12.面倒で簡単な仕事
どうもお久しぶりです。
受験勉強がやりたくない一般人です。
「よし。ここまでだな」
「はぁ…はぁ…疲れたー」
冠と撃ち合っていた俺は地面に座り込み、手に持っている剣を消す。
俺が冠に鍛えられ始めて早くも1ヶ月と少しが経った。最近は早速訓練という域ではない一方的な暴力からやっと脱せたところだ。能力を使用した状態での戦闘は相変わらずしょっちゅう蹴り飛ばされるが、それでも回数はかなり減った。大体1回の戦闘約15分程度で今まではもはや秒刻みで蹴り飛ばされていたのに対し、せいぜい4,5回程度まで収まるようになった。それに殺してもいいと言うなら俺はすでに勝つこともできるようになっている。
実際これはわりとすごいことなのだ。最近初めて知ったのだがこの英雄軍内で冠には片手で数えきれるほどしか上がいない。この英雄軍内でほとんどトップなのだ。俺の父さんよりも強かった。そのくせ命令違反だとか色々と軍規に関わるようなことをしでかすせいで位がいつまでも上がらないのだそうだ。実質ほとんど最強。本当に馬鹿だと思う。
「休んだら出るぞ」
「また?」
「当然だ。その方が効率がいい。何よりオレが儲かる」
「俺にもその報酬分けろよ」
「ヒッヒッヒ…誰がテメェなんぞにくれてやるか」
ここのところは午前中訓練をこなし、午後は指名命令があればそれを、なければどこかの隊に入れてもらって一緒に見回りやアジトに潜入などそういったことをこなす。どこにも仕事がない時はさすがにないので、一番楽なのは見回り。一番面倒なのは指名命令でのアジトの制圧だ。冠は英雄軍内でも結構嫌われ者だったりするので面倒な仕事が回ってくることが多い。ちなみにカードにやった仕事が記録され、それに応じて月給が変わるとかなんとか。俺のやった記録はそのまま冠の記録扱いなので報酬はない。まぁ、大量の貯金はあるのだが、それとこれとは別なのだ。タダ働きというのはやはりちょっと…
「よし、行くぞ。今日は朝指名が入ってるからそれだ」
「え?マジで?いつの間に」
「テメェが剣の調整やってる間だ。わかったらさっさと行くぞ」
「わかった…」
今日はハズレだったようだ。まぁ、あと2日で俺は学校が始まるから実質今日で訓練は最後。最後の試験みたいな感覚で頑張るとしよう。
俺はゆらゆらと揺れている黒いローブみたいな物の後を追う。やはり冠の見た目はラスボスだと思う。裾のあたりが擦り切れているせいでボロボロな真っ黒いローブ。顔には大きな切り傷。どう見たって悪役。しかもラスボスとかで出てくるようなやつだろ。それなのに英雄軍にいるという不思議さだ。
「んで、今日もテメェか?レイヴィス」
「そうだねぇ。やぁ、彼方くん」
「どーもです」
俺は軽く頭を下げ、首から下げるカードを置く。
レイヴィスが冠の腕を持ち、冠が俺の腕を掴んだ。瞬間視界が切り替わる。
そこは太陽が少し傾きだしたビル街…あれ? 見覚えが。というか俺の家の近くだ。俺の家は新宿区の北新宿あたり。言っておくが生憎ながら俺の前の世界の北新宿とは全く異なる。この辺りは第三次世界大戦によって酷い被害を受けた場所で、俺が生まれる数十年前までは更地になっていたくらいだ。おかげで俺の知る地形とは全く異なっている。今は数十年の時を経て綺麗に復興され普通に都心ながらの活気ある状態にもどっているが、未だに所々に戦争の傷跡が残っている。
いや、そうじゃなかった。なんでここに来ているのだ?
