次なる事業計画(プロジェクト)、王位への道
「さて。祝杯も済んだところで、早速ですが『次』の話をしましょう」
私がグラスを置くと同時に仕事の顔に切り替わったのを見て、アレクシス殿下は「切り替えが早すぎるだろう……」と呆れながらも、真剣な表情に戻った。
「兄上が失脚したとはいえ、俺の立場が盤石になったわけではない。王宮内には、まだ兄上にすり寄っていた旧守派(腐敗貴族たち)が多く残っている。奴らは、身分の低い側室の子である俺が王座に就くことを、全力で阻止しようとするだろう」
「ええ、その通りです。現状、殿下の支持率は軍部と一部の若手貴族に限られています。国全体を掌握するには、圧倒的な『実績』が必要です」
コンサルタントの世界でも同じだ。
新しい社長が就任した時、社員や株主を黙らせる一番の方法は「目に見える数字(実績)」を叩き出すことである。
「現在、この国が抱えている最大の課題は何だとお考えですか?」
私が問いかけると、アレクシス殿下はテーブルの上に王国の地図を広げ、西の国境付近を指差した。
「……西部の『穀倉地帯』だ。ここ数年の異常気象と、領主たちの過剰な税の搾取により、大規模な不作が続いている。今年の冬には、深刻な食糧危機と暴動が起きるだろう。だが、父上も旧守派の貴族たちも、見て見ぬ振りをしている状態だ」
「ビンゴですわ。まさにそれが、私たちが解決すべき『最初の案件』です」
私は立ち上がり、地図の西武地帯を扇子でトントンと叩いた。
「飢える民衆を救い、西部の経済を立て直す。これをアレクシス殿下の名の下で完璧に成し遂げれば、国民の絶大な支持(プロモーション効果)を得られます。旧守派の貴族たちも、民意を味方につけた殿下には逆らえなくなる」
「だが、西部の立て直しには莫大な資金と、複雑な流通網の整備が必要だぞ? 一朝一夕でできることではない」
「お忘れですか? 私の『前世』の知識と、ローゼンバーグ公爵家の財力をもってすれば、不可能なことなどありませんわ」
私は自信に満ちた笑みを浮かべた。
現代日本の進んだ農業知識(輪作や品種改良の概念)と、コンサルタントとしてのロジスティクス(物流)最適化のノウハウ。
これらを異世界の魔法技術と掛け合わせれば、数ヶ月で西部の経済を劇的に改善できる確信があった。
「私が事業計画を引き、資金を出します。殿下は、その類まれなるカリスマと行動力で、現地の領主たちを黙らせ、計画を実行に移す『現場のトップ』となっていただきます。……いかがかしら?」
「ふっ……。お前といると、どんな絶望的な状況でも覆せるような気がしてくるから不思議だ。いいだろう、西部の救済、俺の初陣(最初のプロジェクト)として受けて立つ」
アレクシス殿下の瞳に、未来の王としての力強い覇気が宿った。
私はその頼もしい姿に、深い満足感(コンサルタントとしての喜び)を覚えていた。
無能な者たちを排除し、最強のパートナーと共に国を根本から作り変える。
処刑された悪役令嬢による、前世の知識をフル活用した壮大な「王位簒奪プロジェクト」の第二幕が、いよいよ本格的に動き出そうとしていた。




