第4話 『君を振り向かせたい』
「カンナって、歌うの好きね」
美香が笑いながら言った。
「うん! 大好き!」
奈緒を元気づけるために集まった六人の仲良し。
カラオケは、思っていた以上に盛り上がっていた。
「あ、この曲いいよね! ねぇ奈緒、次これ歌おうよ!」
「カンナ、また入れたの?」
「だって歌いたいんだもん!」
カンナはマイクを握ると、楽しそうに歌う。
歌い終われば、今度は誰かの歌に手拍子を送る。
落ち込んでいた奈緒にも、何度も話しかけていた。
「え? 私?」
カンナに押されるように、奈緒もマイクを握った。
しばらくして。
「良かったね。奈緒も楽しそうだよ」
美香が隣で言った。
「うん!」
カンナは嬉しそうに頷く。
「考えたってしょうがないんだから、歌おうよ」
「……そうだね」
奈緒は少し笑った。
小一時間ほど歌い続けた頃。
奈緒がマイクをテーブルに置いた。
「なんか……悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなってきちゃった」
「うんうん」
「夜、電話で謝るよ」
「ほんと?」
「うん。プレゼントが欲しくて怒ったんじゃないって、ちゃんと話す」
奈緒は少しだけ唇を尖らせた。
「……勘違いされてるのは、ちょっと癪だけど」
「大丈夫だよ」
カンナが笑う。
「ちゃんと素直に話せば、どうにかなるって」
「カンナ……」
奈緒がカンナを見る。
「……そうだね。素直にね」
そう言って、奈緒は小さく笑った。
その笑顔を見て、カンナも嬉しそうに笑う。
「ねぇ!」
突然、カンナが立ち上がった。
「誰か私と一緒にダンスやってくれない?」
「ダンス?」
美香が首を傾げる。
「私はパスかな。苦手……」
「大丈夫だよ!」
カンナは即答した。
「下手だって、どうにかなるって」
「どうにかって……」
「今年の文化祭で、ステージに立って踊りたいの!」
カンナの目が輝いている。
奈緒はその勢いに驚いたが、少し考えてから微笑んだ。
「……私、やってみようかな」
「ほんと!?」
「うん。音楽は好きだし。それに、学校で練習していれば……彼とも一緒に帰れるかもしれないし」
「それいいじゃん!」
カンナが嬉しそうに手を叩く。
「じゃあ、決まり!」
「えー、奈緒もやるの? 珍しい」
「奈緒のダンスとか、想像つかないんだけど」
テーブルを囲む残りのメンバーからも、驚いたような声が上がる。
「あ、でも、うちも文化祭で踊りたい!」
ジュースのグラスを置いた咲良が、身を乗り出した。
「うち、ダンス教室に通ってるから。少しなら教えられるよ」
「え、すごい!」
カンナの顔がぱっと明るくなる。
「教えて、教えて!」
「いいよ」
「やった!」
カンナは嬉しそうに飛び跳ねたあと、少しだけモジモジしながら言った。
「……わたしね」
みんなの視線が一斉にカンナへ集まった。
「振り向かせたい男子がいるの」
「誰、誰!?」
奈緒が食いついた。
美香は、ためらうことなく答えた。
「大輝でしょ」
「え?」
カンナが美香を見る。
「言ってもいいよね。カンナ」
「いいけど……」
カンナは少し恥ずかしそうに笑った。
「大輝には内緒ね」
「大輝って、クラスメイトの?」
「うん」
奈緒は少し意外そうな顔をした。
「意外。カンナって可愛いから、もっとカッコいい人を狙ってると思った」
「大輝はカッコいいよ」
カンナは頬を膨らませる。
「そうかな? でも応援するね」
「ありがとう」
カンナは笑った。
奈緒がクスッと笑う。
美香もあきれたように、けれど優しく微笑んだ。
「……頑張れば?」
「うん!」
文化祭は秋。
今はまだ四月だ。
時間はたっぷりある。
カンナは、なんだか嬉しくなった。