「で、俺らは何をするの?」
「捜索と見回りだ」
「捜索?なんの?」
「テメェの事件、あれの関係者がこの辺にいるっつう情報だ。そいつを探せとよ」
「俺らたったの2人で?こういうのって普通は人海戦術でやるようなものじゃなかった?」
「今回は僕もだねぇ」
「じゃあ3人…って、それでもそんなに変わらなくない⁉︎」
「いちいちうるっせぇな。英雄軍は辞任不足なんだよ。知ってんだろうが」
「いや、でもさすがに…」
「今僕ら以外で太刀打ちできそうな戦力がいないからねぇ。まぁ」
俺はあの時の事件で受けた被害から考えてこの人数で立ち向かうのは無理だと思うのだ。確かに俺も英雄軍内でもそこそこ強いし、冠に至っては言わずもなのだが、それでも無理ってものだろう。どう頑張ってもこんな広い場所からたったの3人で探すなんてことはできないのが普通だ。例え人相がわかっていたとしても数千人もいる中から探せというのもおかしな話だ。
「もしかして、本命は違うんじゃないの?」
「ほお。例えばなんだ?」
「テロが予測されてて、その起こった場所に即座に向かうとか」
この世界には”未来視”みたいな能力者だっている。それがこの近くでのテロを予知したので即座に現場に向かうためと考えたほうがつじつまが合う。実際無理難題を押し付けられているのだ。明らかに不自然だ。
「探索と見回りだからな。ありえなくはねぇ」
「だろ?それならレヴィスがいる理由だってわかる。そこから空間転移して行けってことでしょ?」
「確かに可能だねぇ…」
「んなこと今は置いとけ。さっさと始めんぞ…ま、緊急時のために備えるぐらいはするがな」
「あははっ。素直じゃないなぁ〜。男な上に強面なツンデレなんて需要ないよ?」
「…るっせぇ」
そこまで考えていなかったのだろう。冠が誤魔化すように歩き出した。俺もそれについて歩き出す…というか、この辺なら俺のほうが地理に明るいので俺が先頭のほうがいいと思う。
そんなことを思いつつ飲食店の立ち並ぶ通りを歩いていく。そういえば最近まともな食事をとった覚えがないな。朝食、昼食は冠が投げよこすおにぎり。しかもいつも中身がシャケ。夕食に至っては疲れ切っててそのまま寝てしまうから食べないことのほうが多い。まったく、実に不健康な生活だよな。
「そういえばレイヴィスって、日本語うまいよな」
「ああ、僕は能力上いろんな場所に行くからねぇ〜。一応7ヶ国語がしゃべれるよ」
「へ、へぇ…なにそれすごい」
「あははっ。まぁ、必要に駆られて覚えただけなんだけどねぇ〜。随分前にドイツ語が喋れないままドイツに行ったら不審者扱いされたよ。ま、突然現れたら驚かれるよねぇ。味方が来てくれてどうにか助かったけど、あの時は本当に捕まるんじゃないかって思ったよ。なにせいきなり能力者に襲われそうになったからねぇ」
「それって結構一大事だったんじゃ…」
俺らは冠に続いてただ歩き続けている。さっきから時折冠が紙を取り出して確認しているので、目的地があるのだと覆う。やっぱり俺が案内したほうが早くないかな?
ちょうどそんな時、俺の予想は的中した。視界の端に黒煙が上がったのが見えた。結構近くなのか、悲鳴まで聞こえてくる。
「チッ…テメェの予想が当たっちまったな」
「だな。当たらないで欲しかったよ」
「おいレイヴィス。あの辺まで空間転移しろ」
「わかったよ」
俺らはレイヴィスに触れ、そして視界が切り替わった。空気が冷たい。足は宙に浮いている。俺らは重力に従って落ちる。
つまり空中に空間転移したのであった。そして再び視界が切り替わり地面に足がついた。
「テメェ…」
「いや、だってしょうがないでしょ?いきなり転移してもそこがどうなってるかわからないんだよ?いきなり火の中に転移したかったって言うなら話は別なんだけどさぁ」
「冠、とりあえず今はそんな場合じゃなさそうだ」
「のようだな…とりあえず面倒だ。火を消せ」
「わかった」
目の前にはファッションビルが炎上しているのが見えている。30階建てくらいのビルだ。窓が割れ、激しい炎が窓から吹き出している。おそらく能力者によるものだろう。
俺は左腕をビルに向け、手を握る。次の瞬間には火が消えた。ビル周辺に二酸化炭素(CO2)を創造した。火が消えた瞬間に消したので中の人にも被害はないはずだ。
俺らは少し焦げたビルの中に入っていく。
「テメェは後ろを警戒しろ」
「わかった。前は任せる」
俺は普段通りに冠と周囲を警戒しながら内部を進む。俺はエメラルドのカラスを飛ばし、周囲の状況を確認しながらビルの内部を捜索する。生存者はこの際は放置だ。瓦礫なんかで埋まっている場合は救助するが、それ以外は自力で逃げてもらう。人数の足りない俺らでは対処しきれない。
