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P  作者: R-N
5/8

─黒蜚蠊─

『

 真黒に身を包む彼は、紳士の様装で、穏やかに佇んでいる。控え目でありながら、忘れる事の出来ぬその存在は、巷に溢れている執事にも似ている気がする。


 薄い肉付きがそう私に思わせるのだろうか。



 礼服に隠された彼の腹の濃い体毛は、男のフェロモンを強く意識させ、私を官能させた。

 逞しい上腕からすらりと伸びる手。腕に生えている剛毛すら、鋭く美しさを讃える。大腿から伸びる足もまた同様に、密な剛毛に縁取られ、輝きを放っている。


 黒々と光る腕。そして脚。



 服従を示すかのようにかしずく彼。私はその体を串刺しにした。

 手足を震わせ、ばたつかせる。呻くようにもがき、それでも絶える事のない生命力は流石だ。


 彼の下腹部から流れる濃密で白く粘る液は、何処となく甘い匂いがした。

        』









 ノートに書かれた文面を読んで、教授はほんのりと頬を紅潮させた。

 うっとりと空で想いを馳せる姿は、まるで初潮を迎える前の夢見がちな少女のようだ。




 在る意味不気味な教授のその様子に、誰しもが退くなか、杉原女史はただ一人、凛と立ち向かって訊ねた。

「教授、何を御覧になっていらっしゃる…のですか。」

…振り向き様の教授の顔が萌え過ぎて、返って恐ろしい。

「ああ、杉原くんか。君も読んでみるかい、我がハニーが書いてくれた考察だ。」


 敢えて、何の考察かは聞かずにノートを手にした。その書かれた頁を開きつつ、ゴクリと息を飲む。


「私ならさしずめ、こう書くかな。」

 一人ごちに呟きつつ、思いに耽る教授の横顔には、最早誰にも立ち入る事が出来ない領域であった。









 『 彼女は、黒いドレスを纏っている。


 その大きな瞳は、小さな顔とは対照的だ。見つめるだけで吸い込まれそうな、不思議な魅力が、彼女の瞳に宿っているようにさえ思う。

 長い下睫毛が彼女の眼をトロンとさせ、広いおでこと相まって、少し気だるげな少女の印象も持たせていた。

 細く締まった足首とは対照的な、豊満な太腿。常に広げられたその脚は、私をイケない愛の輪舞へ誘い込もうとしているのか。


 私はスレンダーな彼女の胸に目をやった。

 薄いベールを脱いだら純白になるという、彼女の姿はまだ見た事が無い。が、その名残だろうか。

 腕の付け根を目印に、胸元から覗く白い肌が、黒を基調とした彼女の容貌に相反し、惹き付けられる。



 つと、彼女が笑った。


 妖艶な笑みを浮かべる彼女の口元の、鋭い牙を目の当たりにし、私の身体は武者震いを覚えた。

 彼女のその牙が、私の躯に突き刺さればどうなるのだろう。

 じん麻疹が起こり、痺れが身体を突き抜け、私の肉体に彼女の接吻の痕が赤く、刻み込まれるのだ。


 ああ、駄目だ。私には愛しいハニーがいるというのに。君の愛には応えられない─

        』









 脇で悶え喘ぐ教授の痴態を他所に、ピタリと動きを止め、暫し後にノートを閉じた杉原女史は、何も言わず、無表情のまま俯き加減に部屋を出ていった。




その後、構内に響き渡った杉原女史の絶叫は、その夏の間の怪談として、長く語り継がれたとも…云われる。



─黒ゴキブリの章 完─


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