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あの空 〜of kanna〜  作者: kooy


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第32話 『君とまた、同じ空の下で』

 病室には、クラスのみんなが作った千羽鶴が飾られていた。


 その向こう側。


 ガラス越しに、カンナが見える。


 千羽鶴は、無菌室の中には入れられなかった。


 感染を防ぐためだという。


 カンナは千羽鶴を見て、


「……すごい」


 嬉しそうに笑った。


 その笑顔を見て、私たちも笑った。




「帽子?」


 カンナの手元には、看護師さんに除菌してもらった帽子がある。


「うん」


 治療中の頭皮に刺激を与えにくい素材のものを選んだ。


「何これー?」


 帽子には、私たちのメッセージやイラストがたくさん書いてある。


『また一緒に踊ろ!!』


『学校で待っているよ』


『カンナ大好き!』


 カンナが、そのメッセージに目を通す。


「……」


 笑っていた顔が、少しずつ変わっていく。


 カンナの目から、涙がこぼれた。


「……ありがと」


 小さな声だった。


 私は、胸が苦しくなった。


 寂しいんだ。


 きっと。


 不安なんだ。


 でも。


 カンナは、私たちの前では笑う。


「ほら!」


 カンナが帽子を頭にかぶった。


「似合う?」


 そして、いつものように笑った。


 Vサインをつくる。


 私は笑った。


 でも。


 胸の奥が痛かった。


 抗がん剤の治療は、とても辛いらしい。


 強い吐き気。


 だるさ。


 食欲がなくなったり、体が思うように動かなかったりすることもある。


 ガラス越しに見えるカンナは、以前よりずっと細く見えた。


 顔色もよくない。


 それなのに。


 私たちを見ると、笑う。


 どうして。


 どうして、カンナがこんなに頑張らなくちゃいけないんだろう。


 あの夏祭りまでは――。


 一緒に笑った。


 一緒に話した。


 一緒に踊った。


 同じ高校生なのに――。


 私たちは、今も学校で笑っている。


 カンナは、病院で治療を受けている。


 何もできない自分が、少し嫌になった。


「……美香?」


「え?」


 カンナが、こっちを見ていた。


「……どうしたの?」


 声を出すのも、辛そうだった。


「ううん……」


 私は笑った。


「なんでもないよ」


「カンナ!」


 咲良が声を上げた。


「今日は、ダンスも見てよ!」


「……ダンス?」


「そう!」


 咲良が嬉しそうに頷く。


「夏音も一緒に踊るんだよ」


 咲良が、夏音を見る。


「はい!」


 夏音が笑った。


「私も、先輩たちと一緒に踊ります!」


 カンナは、夏音を見て口元を少し緩めた


「……いいね」


 私たちは、文化祭で踊る予定のダンスを、ガラス越しにカンナへ見せた。


 音楽を小さく流す。


 動きも、いつもより小さく。


 手を動かす。


 足を踏み出す。


 カンナも練習した振り付け。


 カンナの顔が、少し明るくなった。


 そして、手を叩いた。


「……いいじゃん」


 私たちの踊りを見せることに少し戸惑いはあった。


 どこかカンナを傷つけるんじゃないか。


 羨ましがらせてしまうんじゃないか。


 でも、そんな心配は要らなかった。


 やっかむことも、嫉妬することもなく。


 カンナは目を輝かせて、心から私たちのダンスを楽しんでくれた。


 けれど、拍手が鳴り止むと、カンナの顔に少し疲れが見えた。


 だから私たちは、あまり長居をしなかった。


「カンナ。また来るね」


 私たちは病室を出た。


 扉が閉まる。


「……」


 廊下を歩く。


 誰も、何も言わない。


 気づけば、涙が出ていた。


「……戻ってきてほしいね」


 咲良が、小さく呟いた。


「うん」


 私は頷いた。


 四人で肩を寄せ合った。


 そして。


 声を出さないように、静かに泣いた。



    *



 夜の病室。


 ガラスの向こうに、千羽鶴が見える。


 みんなが、わたしのために作ってくれた千羽鶴。


「……嬉しい」


 そして今日も、美香たちが会いに来てくれた。


 手に持っている、この帽子。


 最初は、


「何これ!?」


 って思った。


 でも。


 そこに書かれたメッセージを読むと、今も涙が出る。


 みんな。


 ありがとう。




 やっぱり。


 治療は辛い。


 学校へ行けないのも辛い。


 友達に会えないのも辛い。


 みんなの声が聞こえても。


 触れることもできない。


 でも。


 みんなが応援してくれている。


 それが分かる。


 だから。


 まだ。


 諦めない。


 


 最近。


 ふと、窓の外を見ることがある。


 今日も。


 窓の外に、小さな白い鳥がいた。


 白くて。


 可愛い鳥。


 窓の柵にちょこんと止まっている。


 そして。


 こっちを見ている。


「……」


 わたしも、白い鳥を見る。


「応援してくれるの?」


 白い鳥は、何も答えない。


 ただ。


 そこにいる。


 なんだか、それだけで少し嬉しかった。




 明日から。


 移植に向けた治療が始まるらしい。


 先生から、いろいろ説明された。


 お母さんも。


 お父さんも。


 ずっと話を聞いていた。


 難しいくて、よく分からなかった。


 怖くない。


 ……うそ。


 ちょっと怖い。


 でも。


「大丈夫だよ」


 そう言ってみた。


 自分に言い聞かせるように。




 大輝は、今度の練習試合でレギュラーとして出るらしい。


「頑張ってね」


 スマートフォン越しに、そう伝えた。


『うん。頑張るよ』


 夜。


 前みたいに、外にいる大輝を見ようと思った。


 でも。


 窓際まで歩く力がなかった。


 ベッドに横になったまま。


 スマートフォンから聞こえる大輝の声を聞いた。


『今日は、練習でさ――』


 大輝が話している。


 野球のこと。


 学校のこと。


 たわいもない話。


 それだけで、学校にいるような気がした。


「大輝」


『ん?』


「……ありがと」


『どうしたの?』


「なんでもない!」


 笑った。


 大輝がいる。


 美香たちがいる。


 みんながいる。


 だから。


 わたしも。


 頑張る。


 まだ、諦めない。


 また、みんなと一緒に――。



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