秘密の作戦会議と、優秀な共同経営者
その日の午後。
私は王都の中心部にある、公爵家が経営する高級サロンの「VIP専用個室」に足を運んでいた。
分厚い防音魔法が施されたその部屋に、黒い外套のフードを目深に被った長身の青年が、裏口から静かに入室してくる。
「……こんな白昼堂々、王都のど真ん中で密会とは。お前は本当に肝が据わっているな、セレスティア」
「ふふっ。灯台下暗し、と言いますでしょう? アレクシス殿下」
フードを下ろした第2王子アレクシスは、呆れたようにため息をつきながら、私の向かいのソファに腰を下ろした。
私と彼が「契約結婚」と「王位簒奪計画」の密約を交わしてから、こうして定期的に秘密のミーティングを行っているのだ。
「それで? 状況はどうなっている。俺の方は、お前が裏で手を回してくれたおかげで、近衛騎士団の中に『反レオンハルト派』の派閥を形成しつつある。皆、兄上の感情的で横暴な振る舞いに限界を感じていたらしい」
アレクシス殿下は、氷水色の瞳に鋭い知性を光らせながら報告した。
彼は本当に優秀だ。
私が公爵家の財力と情報網を使って「きっかけ」を与えただけで、自らのカリスマ性と統率力で次々と有能な人材を味方に引き入れている。
これが、トップに立つべき人間の器というものだ。
「素晴らしい進捗ですね。さすがは私の見込んだ共同経営者ですわ」
私はテーブルの上に、用意していた分厚いファイルと、革袋をコトリと置いた。
「これは?」
「革袋の中身は、殿下の派閥をさらに拡大するための『活動資金』です。ご自由にお使いください。そしてファイルの方は……レオンハルト殿下を支持している高位貴族たちの『弱点のリスト』ですわ」
「……は?」
アレクシス殿下は目を見開き、ファイルの中身をパラパラとめくった。
そこには、ある伯爵の愛人の隠れ家の住所や、ある侯爵の違法賭博の証拠、さらには軍の物資を横流ししている証拠などが、詳細な裏付けと共にびっしりと記載されていた。
「なっ……お前、一体どこでこんな情報を……!?」
「コンサルタントの基本は『情報の非対称性をなくすこと』ですから。
公爵家の情報網を少し整理して、専門の調査員を雇えば、これくらい簡単に集まりますわ」
私が事も無げに言うと、アレクシス殿下は額を押さえて天を仰いだ。
「お前……本当に恐ろしい女だな。もしお前が敵に回っていたらと思うと、ゾッとする」
「最高の褒め言葉として受け取っておきますわ。さて、外堀は埋まりつつあります。次は、いよいよ『本丸』を落とす準備です」
私は表情を引き締め、本題に入った。
「目標は、来月開催される『国王陛下の生誕祭』。他国の賓客や、国中の貴族が集まるその華やかな舞台で、私はレオンハルト殿下との婚約を『完全かつ合法的に』破棄します」
「合法的に、か。王家からの婚約破棄は反逆罪になりかねないが、どうやって向こうを『有責』にするつもりだ?」
「簡単なことですわ。彼ら自身に、決定的な罪を犯してもらえばいいのです」
私は扇子を広げ、口元を隠しながら不敵に笑った。
「現在、私の義妹であるマリアが、必死にレオンハルト殿下にすり寄っています。殿下は前回のティーパーティーで私に論破されたプライドの傷を、自分を全肯定してくれるマリアで癒そうとしている。二人が一線を越えるのは、時間の問題です」
アレクシス殿下は、信じられないというように眉根を寄せた。
「……兄上は、そこまで愚かではないだろう。婚約者がいる身で、しかもその義理の妹と密会するなど、王族としてのスキャンダルにも程がある」
「いいえ、彼はやります。なぜなら彼は『自分が世界の中心であり、自分の恋こそが真実だ』と信じて疑わない、致命的な自己中心主義者ですから」
前回の人生で、私を冷酷に断頭台へ送った男だ。
彼らの身勝手さを、私は誰よりも知っている。
「私がすべきことはただ一つ。彼らが愛を語り合い、私を陥れようと計画しているその『完璧な証拠』を、逃さず記録することです」




