第5話 『君を見に行こう』
「春って、気持ちいい~」
校庭から吹いてくる風に、カンナは目を細めた。
「わたし、この風が好き~」
「カンナは紫外線とか気にしないよね」
隣にいる美香が、呆れたように言う。
「なのに肌が白いし綺麗でいいな~」
「ぜんぜん気にしなーい!」
カンナは胸を張った。
「美香は野菜、食べないからいけないんだよ」
「野菜ね~。苦手なんだよね」
美香は苦笑する。
「肉なら好きなんだけど」
「なら――」
二人が話していると、体育教師の斎藤の声が飛んできた。
「次は朝倉!」
「はーい!行ってくるね」
カンナは元気よく返事をすると、ハンドボールを受け取った。
「よーし、遠くに飛ばすぞー!」
投擲位置まで歩いていき、ボールを構える。
「頑張ってね」
後ろから美香の声が聞こえた。
「えいっ!」
カンナは思い切り腕を振った。
ボールは大きく弧を描いて飛んでいく。
「おお~!」
見学や順番待ちをしている女子たちから、小さな歓声が上がった。
カンナは満足そうに笑う。
「どう? 結構飛んだでしょ!」
「私の方がもっと飛ばすし」
美香は対抗心を露わにする。
そして、美香の番が回ってきた。
「美香、がんばれー!」
美香はカンナに向かってボールを持った手をグッと掲げ、「見ててね!」とばかりにひらひらと振ってみせた。
そんなやり取りをしていると、奈緒がこちらへ歩いてきた。
「カンナ」
「ん?」
「ちょっといい?」
「なに?」
奈緒はカンナの隣まで来ると、少し嬉しそうに笑った。
「ゴールデンウィークに野球部の練習試合があるんだけど、一緒に行かない?」
「え、行ってもいいの?」
「西校だから、近いでしょ」
奈緒は笑う。
「それに、カンナの恋、応援しないとね」
「……!」
カンナの表情が一気に明るくなった。
「行く!」
「ふふっ。やっぱり」
「大輝、出るの?」
「たぶんね。今度、彼に聞いとくね」
奈緒が答える。
「彼、主将だから……知っていると思う」
奈緒はそう言うと、少し照れたように微笑んだ。
「それに、この間はありがとう。ちゃんと仲直りしたよ」
「よかった~!」
カンナは自分のことのように喜んだ。
そのとき――。
「ねー!」
美香の声が飛んできた。
「見てたー?」
「え?」
カンナと奈緒が振り向く。
美香は少し得意げな顔をしていた。
「私のハンドボール投げ!」
「う、うん?」
「16.4メートルだよ」
「えっ、すごいじゃん!」
「でしょ……?」
美香は満足そうに胸を張る。
「ねー。見てなかったでしょ」
「……」
カンナと奈緒は顔を見合わせた。
「ごめん」
「ごめんね」
二人そろって謝る。
「もーぉ」
美香が頬を膨らませる。
「二人とも私のこと全然見てないじゃん!」
「ごめんってぇ~」
カンナが笑いながら美香の肩を叩く。
「そうそう、美香もゴールデンウィークに野球部の応援に行くからね」
「……え?」
美香の動きが止まった。
「大輝?」
「うん!」
美香はじっとカンナを見る。
「……私のは見ないのに、大輝は見るんだ」
「だって、大輝が出るかもしれないんだよ!」
「なにそれー!」
美香が叫び、カンナと奈緒が笑う。
春の風が、三人の間を吹き抜けていった。




