愚者の論理(ロジック)と、計算された涙
ああ、何度聞いても頭の痛くなるような、中身の無いセリフだ。
前回の人生と一言一句違わないその言葉に、私は心の中で深い溜め息をついた。
他国の賓客もいるこの場で、国王の許可も得ずに個人的な婚約破棄を叫ぶなど、外交問題にも発展しかねない重大なルール違反(コンプライアンス違反)である。
会場の貴族たちは、突然の事態に顔を見合わせ、ざわめき始めた。
「こ、婚約破棄だと……?」
「しかも、相手はローゼンバーグ公爵令嬢の義理の妹……平民上がりの男爵令嬢ではないか」
「いくら王太子殿下とはいえ、公爵家を相手に正気か……?」
レオンハルト殿下は、周囲の困惑した反応を「自分たちの真実の愛への試練」だとでも勘違いしているのか、さらに声を張り上げた。
「皆も知っての通り、セレスティアはこのマリアから公爵家の予算を奪い、ドレスも宝石も与えず、固いパンしか食べさせないという陰湿な虐待を行っている! さらには、私とマリアの真実の愛に嫉妬し、マリアを階段から突き落とそうとすらしたのだ!」
レオンハルト殿下の言葉に合わせて、マリアが「ひぐっ……」と見事な嘘泣きを始めた。
「レオンハルト様……もういいのです。私がお姉様に嫌われているのは事実ですから……。私が我慢すれば、波風は立たないのです……っ」
「おお、マリア! 君はなんて可哀想で、健気なんだ! だが私は騙されないぞ。セレスティア、貴様のその華やかな赤いドレスも、マリアから奪った金で作ったものだろう! この恥知らずな悪女め!」
正義の味方気取りで私を糾弾するレオンハルト殿下。
国王陛下は頭を抱え、王妃様は信じられないという顔で青ざめている。
会場の空気は、彼らの茶番劇に対する冷ややかな軽蔑と、「セレスティア令嬢はどう対応するのか」という好奇心で満ちていた。
私はゆっくりと、一歩前に出た。
涙を流すことも、狼狽えることもない。
ただ静かに、そして絶対的な自信に満ちた足取りで、大広間の中央へと進み出た。
「レオンハルト殿下。一つ、確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
私の低く、よく通る声が、大広間に響き渡った。
感情的になっている相手には、限りなく冷静に、論理的に対応するのがコンサルタントの鉄則だ。
「な、なんだ! 今さら命乞いでもするつもりか!」
「いいえ。殿下がおっしゃるには、私が『マリアの予算を奪い』『虐待し』『階段から突き落とそうとした』……それが婚約破棄の理由(有責事由)である、ということで間違いありませんか?」
「そ、その通りだ! 言い逃れはさせんぞ!」
「承知いたしました。では、今から殿下の主張に対する『事実確認』を行わせていただきます」
私は指を鳴らした。
すると、あらかじめ待機させていた護衛のルークが、私の後ろに分厚い書類の束――以前、継母から没収した「公爵家の不正会計の証拠書類」――を乗せたワゴンを運んできた。




