御前会議と、蘇った二人
その頃、王都の王宮にある大円卓会議室では、国王陛下と高位貴族たちが集まり、重苦しい空気の中で「御前会議」が開かれていた。
「……陛下。西部に向かったアレクシス殿下とセレスティア令嬢の馬車が、未だに帰還しておりません。途中のガルディア渓谷付近で、野盗の襲撃に遭い、命を落とされたという噂が流れております」
仰々しく悲痛な顔を作ってそう報告したのは、丸々と太った旧守派の筆頭、ヴォルグ侯爵だった。
国王陛下は深く頭を抱え、苦悩の表情を浮かべている。
「おお、アレクシス……! 西部の民を救い、国に多大な貢献をしてくれたというのに……なんという悲劇だ」
「誠に痛ましいことにございます。しかし陛下、悲しんでばかりはいられません。王位継承権を持つ殿下が不在となった今、国を安定させるためにも、北方に追放したレオンハルト殿下を呼び戻し、再び王太子に据えるべきかと存じます。あの若き過ちなど、もはや些末なこと!」
ヴォルグ侯爵が熱弁を振るうと、彼に買収されている旧守派の貴族たちも「その通りだ!」「国を率いるのはレオンハルト殿下しかいない!」と一斉に同調し始めた。
彼らにとって、頭の切れるアレクシス殿下は邪魔な存在でしかない。
操り人形として扱いやすい無能なレオンハルトをトップに戻し、再び自分たちが甘い汁を吸うこと。
それが彼らの狙いだった。
「だ、だが、レオンハルトは生誕祭で取り返しのつかない罪を犯したのだぞ……?」
国王陛下が躊躇いを見せた、その瞬間。
バァーンッ!!!
会議室の重厚な扉が、両側から勢いよく蹴り開けられた。
「おや。誰が『命を落とした』ですって?」
室内に響き渡ったのは、鈴を転がすような、しかし絶対的な威厳に満ちた私の声だった。
そして私の隣には、群青色の軍服に身を包み、王者としての圧倒的な覇気を放つアレクシス殿下が堂々と立っている。
「なっ……!? ア、アレクシス殿下!? それに、セレスティア令嬢……!?」
まるで幽霊でも見たかのように、ヴォルグ侯爵が目玉を飛び出させて後ずさった。
彼の取り巻きの貴族たちも、信じられないものを見る顔で言葉を失っている。
「ち、父上! ただいま帰還いたしました。西部の農業改革プロジェクト、完璧に完遂いたしましたぞ」
「おお! アレクシス、セレスティア嬢! 無事であったか!!」
国王陛下は立ち上がり、目に涙を浮かべて喜んだ。
私は優雅にカーテシー(淑女の挨拶)をしてから、顔面蒼白で震えているヴォルグ侯爵の方へゆっくりと歩み寄った。
「ええ、陛下。少しばかり『野良犬(暗殺者)』に吠えられはしましたが、殿下がすべて追い払ってくださいましたので、傷一つなく無事に帰還いたしました。……ねえ、ヴォルグ侯爵?」
「ひっ……!」
「侯爵は随分と情報が早いようですね。私たちが襲撃されたことなど、王宮にはまだ誰も報告していないはずですが。なぜ、あなたが知っていたのですか?」
論理的な矛盾を突かれ、侯爵は大量の冷や汗を流しながら口をパクパクとさせた。
「そ、それは……風の噂で、耳にしただけで……!」
「嘘ですね」
私は容赦なく、彼を追い詰める。コンサルタントの追及に、慈悲など一切ない。
「あなたは私たちが野盗に襲われたのではなく、あなたが雇った『暗殺ギルド』に殺されたと確信していた。だからこそ、こんなにも早くレオンハルト殿下の復権を提案できたのでしょう?」
「で、でたらめだ! 王族暗殺などという大罪、この私が企てるはずがない! 証拠があるのか、証拠が!」
ギャーギャーと喚き散らす侯爵。
私は「待ってました」とばかりに、美しいビジネススマイルを浮かべ、ドレスの隠しポケットから一つの「青い魔石」を取り出した。




