王宮のティーパーティーと、計算された第一印象
帝国歴412年、春。
王宮に併設された広大なローズガーデンでは、百花繚乱の美しい花々が咲き乱れ、甘い香りが春の風に乗って漂っていた。
今日は、王族と高位貴族の令嬢や子息たちが集う、月に一度のティーパーティーの日である。
色とりどりのパステルカラーのドレスを着飾った令嬢たちが、あちらこちらで優雅に紅茶を傾け、談笑に花を咲かせていた。
「セレスティア・フォン・ローゼンバーグ公爵令嬢、ご到着です」
案内役の従者が私の名前を高らかに読み上げると、ガーデンにいた人々の視線が一斉にエントランスへと注がれた。
私は背筋をピンと伸ばし、堂々とした足取りで庭園へと足を踏み入れた。
春の陽光の下、真紅のシルクドレスは燃えるような輝きを放ち、銀色の長い髪は光を反射してキラキラと揺れる。
瞬間、ティーパーティーの会場が水を打ったように静まり返り、次いで、ざわめきが波のように広がっていった。
「あ、あの方が、ローゼンバーグ公爵令嬢……?」
「なんという美しさ……まるで女神のようだわ」
「でも、噂では継母にいじめられて、いつもボロボロの古着を着ていると聞いていたけれど……?」
「あの気高い振る舞いを見て。どう見ても、非の打ち所のない完璧な公爵令嬢じゃないの」
周囲の貴族たちの囁き声が、私の耳にもしっかりと届く。
前回の人生では、私はここでマーサに押し付けられたサイズの合わない若草色のドレスを着て、俯きながらオドオドと歩いていた。
その結果、「公爵令嬢の自覚がない」「惨めな娘」というレッテルを貼られ、孤立してしまったのだ。
しかし、今は違う。
私は前世で培った「堂々と見せる歩き方」と「相手を惹きつける視線の配り方」を駆使し、周囲に最高の第一印象を植え付けていく。
ビジネスにおいて、第一印象は開始三秒で決まり、その後の関係性を大きく左右する。
ここで「気高く、美しく、隙のない公爵令嬢」というブランディングを確立しておけば、今後の私の発言力は劇的に向上するのだ。
何人かの令嬢たちが、興味津々な様子で私に話しかけようと近づいてきた。
私は完璧な笑みを浮かべ、誰に対しても礼儀正しく、かつ知的な会話で応じた。
流行の劇の話題から、帝国の経済状況に至るまで、前世の記憶と今世の知識を織り交ぜた私の話術に、令嬢たちはすっかり魅了されていった。
「セレスティア様って、噂とは全く違うのね」
「ええ、とても聡明で、素敵なお方だわ」
よし。
これで会場の空気は、完全に私の味方になった。
下準備は万全だ。




