運命の夜、開演のベル
帝国歴412年、初夏。
王都の空に無数の花火が打ち上がり、国中が祝祭の熱気に包まれていた。
本日は、この国の絶対的権力者である国王陛下の生誕祭。
王宮の最も大きな大広間では、他国からの賓客や高位貴族たちが一堂に会する、一年で最も華やかな夜会が開催されていた。
何千本もの蝋燭がシャンデリアで眩く輝き、室内管弦楽団の優雅なワルツが響き渡る中、私は公爵家の馬車から降り立ち、エントランスの大階段を上っていた。
本日の私の装いは、ローゼンバーグ公爵家の正統なる後継者であることを示す「真紅」のドレス。
ただし、以前のお茶会で着たものよりもさらに上質なシルクを使用し、金糸で繊細な薔薇の刺繍を施した最高級のオーダーメイドだ。
銀色の長い髪は複雑に編み込まれて真珠のピンで飾られ、首元には公爵家当主の証である大粒のアメジストが輝いている。
大広間の扉が開かれ、従者が私の名前を読み上げると、会場中の視線が一斉に私へと集まった。
「おお……あの方が、ローゼンバーグ公爵令嬢……」
「なんという美しさ、そして堂々たるお姿だ」
「王太子殿下にはもったいないほどの才媛だという噂は、本当だったのだな」
集まった貴族たちから、感嘆のため息と称賛の囁きが漏れる。
私がこの一ヶ月間、公爵家の経営を立て直し、社交界の有力者たちと積極的な意見交換を行ってきた成果だ。
すでに会場の空気(世論)は、私を「次期王妃にふさわしい完璧な令嬢」として認めている。
私は背筋を伸ばし、完璧なビジネススマイルを浮かべて会場内を見渡した。
そして、広間の少し薄暗い壁際に、群青色の軍服を着た長身の青年――第2王子アレクシス殿下の姿を見つける。
彼は私の姿を認めると、グラスを掲げて微かに口角を上げた。
「準備は万端か?」という彼からの無言の合図に、私は優雅な瞬きで「ええ、もちろん(イエス)」と返した。
前回の人生では、私はこの夜会に、継母たちからあてがわれた安物のドレスで参加し、部屋の隅で誰とも話せずに怯えていた。
そして、突然の婚約破棄という理不尽な暴力によって、奈落の底へと突き落とされたのだ。
しかし、今日の私は違う。
私は悲劇のヒロインとして断頭台に送られるためにここへ来たのではない。
私を陥れようとする愚か者たちを、社会的に完全に抹殺するために来たのだ。
やがて、ファンファーレが鳴り響き、国王陛下と王妃様が玉座に入場された。
乾杯の挨拶が終わり、和やかな歓談の時間が始まろうとした、まさにその時だった。
「――皆の者、聞くがいい!!」
楽団の演奏を無理やり止めさせるほどの、不躾で甲高い怒鳴り声。
声の主は、大広間の中央にある大階段の踊り場に立っていた。
金髪を仰々しくセットし、白い礼服に身を包んだ王太子レオンハルト殿下。
そしてその腕には、私の義妹であるマリアが、怯えた小動物のようにすがりついている。
会場が水を打ったように静まり返り、玉座に座る国王陛下が「レオンハルト、何事だ」と眉をひそめられた。
しかし、レオンハルト殿下は父親の制止も聞かず、大階段から私を指差して高らかに宣言した。
「セレスティア・フォン・ローゼンバーグ! 貴様のような嫉妬に狂い、私の愛するマリアを虐げるような悪逆非道な女は、未来の王妃にふさわしくない! 私は今この場をもって貴様との婚約を破棄し、ここにいる心優しきマリアを私の真の婚約者とすることを宣言する!」




