第24話 『君と歩く夏祭り』
夏休み。
照りつける太陽が、朝から容赦なく地面を焼いていた。
今日は、待ちに待った夏祭りの日。
「お祭り! 楽しいね!」
浴衣姿のカンナが、嬉しそうに笑う。
「祭り、サイコー!」
その隣では、咲良も負けないくらいはしゃいでいる。
「カンナ、咲良。ちょっと待ってよ!」
二人の後ろを、美香が追いかけてくる。
「ねぇ、今度はあそこに行こう!」
「行こう! 行こうー!」
三人は笑いながら、人で賑わう通りを歩いていった。
鉄板の上では、焼きそばがジュージューと音を立てている。
楽しそうに歩く若者たち。
あちこちから聞こえてくる話し声や笑い声。
遠くからは、お囃子の音や神輿を担ぐ掛け声まで聞こえてくる。
祭りの熱気が、通りいっぱいに広がっていた。
「カンナー。大輝はどうしたの?」
咲良が、興味ありげに聞く。
「大輝は午前中、部活だから。午後に合流ー!」
「いいなー。うちも彼氏欲しいなー。どこかにいい男はいないかなー」
「咲良はどうせ、夏休みだけの彼でしょ」
美香が、咲良の腹を軽くこづく。
「美香ー。ひどいなー!」
咲良は少し頬を膨らませる。
「……でも、当たってるよ。ははははっ!」
「お祭り! 楽しいー!」
カンナが目を輝かせて、出店の前に走っていく。
「これください!」
カンナが手に取ったのは、可愛らしいクマのお面だった。
「何、そのお面。そんなのあるんだ」
咲良が珍しそうに覗き込む。
「大輝みたいでしょ」
美香と咲良が、お面を見る。
「……」
そして、カンナを見る。
「カンナはホント……大輝、大輝だね」
美香が、少し呆れたように笑った。
「そう?」
カンナは嬉しそうにクマのお面を被る。
「大輝、喜ぶかなー」
「知らないよ……」
美香は苦笑した。
「あ、奈緒ー!」
カンナが、通りの向こうに向かって手を振った。
そこには、浴衣を着た奈緒と魁がいた。
二人は手を繋いで歩いている。
「奈緒!」
声をかけられて振り返った奈緒と魁は、少し照れたように顔を見合わせた。
「あー、いいじゃん。いいじゃん。奈緒も人前で大胆だね」
咲良がニヤニヤしながら言う。
「咲良、からかわないで」
奈緒は少し恥ずかしそうにしながら、魁の手を握り直す。
「……でも、カンナほどじゃないけど」
「え! わたし?」
「確かに」
美香が笑う。
「カンナは、人前とか気にしないからね」
「だって、大事なんだもん」
カンナは、当たり前のように言った。
「はいはい」
美香が笑う。
「じゃあ、またあとでねー!」
「うん!」
奈緒と魁に手を振り、三人は再び歩き出した。
*
やがて、ギラギラと輝いていた太陽が、西へ傾き始める。
通りには神輿が姿を見せ、男たちの威勢のいい声が響いていた。
「ワッショイ! ワッショイ!」
祭りの熱気は、昼間よりもさらに大きくなっている。
「大輝、どこかなー?」
クマのお面を頭に掛けたカンナが、背伸びをしながら人混みの向こうを探す。
「カンナ?」
美香が少し遠慮がちに声をかける。
「私たち、邪魔じゃない?」
「ぜんぜん!」
カンナは即答する。
そして、少し考えてから笑った。
「……邪魔かも」
「ひどいかも」
美香が笑う。
「じゃあ、邪魔してやる!」
「美香、邪魔ー!」
二人が笑っていると、
「カンナー!」
人混みの向こうから声がした。
「!」
カンナが振り返る。
そこには、大輝と野球部の友人二人が立っていた。
「大輝!」
カンナは嬉しそうに駆け寄った。
「大輝、部活お疲れさま!」
「うん。ありがとう」
大輝が笑う。
カンナは頭に掛けていたクマのお面を手に取ると、大輝の頭に被せた。
「はい!」
「え?」
大輝が驚く。
「似合うよ!」
「……そうかな?」
大輝は少し困ったように笑った。
カンナは、そのまま大輝の左側に並ぶ。
そして、当たり前のように肩を寄せて、大輝の左手を握る。
「行こう!」
「う、うん」
大輝の顔が少し赤くなる。
それを見ていた野球部の友人二人が、驚いたように顔を見合わせた。
「……マジか」
「橋本、やるな……」
羨ましそうな視線が、大輝に向けられる。
美香と咲良も、呆れたように二人を見る。
でも、その顔には笑みが浮かんでいた。
「大輝、お祭り一緒に回ろうね!」
カンナは、大輝の手を握ったまま笑った。
「うん」
大輝も笑った。
そのときだった。
「カンナ……」
美香の声が聞こえた。
「鼻血、出てるよ」
「え……?」
カンナが目を瞬かせる。
左手を鼻に当てる。
指先に、赤いものがついた。
「……ほんとだ」
その顔から、少しずつ笑みが消えた。
「どうしたの?」
大輝が心配そうに顔を覗き込む。
「えっと……」
カンナが答えようとした。
視界が、ぐらりと揺れた。
「……あれ?」
カンナの身体が、ふらつく。
大輝が手を伸ばし、カンナの左手をとる。
「カンナ?」
カンナの膝から力が抜け、そのまま崩れ落ちる。
大輝は咄嗟に膝をつき、倒れ込む身体を胸元で強く抱き止めた。
「カンナ! おい、カンナ!」
大輝の声が、祭りの喧騒を切り裂いた。
「きゃーーっ!」
祭りの会場に、悲鳴が響いた。




