現代知識(イノベーション)と魔法の融合
バルガス子爵を拘束し、館を接収した私たちは、すぐに周辺の村々から村長たちを集め、緊急の対策会議を開いた。
「皆の者、よく集まってくれた。俺が第2王子、アレクシス・フォン・グランツだ。バルガス子爵の悪政は俺が裁いた。これからは、俺とローゼンバーグ公爵令嬢が、この地の復興の指揮を執る」
アレクシス殿下が堂々と宣言すると、疲れ切っていた村長たちの目に、わずかな驚きと期待の色が浮かんだ。
しかし、それでも「干ばつ」という根本的な問題が解決したわけではない。
「殿下……子爵を捕らえてくださったことには深く感謝いたします。ですが、この干上がった大地では、もう小麦は育ちません。私たちには、飢え死にする未来しか……」
一人の村長が絶望的な声で呟くと、他の者たちも悲痛な顔で頷いた。
私は立ち上がり、大きなテーブルの上に一枚の図面(青写真)を広げた。
「ご安心ください。そのために、私たちが『新しい農業の仕組み(ビジネスモデル)』を持ってきたのです」
私は村長たちに図面を見せながら、前世の現代日本の知識をベースにした改革案のプレゼンテーションを開始した。
「まず、水が大量に必要な小麦の栽培は、当分の間中止します。代わりに、この乾燥した土地でも育ちやすい『ポム芋』と『乾燥大豆』の栽培に切り替えます。そして、土地の栄養を枯渇させないために、三つの畑を順番に回して栽培する『輪作』という手法を導入しますわ」
これは、近代農業の基礎である「ノーフォーク農法」を応用したものだ。
同じ作物を作り続けて土地が痩せる連作障害を防ぎ、干ばつに強い作物を植えることで、確実な収穫を得る。
「し、しかしセレスティア様。いくら乾燥に強い芋でも、最低限の水は必要です。川はすでに枯れてしまっていますが……」
「その水問題を解決するのが、アレクシス殿下の『魔法』と、私が用意した『魔道具』ですわ」
私は懐から、手のひらサイズの青い石を取り出した。公爵家の資金を注ぎ込んで大量に買い付けた「水魔石」だ。
「村の畑全体に、等間隔で細い溝を掘り、この水魔石を一定の距離に配置します。そして、魔石から少しずつ水が染み出すように設定することで、土の中の根に直接水分を届ける『点滴灌漑システム』を構築します」
前世の中東などの砂漠地帯で用いられている、極めて水効率の良い農業技術。それを、ファンタジー世界の「魔石」を使って再現するのだ。
「なんと……そんな方法が……!」
「これなら、少ない水で畑全体を潤すことができる……!」
村長たちの顔に、明らかな希望の光が宿り始めた。
素晴らしい反応だ。
しかし、この計画を成功させるには、もう一つ欠かせない要素がある。
それは「リーダーシップ」だ。
「計画は私が立てました。しかし、これを実行するには、皆さんの協力と、強力な指導者が必要です。……アレクシス殿下、お願いできますか?」
私が視線を向けると、アレクシス殿下は力強く頷き、村長たちに向かって真っ直ぐに語りかけた。
「俺も現場に出る。土を掘り、石を置き、お前たちと共に汗を流そう。俺は、お前たち国民一人たりとも飢えさせはしない。……俺を信じてついてきてくれるか?」
その言葉には、嘘偽りのない本物の熱意と、王者としての圧倒的なカリスマが込められていた。
村長たちは感極まったように涙を流し、一斉に深く頭を下げた。
「ははっ! 我ら西部の民、アレクシス殿下にどこまでもついて参ります!」
よし。
民衆の心は完全に掌握した。
計画立案から現場への落とし込みまで、完璧な流れだ。
あとはひたすら、タスクを実行するのみである。




