朝食の席での告発(プレゼンテーション)
翌朝。
朝の光が差し込む広々としたダイニングルームには、長いテーブルを挟んで継母エレナと義妹のマリアが優雅に朝食をとっていた。
実父である公爵はまだ領地から戻っていないため、この屋敷の主は実質的にエレナだ。
彼女は私が部屋に入ってくるなり、わざとらしく大きなため息をついた。
「遅いわね、セレスティア。公爵令嬢たるもの、朝の時間はもっと有効に使うべきよ。それに、マーサを解雇したせいで、新しいメイドの手配にどれだけ私が苦労していると思っているの?」
「そうですわ、お姉様。お母様をこれ以上困らせないでくださいな」
二人の言葉には、私を非難し、精神的に追い詰めようとする明確な意図があった。
前回の人生の私なら、ここで「申し訳ありません」と泣きそうになりながら頭を下げていただろう。
しかし、真紅の室内着を纏った私は、一切の動揺を見せることなく、ゆっくりと彼女たちの正面の席に腰を下ろした。
「おはようございます、お義母様、マリア。朝の時間を有効に使えとのお言葉、肝に銘じますわ。ですので――早速ですが、重要な『業務報告』をさせていただいてもよろしいかしら?」
「ぎょうむ……ほうこく?」
聞き慣れない言葉に、エレナが訝しげに眉をひそめた。
私は手元に持っていた分厚い書類の束――昨夜コピーした帳簿の写しと、私が独自に作成した「不正横領の分析レポート」――を、ドンッ! とテーブルの中央に置いた。
「お義母様。この三年間、お父様が不在の間、公爵家の家計を管理していただき感謝いたします。しかし、どうやらお義母様は『算術』がひどく苦手であられるようですね」
「なっ……! いきなり何を言い出すの!」
「ですから、算数ができないとおっしゃっているのです。例えば、こちらのページ」
私は書類の束から一枚を引き抜き、エレナの目の前に突きつけた。
「先月の『屋敷の修繕費』として計上されている金貨三百枚。
しかし、その支払先である『ルナ商会』は、修繕業者ではなく王都で有名な高級宝石店です。
不思議ですね。屋敷の壁を直すのに、ダイヤモンドでも埋め込んだのかしら?」
エレナの顔から、さぁっと血の気が引いていくのがわかった。
彼女の目は驚愕に見開かれ、手にしたフォークがカチャリと皿の上に落ちた。
「な、なぜ、その帳簿を……!?」
「まだまだありますわ。マリアのドレス代、私名義の予算からの不正な流用、架空の工事費による裏金の捻出、さらには使用人たちへの口止めのための賄賂。……総額で金貨五千枚(約五億円相当)。これはもう、単なる計算ミスではなく、立派な『横領罪』および『背任行為』ですわね」
私は冷たく、感情の籠もらない声で事実だけを羅列していく。
言い逃れの余地など一切与えない。コンサルタントの追及は、いつだって論理的で、冷酷で、完膚なきまでに相手を打ちのめすものだ。
「で、でたらめよ! そんな書類、あなたが勝手に偽造したんでしょう!」
「あら、偽造かどうか、今すぐ騎士団の『財務捜査局』に持ち込んで鑑定してもらいましょうか? 書斎の金庫にある原本と照らし合わせれば、一目瞭然ですわ。ああ、それから……ルナ商会の店主には、すでに私の手の者が探りを入れています。『公爵夫人から口止め料をもらっている』という証言の裏付け(エビデンス)を取るのも、時間の問題ですわよ」
完全に退路を断たれたエレナは、ガタガタと震え始めた。
隣に座るマリアは状況が理解できていないのか、「お、お母様? なんですの、その書類は……」とおろおろしている。
「マリア、あなたも同罪よ。私がボロボロの服を着せられている間、あなたが着飾っていたそのドレスも宝石も、すべて『泥棒して手に入れたお金』で買ったもの。社交界でこの事実が公になれば、あなたは二度と貴族の夜会には呼ばれなくなるでしょうね」
「ど、泥棒ですって!? 私は何も知らないわ!」
泣き叫ぶマリアを無視し、私は立ち上がってエレナを見下ろした。
その瞳に、前世の「神崎玲奈」としての冷酷な光を宿して。
「さて、お義母様。選択肢は二つです」
私は右手の指を二本立てて見せた。
「一つ。この証拠をすべて騎士団とお父様に提出し、あなた方を国家反逆および横領の罪で投獄する。この場合、あなた方は確実に貴族の身分を剥奪され、奴隷として鉱山行きになるでしょう」
「ひっ……!」
「二つ。今日この瞬間から、公爵家の金庫の鍵、実印、そして一切の『経営権(家門の実権)』を、正当な後継者であるこの私、セレスティアに譲渡すること。もちろん、今後二度と私の行動に干渉しないという誓約書にもサインしていただきます」
究極の二択。
しかし、彼女たちにとって選べる道は一つしかない。
「さあ、お義母様。どちらになさいますか? 私は今日、お茶会の予定があって忙しいので、五秒以内に決断をお願いします」
「ご、五秒って……待って、セレスティア、私たちは家族じゃないの! 少し話し合いを……!」
「五、四、三――」
「わ、分かったわ! 分かったから! 鍵も印章もすべてあなたに渡すわ! だから騎士団にだけは言わないで……!」
エレナは両手で顔を覆い、テーブルに突っ伏して泣き崩れた。
マリアもその横で、信じられないものを見るような顔で私を見上げながら、ポロポロと涙を流している。
私は心の中で「業務完了」と呟きながら、ふっと冷たい笑みを浮かべた。
「賢明なご判断ですわ、お義母様。では、すぐに誓約書を用意いたしますので、サインをお願いしますね」
前回の人生で、私からすべてを奪い、死に追いやった者たちへの復讐。
その第一段階である「ざまぁ」の瞬間は、最高に甘美で、スカッとするほど痛快なものだった。




