第31話 『君の帰る場所』
二学期が始まって、数日が経った。
授業も始まり、教室にはいつものように先生の声が響いていた。
けれど。
カンナの席だけは、空いたまま。
いつもなら聞こえてくるカンナの声が、今日は聞こえない。
「美香ー。カンナ、いつ戻ってくるのかなー?」
咲良が、少し寂しそうに言った。
「どうなんだろう」
美香は窓の外を見る。
「カンナの病気って、少し難しいんだってさ」
担任の土井先生からは、カンナが白血病だということは伝えられていない。
ただ、「しばらく、朝倉は休みます」
そう言われただけだった。
二年生の二学期は――。
文化祭や修学旅行など、学校行事が続いていく。
文化祭のステージ発表に向けたダンスの練習も、今まで通り続けていた。
「カンナがいたらさー」
咲良が教室を見回す。
「もっと毎日が楽しいのになー。イベントも、もっと盛り上がるのに」
「……ねぇ、咲良」
「なーに?」
「カンナも、きっと暇だろうし」
美香は少し考えた。
「何かしてあげない?」
「いいね!」
咲良の顔が明るくなる。
「何か……」
少し考えて。
「あ!」
突然、目を輝かせた。
「こういうときって、千羽鶴じゃない!?」
「千羽鶴?」
「うん!」
咲良は、嬉しそうに手を叩いた。
「うちって天才! みんなでやろうよ!」
「……千羽鶴か」
美香も少し笑った。
「いいかもね。小学校のとき、やったよね!」
「やったやった!千羽鶴ー!」
咲良が楽しそうに笑う。
「何!? 千羽鶴、折るの?」
そこへ奈緒が、友達と一緒にやって来た。
「カンナにでしょ?」
「そう!」
咲良が頷く。
「じゃあ、みんなで鶴を折ろう!」
少し大きな咲良の声が、教室に響いた。
そして。
「僕も折るよ」
振り向くと、大輝が数人の男子と一緒に立っていた。
「大輝!」
「カンナのためなら、僕も折るよ」
「さすが大輝! じゃあ、男子の取りまとめよろしくね!」
「う、うん。分かった……」
大輝は戸惑い苦笑いするが。
「お前が折るなら俺もやるかー」
周りの席の生徒が振り向く。
「私も手伝うよ」
「面白そうじゃん。俺もやる」
「千羽鶴ってどう折るんだっけ?」
「私、使ってない折り紙、たくさん持ってるよ」
教室から次々と声が上がる。
いつの間にか。
美香と咲良のまわりには、たくさんの人が集まっていた。
カンナがいない教室。
それなのに。
カンナの話をしているだけで、少しずつ教室が明るくなっていく。
「よーし!」
咲良はパンッと勢いよく手を叩くと、教室全体に向かって胸を張った。
「 みんなー、家にある折り紙を持って集合ね! 千羽鶴、作るぞー!」
「おー!」
教室に、笑い声が広がった。
*
放課後。
美香、咲良、奈緒は、ダンスの練習を終えて帰ろうとしていた。
校庭から、野球部の声が聞こえてくる。
「もう一本!」
「はい!」
グラウンドを見る。
その中でも、大輝は大きな声を出していた。
仲間に声をかけ。
自分も声を出して。
練習の雰囲気を盛り上げている。
「大輝くん、頑張ってるね」
奈緒が呟いた。
「魁も言ってた」
「うん……」
美香もグラウンドを見る。
そのとき。
「美香先輩ーぃ!」
グラウンドから、女の子が走ってきた。
「夏音?」
夏音は、三人の前で立ち止まる。
「カンナ先輩の様子はどうですか?」
「うん。頑張ってるよ」
美香が答える。
少しだけ間を置く。
「でも……しばらく学校には来られないみたい」
「そうなんですか……」
夏音は、少し寂しそうに俯いた。
「私……」
顔を上げる。
「先輩たちと一緒に、文化祭でダンスをしたいなぁって思って」
「いいじゃん!」
咲良がすぐに笑った。
「やろうよ!」
夏音の手を取る。
「カンナが戻ってきたときに、絶対喜ぶよ!」
「いいよね。美香! 奈緒!」
「私はいいよ」
奈緒も笑顔で頷いた。
「そうだね……」
美香も笑った。
でも。
胸の奥に、少しだけ引っかかるものがあった。
文化祭。
あと少し。
カンナは、その頃には戻ってこられるのだろうか。
みんなは、当たり前のように待っている。
カンナが帰ってくることを。
美香は、何も言わなかった。
ただ。
「……きっと、喜ぶよ」
そう言って、笑った。