止まっているエスカレーターを上り、結局22階まで上ったところで敵と遭遇した。後ろ姿からでも確認できる銀色の仮面と黒いマント。リベラリズムだ。
「冠、どうする?」
「テメェがやれ。オレは警戒を続ける」
「わかった。すぐに終わらせる」
俺らの小さいながらも話す声に気がついたようで、その仮面をつけた人物がこちらを向いた。マントの中の
体が見えた。男子の学生服…確か隣の区にある高校のものだったはずだ。その人物が俺らのほうを見たと同時に目の前に火が発生した。俺は左腕を上げてそれをさっきと同じ方法で消す。再び腕を向けて砂鉄を創造、そして口から内部に侵入する。肺と胃のあたりで構成を変えて鉄にし、刃となって内部からその人物の体を食い破る。その人物は何かをしようと俺の方を向いたが、そのまま息絶え地面に倒れこんだ。
「終わった」
「よし。進むぞ」
「うわぁ…えげつない。いったい何をしたのやら」
言われてみれば確かにえげつない。体から刃が生えている状態なのである。
再びエスカレーターを上り、最上階まで上がった。
「誰もいねぇな」
「だな。あいつだけだった?」
「んなわけあるか。リベラリズムは最低二人組で行動すんのが定石だ」
「だよな」
リベラリズムは最低でも二人以上のペアで行動している。それなのに1人しかビル内にいないというのは不自然だ。そう思ったところで隣にあったビルの根元が突如爆発し、倒れ始める。
どうやらこっちは囮だったようだ。そんなことを考えつつ俺は左腕をその倒れ始めたビルに向け、鉄を生み出して倒れ始めたビルを植物の支柱のような感じに支える。ビルが少しずれた状態で鉄の柱に絡まって止まった。
「移動しろ」
「全く人使いが荒いなぁ」
俺らはレイヴィスに掴まって、視界が変わった。
地面には少し瓦礫が撒き散らされているが、俺の作った柱のおかげでそこまで被害は出ていないようだ。それでも多少の被害者はいるので、崩れた瓦礫の下敷きになっている人を助けようとしたところで英雄軍がやってきた。今更だと思うが、それでも人手があるのは助かる。
「あっちは任せるぞ。オレらはもう片方のやつを探し出す」
「わかってる」
そうは言ったもののもう片方を探すのはかなり困難だ。崩れるとわかっているビル内に入るとは思えないのでこの周辺の人混みの中にいる、もしくは野次馬に紛れて既に逃げているのだから。
そんなことを俺が考えている間に冠が1人の男を指差した。
「あいつだな」
「ほんとよくわかるね…」
「動きを見りゃわかる。あいつだけパニックになってねぇ」
そう言われて冠が指差した男の様子を見れば、確かに全くこの自体に動じていないように見える。長年の勘というやつなのだろうか?冠はよくそうやって敵を見つける。俺らはいつでも攻撃ができるように構えつつ、その男にそっと近づく。
その男のかなり近く、手を伸ばせば届きそうなくらいの距離まで来たところで不意に男がこっちを向き、俺らに気がついた。そして、冠を見てあからさまにまずいといったような表情を浮かべた。そしてつぶやいた。
「きき聞いてねぇ…死神がいるなんざ聞いてねぇぞ、くそっ…」
そう言うと全速力で逃げ出した。
「あ、逃げた」
「まぁ確定だな。オレを死神なんつう通り名で呼ぶんはリベラリズムの連中しかいねぇからよぉ」
「じゃあ捕まえるか」
俺は左腕を上げてその男を鉄の箱に閉じ込める。相当密度を上げて作ったので、逃げるのはまず無理だろう。さて、じゃあこいつをどうしようか?能力は自分の知覚している範囲内じゃないと使えないので今は能力が使えないだろうし、このまま英雄軍に引き渡してやろうか?
「で、どうすればいい?」
「なにがだ?」
「捕まえたけど、尋問とか軍に引き渡すとか。一応持ち物から仮面とかが出て来れば確定だけど、今の所確証はないわけだろ?殺すのはまずくない?」
「ああ、そうだな…レイヴィスに運ばせるか。能力干渉系のやつがうちにいたはずだ。そいつに封じさせて聞きだしゃあいいだろ」
「あ、いたんだ」
能力干渉系っていうのは能力者の能力を使えなくするものだ。ただこれは大抵が駄能力で、触れ続けていないと効力が発揮されないだとか、1m以上離れてはいけないだとか、色々と制限が多いのが多い。そのため駄能力に分類されている。
使えないわけではないが、制限が大きすぎて使い物にならないのがその理由だ。
俺らはレイヴィスに触れて、箱もろとも本部に戻った。




