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P  作者: R-N
4/8

─蛞蝓─

『   ○月×日


 今日は、部屋には誰も居ない。私一人だ。

 勿論、邪魔する者も居ない。

 私は息を殺し、隙間から彼女を伺い見た。



 ぬめりを帯びた肉体を、床にのた打たせ、じわり、じわりと進みゆく。

 彼女の匂い立つ様な、湿り気を感じながら、私は身体を熱くしていた。


 てらてらと光を放つ、這い擦った跡があまりに淫靡で、私の興奮は今やMAXだ。

 緩慢なその仕草は、肉の熟れた体を私に魅せて、怠惰に誘いを掛けているようだ。


 はち切れんばかりの肉体が、目の前をゆっくりと横切る。




 我慢出来ずに伸ばした私の指先を、包み込むかのように、纏わり付いてくる彼女の体。


 ねっとりと皮膚に張り付く彼女の肉の味。



 ああ、この…微妙な締め付けるような感触がたまらない。

     』














「何やってるんですか、教授。」

「おをわ!?どどどどうしたんだね!?杉原くん」


 杉原女史は、教授の手の上のナメクジを見るや否や、手持ちのピンセットでそれを摘まむと、素早く塩壺の中に投げ捨てた。

「…っ!?!!ぁっ!!!!」

 声にならない叫びを上げて、塩の壺を覗き込む教授に、彼女は何事もなかったかのように、催促する。

「早くしてください。ゼミの連中が待ちくたびれていますよ。」


 未だショックから立ち直れずにいる教授を他所に、机に置かれてあるプラスチック製の飼育ケースを手に取ると、汚れ具合を確認した。

 ケースはナメクジの這い回った跡で一杯だ。


「教授、これも洗っておきますから。」

 早く来てくださいよ。と催促の言葉だけ残して、杉原女史は去っていった。














 ああ…あんなにきつく締め付けられて、さぞや痛かったろうに…苦しかったろうに。

 私の胸の内は彼女の悶絶を想像し、張り裂けんばかりに痛んだ。

 壺の中では水分が抜けて小さくなった幾つかのナメクジが、コロコロ転がっている。

 私はそっと、それらを一つずつ、丁寧に拾い上げ、水で洗ってやった。

 暫くすると、きっと元気に、辺りを這い回り始めるだろう。

…良かったな。元通りに戻る事が出来て。




 私は先程の彼女をそっと拾い上げ、植木鉢の下へと置いてやった。

 其処には鉤状の頭を持つヒルがたむろしている。


  仲良くして貰うんだぞ。

 願いを込めて、私も部屋を後にした。







 植木鉢の下は程好く湿っており、ナメクジには絶好の棲みかだ。

 そして捕食者であるヒルの棲みかでもある。

 ナメクジを主食とするヒルの特徴は、頭の形が鉤状になっている事だ。


 ナメクジの、その後を知る者は、誰も居ない。全ては神のみぞ…………………………。



─ナメクジの章 完─



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