第23話 『君の進路』
大輝が救急車で運ばれて行った後も、試合はそのまま続いていた。
大輝に代わって入った代走が、一塁へ向かう。
ノーアウト。
チャンスだった。
「ここからだよ!」
スタンドから声援が飛ぶ。
しかし――。
相手ピッチャーが踏ん張った。
次の打者を打ち取り、その後の打者も抑えていく。
結局、その回に得点は入らなかった。
試合は、そのまま終盤へ。
そして――。
最後までスコアは動かなかった。
試合終了。
スコアボードには、
一対〇。
大輝たちのチームの敗戦が表示されていた。
*
試合終了後。
両チームの選手たちが、ホームベース前に整列する。
深く頭を下げる。
その中には、涙を浮かべている三年生の姿もあった。
高校最後の夏。
この試合が、最後の試合になった選手たち。
整列を終えた選手たちは、アルプススタンドへ向かう。
そこには、応援に来ていた保護者や学校の生徒、先生たちがいた。
選手たちが一礼する。
その瞬間――。
スタンドから大きな拍手が起こった。
「お疲れさまー!」
「よく頑張ったー!」
「ありがとうー!」
いくつもの声が飛ぶ。
「魁ー!!」
奈緒が立ち上がる。
「お疲れさまー!!」
声を張り上げる。
目には涙が浮かんでいた。
魁がスタンドを見る。
奈緒と目が合う。
魁は、少しだけ笑った。
奈緒も涙を拭きながら笑う。
温かい拍手を背に受けながら、選手たちは、もう一度頭を下げた。
*
学校へ戻った野球部では、慰労会が行われた。
最後まで戦った三年生たちを囲み、二年生や一年生も言葉を交わす。
悔しさはある。
けれど――。
高校最後の夏を終えた三年生たちの表情には、どこか清々しさもあった。
大輝も、その輪の中にいた。
頭にはまだ少し違和感があったが、検査では大きな異常はなかった。
それでも監督からは、しばらく無理をしないように言われていた。
*
翌日の教室。
「大輝……、大丈夫だった?」
美香が心配そうに大輝を見る。
「うん。もう大丈夫だよ」
大輝が笑う。
「よかったぁ」
カンナが安心したように笑った。
「丈夫さだけは取り柄だからね、大輝は!」
「カンナ……」
美香が呆れた顔をする。
「それはいくら何でも大輝が可哀想だよ」
カンナが笑う。
そんなカンナを見てた大輝も、笑った。
「……何で大輝まで笑うわけ?」
美香が不思議そうに見る。
「内緒!」
カンナが笑う。
「ね、大輝」
「う、うん」
大輝も少し照れたように頷いた。
「……?」
二人を交互に見た美香は、それ以上は聞かなかった。
「でも、大事にならなくて良かった」
奈緒がほっとしたように言う。
「先輩たちも心配していたんだから」
「はい」
大輝が頷く。
「監督には報告をしました。でも……試合は残念です」
「負けは負けだよ」
奈緒は少し寂しそうに笑った。
「慰労会のあと、彼とも話したけど、しっかり区切りはついたみたい」
「次は進路決定だって」
「魁先輩は、野球を続けるんですか?」
大輝が聞く。
「うん」
奈緒が頷く。
「地元の企業に就職して、そこのクラブチームで続けるみたい」
「そうなんですね」
「高校野球は終わっても、野球を辞めるわけじゃない」
奈緒はそう言って笑った。
「進路かー」
美香がふと呟いた。
「私、何にも考えてない……」
「私たちはまだ二年生だからね」
奈緒が笑った。
「でも、私は東京の大学に行こうと思ってるの……」
けれど、その顔には少しだけ寂しさが混じっていた。
「だから……私たち、遠距離恋愛になっちゃいそう」
「そっか……」
美香が小さく呟く。
「奈緒はちゃんと考えてるんだね」
「うん」
奈緒は頷いた。
「まだ具体的なことは決めてないけどね」
「カンナは進路どうするの?」
美香がカンナへ視線を向けた。
「えっ?」
突然話を振られたカンナが、目を丸くする。
「ええとー……」
カンナの目が、ほんの少し泳いだ。
そして――。
「何にも考えてないよー!!」
カンナは、いつものように笑った。
「……」
美香がカンナを見つめた。
「カンナらしいね」
奈緒が笑った。
「えへへ」
カンナは頷くと、みんなを見渡して声を弾ませた。
「ねぇ! 夏休みに入ったら、みんなでお祭りに行こうよ!」
「お祭り! うちも行きたい!」
咲良が会話に入ってきた。
「咲良……、いつの間に――」
「じゃあ、みんなで行こう!」
カンナが嬉しそうに笑った。
「行こー!」
教室に、明るい声が響いた。
窓の外には、夏の青空が広がっていた。




