隙は稼げた。俺はそのまま動きがあった場所から壁に向かって走り、それと同時に左腕をその動きがあった方向に向けてダイヤモンドで訓練室全体を俺の真後ろから2つに区切った。ダイヤモンドに向こう側から攻撃があったのを感じたのでうまくいったようだ。
「よっしゃ。うまくいった…!」
そのままダイヤモンドを冠がいる方に侵食させていき、向こう側を圧迫する。このままいけば向こうを押しつぶすことができる。
正直うまくいくかどうかは半々だった。初見でしか使えないような手だし、冠のいる場所が把握できなければ向こう側に追い出せなかった。隙を作るために砂鉄でタイミングをしっかりと取り、ビー玉で冠がダイヤモンドで区切り終えるまでの時間を稼ぐ。この作戦自体は結構前から冠を倒すために練り続けてきた作戦だ。一度見せれば次の対策が練られてしまうので、1回限りの作戦だったのだがうまくいってよかった。
そんなことを思いつつも、剣を構えてしっかりと冠がいると思われる方向を見る。ガンッ…!ガンッ…!と向こう側でダイヤモンドの壁に刀があたる音が響き渡っていた。
もしかしたら俺がダイヤモンドで向こうを侵食するよりも先に壁を破ってくるかもしれない。そんなことを思いつつ警戒を続ける。
『チッ…降参だ』
「よっしゃー!」
ヒヤヒヤしながら剣を構えていた俺だが、その声が聞こえて一気に気が抜けた。左腕を振って作った壁もろもろを消す。地面を埋め尽くしていたダイヤモンドの弾丸の残骸やビー玉や散らばっていた砂鉄や壁が一気に消えて視界がすっきりとした。
その消えた壁の向こう側の場所では、冠が少し悔しそうなそれでいて嬉しそうな顔で立っていた。冠はこちら側につかつかと歩いてくる。こころなしか軽快にも見える。
「…まぁまぁだな」
「いや、そこは褒めるところじゃない⁉︎」
「チッ…まぁいい。能力に頼っているところは多いが少なくともオレに勝ったんだ。よしとしてやるよ」
「はぁ」
「よく、頑張ったな」
「はぁ…へ?」
初めて冠に褒められた気がする。突然の言葉に驚きを隠せない。
俺がポカーンとしていると、冠の蹴りが飛んできた。痛い。なぜだ。
「なに訳がわからねぇとでも言いてぇような顔してやがる」
「いや、冠が俺にそんなこと言うの初めてだなって」
「るっせんだよテメェは。んなこたぁどうでもいい。こいつをやる」
「はぁ…?」
冠はさっき置いていた紙袋を俺に手渡してくれた。冠から何かを手渡されるのも初めてだな。いつもは投げ渡されるから。
そんなことを思いつつ紙袋の中身を取り出してみる。そこには黒に黄色いラインの入ったローブ…まるで冠のそれに黄色の電子回路のようなラインを入れたものが入っていた。
「そいつはナムが作った特注品だ。あいつの能力は”繊維創造・操作”っつう能力で、ちょっとやそっとの攻撃は通らねぇようにできている。まぁ大事に使えよ…?」
「ありがとう…」
俺は冠に認められたような気がしてちょっと嬉しかった。早速そのローブを取り出し、袖を通す。ついでに表面化反射するぐらい表面が綺麗な鉄を作り、鏡にしてその前に立つ。
そのローブは全体が吸い込まれるような綺麗な黒で、そこに黄色いラインが走る。こうやってみると黒の下地と対照的な明るい黄色いラインが映えてかなりかっこいい。雷をイメージさせるような感じだ。それに袖もよくゲームに出てくるような魔法使いが着ているようなダボダボなものではなく、ほっそりとしていて動きの邪魔にもならないスタイリッシュな感じだ。
それに冠が着ているのが真っ黒なせいかもしれないが、死神みたいな雰囲気は放っていない。むしろゲームとかのキャラクターとして出てきそうな感じだ。
「いつまでそうしてるつもりだ?」
「あ、うん。わるい。なんか嬉しくって」
「…そうか」
冠が俺から顔を背けた。その顔は一瞬しか見えなかったが、まんざらでもなさそうだった。照れ隠しなのか、頬を掻いている。
俺はそのまま少し動いてみる。走り、ジャンプし、剣を振り、歩き、飛び退き…訓練室内をはしゃぐ子供のように駆けずり回った。動きも阻害していないし、着心地もいい。冠には感謝しないとだな。
しばらく着ている時の動きを確かめ、その後冠の目の前まで戻ってきた。
「満足したか?」
「あ、うん」
「そうか。ならいい。行くぞ」
「へ?どこに?」
「なんだ?テメェは帰らねぇのか?いや、俺からすりゃあいてくれた方が便利だがよ」
「ああー。そう言えばそうだった」
浮かれていてすっかりと忘れていた。今日は家に帰る日だ。荷物は財布とスマホ、それからこの服とよく訓練中に着ていた作業服みたいな服しかないが、今のうちに片付けておくべきだろう。それに数人程度だけどお世話になった人にも挨拶はしておきたい。
「テメェはアホか…」
「いや、ちょっとひどくね⁉︎」
それだけ呟くと冠はエレベーターの扉を開いて中に乗ってしまった。俺も閉められる前に乗る。前に一度だけあったのだが、置いて行かれた時は俺では開けることができず空腹のまま暫く放置されることとなったのだ。まぁ、病室よりはずいぶんとマシだとは思ったが。
ウィー…と機械音がしてエレベーターは上に上がっていく。
エレベーターから降り、俺の部屋まで行くまで俺らは一言も話すことはなかった。
「…じゃあ、ありがとう。世話になった」
「ああ、まったくだ。元気でやれよ」
それだけ言うと、冠は俺の部屋から出て行った。
俺は冠にもらったローブを紙袋にしまい、ここで着ていた作業着もどきも同じように紙袋にしまい、財布とスマホをバッグに入れて背負う。ついでに部屋のベッドのシーツや掛け布団も綺麗に直し、俺が来る前のように綺麗な状態にした。
「よし…こんなものか」
一通り片付けると、俺は部屋を出る。
それから、世話になった少ない人達にお礼を言い、英雄軍の本部に別れを告げた。




