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次期国王の汗と、芽吹く大地

翌日から、西部の地はまるで別世界のように活気づいた。


没収したバルガス子爵の財産を使って近隣の都市から大量の食料を買い付け、まずは農民たちの体力を回復させた(適切な栄養補給は、労働生産性を高めるための必須条件だ)。


そして始まったのが、畑への「点滴灌漑システム」の構築である。


ここで、アレクシス殿下の力が爆発的に機能した。


「ふっ……はあぁっ!!」


アレクシス殿下が剣の柄を大地に突き立て、高度な「土魔法」を発動させると、固く干上がった赤茶色の地面が、まるで生き物のように蠢き、畑全体に規則正しい細い溝(水路)が一瞬にして形成されていく。


「す、すげえ……! 村の男たちが十日がかりで掘る溝を、たった一瞬で……!」


「殿下! 水魔石の設置、終わりました!」


「よし、ご苦労! 次の畑へ向かうぞ!」


アレクシス殿下は、豪華な王族の衣装ではなく、農民と同じような粗末な麻の服を着て、泥にまみれながら先頭に立って作業を指揮していた。


自らの魔法を惜しげもなく民のために使い、誰よりも大声を出して現場を引っ張る。


その姿は、かつての無能なレオンハルト元王太子――土で靴が汚れるだけでヒステリーを起こしていた男――とは、雲泥の差だった。


「やはり、彼に投資(ベット)した私の目に狂いはなかったわね」


私は日傘を差しながら、少し離れた丘の上からその様子を視察し、満足げに微笑んでいた。


私が担当するのは、全体の進捗管理(プロジェクト・マネジメント)と、資金繰り、そして必要な物資の調達ルートの確保(サプライチェーンの構築)だ。


肉体労働は殿下と民衆に任せ、私は脳髄をフル回転させて後方支援を完璧にこなす。


まさに、理想的な「共同経営(パートナーシップ)」である。


数週間後。


私たちが構築した新しい農業システムは、劇的な成果(アウトプット)を生み出した。


枯れ果てていた赤茶色の大地に、見渡す限りの鮮やかな「緑色の若葉」が芽吹いたのだ。


水魔石による効率的な水分補給と、干ばつに強いポム芋の生命力が合わさり、西部の地はかつての「穀倉地帯」としての輝きを取り戻しつつあった。


「セレスティア様! 見てください、こんなに立派な葉が……! これなら、冬を越すのに十分な収穫が見込めます!」


泥だらけの顔に満面の笑みを浮かべた農民たちが、私とアレクシス殿下の周りに集まり、歓喜の声を上げていた。


「ええ、皆さん。本当によく頑張ってくれましたわ。でも、まだ油断は禁物です。収穫まで、マニュアル通りに水分の管理を徹底してくださいね」


「はいっ!!」


農民たちが畑に戻っていくのを見送った後、隣に立っていたアレクシス殿下が、ふぅっと大きな息を吐きながら私の隣に並んだ。


彼の顔も、服も、すっかり泥だらけだ。


「お疲れ様です、殿下。現場の責任者(プロジェクトリーダー)として、百点満点の働きでしたわよ」


私がハンカチを差し出すと、彼はそれを受け取り、顔の泥を拭いながらふっと笑った。


「お前の立てた計画が完璧だったからだ、セレスティア。俺はただ、言われた通りに魔法を使って土を掘っただけだ」


「ご謙遜を。民衆は、私が引いた図面ではなく、あなたの流した『汗』に心を打たれたのです。……これで、西部の民の心は完全に殿下のものになりましたわね」


私の言葉に、アレクシス殿下は丘の上から見下ろす緑の畑と、笑顔で働く民衆の姿を愛おしそうに見つめた。


「ああ。……俺は今まで、王族という身分を疎ましく思い、誰の目にも触れない日陰で生きるのが一番だと思っていた。だが」


彼は振り返り、その真っ直ぐな氷水色の瞳で私を見つめた。


「お前が俺を表舞台に引きずり出してくれたおかげで、初めて『力を使うことの喜び』を知った。民が笑ってくれること、国が豊かになっていくことが、こんなにも誇らしいことだとはな」


その顔には、かつての王宮で見せていた冷たい警戒心はもう無い。


そこにあるのは、国を背負う者としての覚悟と、私に対する深い信頼だった。


「……私のコンサルティングが、殿下のご期待に添えたようで何よりですわ」


私は照れ隠しに扇子で口元を覆い、前世のビジネススマイルではなく、今世のセレスティアとしての「心からの笑顔」を向けた。


ただの復讐(ざまぁ)から始まったこの計画。


けれど今は、この国を最高の形にプロデュースすることが、私自身の純粋な喜びになりつつあった。

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