帰還した「無能な経営者(トップ)」への監査報告
国王陛下の生誕祭での、あの劇的な「婚約破棄」と「断罪劇」から三日が過ぎた。
王都の社交界は、この前代未聞のスキャンダルで持ちきりだった。
無能な王太子レオンハルトの失脚と、これまで日陰の存在だった第2王子アレクシスの台頭。
そして何より、そのすべてを緻密な証拠と圧倒的な論理でひっくり返した私、セレスティア・フォン・ローゼンバーグの手腕に対する驚愕と称賛の声が、国中を駆け巡っていた。
そんな中、ついに「彼」が王都の公爵邸に帰還した。
私の実の父親であり、公爵家の当主である、ローゼンバーグ公爵だ。
「セレスティア!! お前、一体全体どういうことだ!!」
バンッ! と乱暴に扉が開かれ、怒り心頭といった様子の実父が、私の執務室に怒鳴り込んできた。
彼は長年、領地の経営にかまけて王都の屋敷を留守にし、家庭のことはすべて継母のエレナに丸投げしていた「無責任なトップ」の典型だ。
前回の人生では、私が無実の罪を着せられた時も、真実を調べようともせずに「家門の恥だ」と私を切り捨てた冷酷な男である。
私は書類からゆっくりと顔を上げ、ペンを置いて優雅に微笑んだ。
「お帰りなさいませ、お父様。長旅でお疲れのところ申し訳ありませんが、ドアは静かに開けていただけますか? 品位が疑われますわ」
「ふざけるな! 王室から『王太子殿下との婚約白紙』と『エレナとマリアの投獄』の知らせが領地に届いた時、私の寿命がどれほど縮んだと思っている! お前、私が留守の間に家を乗っ取り、国王陛下の前でとんでもない真似をしてくれたそうだな!」
実父は顔を真っ赤にして机を叩いた。
これまでの私なら、父親の怒号に怯えて泣きじゃくっていただろう。
しかし、中身が「最強のコンサルタント」である今の私にとって、感情論で喚く威圧など、そよ風にも等しい。
「とんでもない真似、ですか? 私はただ、お父様が長年放置してきた公爵家の『不良債権』を処理し、正常な経営状態に戻しただけですが」
「不良債権だと……! 妻と娘をなんという言い草だ!」
「お言葉ですが、お父様。まずはこの書類に目を通してから発言して(フィードバックをくれて)いただけますか?」
私は、すでに用意してあった分厚い「監査報告書」を、実父の胸にドンッと押し付けた。
「な、なんだこれは……」
「お父様が愛した妻、エレナによる過去三年間の『公爵家資産の横領記録』ですわ。総額は金貨五千枚。彼女は私名義の予算を私物化し、領地の架空工事をでっち上げて裏金をプールしていました」
書類をめくる実父の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
「そしてこちらは、マリアが王太子殿下と密会し、私を無実の罪で陥れようとしていた計画の証拠資料一式です。国王陛下もすでにこの事実を認められ、王室から正式な謝罪と慰謝料の支払いが決定しております」
「そ、そんな馬鹿な……エレナが、私を騙して横領を……? マリアが王太子殿下と……?」
「事実です。……お父様、あなたは公爵家の当主(CEO)でありながら、身内の不正を三年間も見抜けず、正当な後継者である私を虐待する環境を放置していました。これは経営者として致命的な『善管注意義務違反』です」
私の冷酷な指摘に、実父は膝から崩れ落ちそうになり、慌ててソファに倒れ込んだ。
「前回の人生(私が死んだこと)の恨みもありますが、百歩譲って私的な感情は抜きにしましょう。お父様は、政治家としても経営者としても完全に『無能』です。あなたが当主の座に居座り続ければ、ローゼンバーグ公爵家は確実に破滅します」
私は彼の前に歩み寄り、冷たく見下ろした。
「よって、本日をもって、お父様には『隠居』していただきます」
「い、隠居だと!? 私から公爵の座を奪うというのか!」
「ええ。すでに王室には、私が次期当主として全権を掌握する旨の申請書を提出済みです。王太子殿下の件で王室は私に負い目がありますから、この申請は特例で即日受理される手はずになっています。……ご安心ください、領地の片隅にある静かな別荘をご用意しました。残りの人生は、そこでゆっくりと反省しながらお過ごしくださいませ」
完全に退路を断たれ、自分の愚かさを思い知らされた実父は、もはや反論する気力すら失い、「あ、ああ……」と虚ろな目で宙を見つめることしかできなかった。
こうして私は、私を虐げていた継母と義妹だけでなく、私を見捨てた実父への復讐も、完全に合法的な「経営権の剥奪」という形で成し遂げたのである。




