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あの空 〜of kanna〜  作者: kooy


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第8話 『君は見ていた』

 放課後。


 カンナは帰り支度をしながら、咲良に声をかけた。


「咲良ー」


「ん?」


「今日はダンスの練習できる?」


 カンナが聞くと、咲良は申し訳なさそうに手を合わせた。


「あー、ごめん。今日もバイトなんだ」


「そっかー」


 カンナは残念そうに肩を落とした。


「じゃあ、曜日決めない?」


「そうだね!」


 咲良が頷く。


「そうすれば、バイトのシフトずらすわ」


「ほんと?」


「うん。そのほうが練習しやすいし」


「じゃあ、奈緒にも聞いておくね」


「ありがと!」


 咲良は鞄を持つと、教室の出口へ向かった。


「じゃあ、急ぐから。バイバイ!」


「バイバイ……」


 咲良が教室を出ていく。


 カンナは、その背中を見送った。


「残念!」


 隣にいた美香が言う。


「なかなか練習できないね」


「うん……」


 カンナは机の上に置いていたスマホを見る。


 最近は、家に帰ってからダンスの動画を見るのが日課になっていた。


 野球部の練習試合を見てからだった。


 選手たちは、みんな一生懸命だった。


 ベンチにいる選手まで声を出していた。


 失敗しても、仲間が声をかけていた。


 あんなふうに、何かに夢中になれるっていいな。


 そう思った。


 だから、自分も何かに夢中になってみたくなった。


 ダンスの動画を見ながら、一人で練習している。


 でも――。


「誰かに教えてもらいながら、やりたいんだよね」


 カンナが呟く。


「でも、ダンス教室に通うほどでもないんでしょ?」


 美香が確認するように聞いた。


「そうなんだよね……。そこまでじゃないんだよね」


「カンナらしいね」


 美香は笑った。


 そのときだった。


 廊下から、男子生徒たちの話し声が聞こえてきた。


「いたいた」


「ここじゃね?」


 数人の男子が、教室の前で足を止めた。


 その男子たちの真ん中にいたのは、向井隼。


 同学年で、サッカー部に所属している男子だった。


 学年でも目立つ存在で、女子から「格好いい」と言われることも多い。


 向井は教室の中にいるカンナを見ると、仲間たちに何かを確認するように目を向けた。


 男子たちは小さく頷く。


 そして、向井がカンナのところへ歩いてきた。


「朝倉さん」


「ん?」


 カンナが顔を上げる。


「ちょっといいかな?」


「何?」


 向井は少しだけ緊張した様子だった。


「あのさー」


 一度、息を整える。


「朝倉さんって、今、誰かと付き合ってるの?」


「え?」


 カンナはきょとんとした。


「今は誰とも付き合ってないけど……」


 首を傾げる。


「何で?」


「じゃあさ」


 向井はまっすぐカンナを見る。


「俺と付き合わないか?」


「……え?」


 カンナが固まった。


「え、告白?」


 美香も驚いた顔をする。


「こんな教室の真ん中で……」


 教室にいた生徒たちが、横目でこちらを見る。


 カンナは顔を赤くした。


「あ……」


 どうしていいか分からない。


 けれど、答えは決まっていた。


「ご、ごめんなさい」


 カンナは小さく頭を下げた。


「わたし、好きな人いるんで」


「知ってるよ」


「え?」


「同じクラスの橋本大輝だろ?」


「……!」


 カンナの顔が一気に赤くなる。


「でも、まだ付き合ってないんだろ?」


 向井はそう言って、教室の奥へ視線を向けた。


 そこでは、大輝が帰り支度をしていた。


 大輝も顔を上げる。


 二人の視線が、一瞬だけ重なった。


「だったら、俺にもチャンスあるじゃん」


 向井は再びカンナを見る。


「俺、朝倉さんのこと好きだから」


「……」


「じゃあ」


 向井はそれだけ言うと、廊下で待つサッカー部の仲間たちのところへ戻った。


「『ごめんなさい』って言われたな」


「うるせーよ」


「大丈夫、大丈夫」


「何が大丈夫なんだよ」


 そんなことを言いながら、男子たちは教室を離れていく。


 カンナは呆然とその背中を見送った。


「……えっ」


「なに?」


「今の、告白だったの?」


「今さら?」


 美香が呆れたように笑った。


「『好き』って、しっかり言ってたじゃん」


「そうだけど……」


 カンナは困ったように眉を下げる。


「どうするの、カンナ?」


「どうするも何も。わたし、断ったよね?」


「まぁ、断ったけど」


 美香は向井たちが出ていった教室の扉を見る。


「たぶん、諦めてないよね」


「えー……」


 カンナの顔が曇った。


「怖いんだけど……」


「大丈夫」


 美香はカンナの肩を抱き寄せた。


「私が守るから」


「美香ぁ~」


「任せなさい」


 冗談っぽく胸を張る美香に、カンナも笑った。


 そして、美香の肩越しに何気なく顔を上げた。


「……あ」


 大輝が、こちらを見ていた。


「……」


 目が合う。


 カンナの笑顔が固まった。


 ――もしかして。


 聞いてた?……よね。


 大輝は何も言わなかった。


 鞄を肩に掛けると、いつもより少し早い足取りで教室を出ていく。


 カンナは、その背中を目で追った。


「……」


「カンナ?」


「……美香」


「ん?」


「大輝……いたんだけど」


「うん。いたね」


「……」


 カンナの顔が、みるみる赤くなった。


「うそぉ……」


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