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あの空 〜of kanna〜  作者: kooy


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第22話 『君の大切なもの』

 カンナと奈緒がベンチ裏へ駆け込むと、そこにはすでに大勢の関係者やマネージャーが集まっていた。


 その中央に――。


「大輝……」


 担架に乗せられた大輝がいた。


 目を閉じたまま、動かない。


「大輝!」


 カンナが駆け寄る。


 担架の周りにいた関係者が、カンナを見る。


「頭を強く打ってます。声をかけるのは大丈夫です。ただ、身体は揺らさないでください」


「……はい」


 カンナは頷いた。


 そして、そっと大輝の手を取る。


「大輝……」


 返事はない。


「お願い……起きてよ……」


 そのとき、隣から聞き慣れない女性の声が響いた。


「大輝!」


 カンナが振り返る。


 そこには、少し息を切らした年配の女性が立っていた。


 そして――。


 遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。


 少しずつ大きくなる。


 救急車が球場へ入ってくる。


 救急隊員が駆け寄ってきた。


「頭部を強く打った方ですね?」


「はい」


 関係者が答える。


「身内の方、または関係者の方はいらっしゃいますか?」


「はい!」


 隣にいた女性が手を上げる。


「母親です」


「分かりました」


 救急隊員が大輝の状態を確認する。


 カンナは、大輝の手を握ったまま離れなかった。


「あの……」


 カンナが顔を上げる。


「わたしも一緒に行っていいですか?」


 救急隊員がカンナを見る。


「君は?」


「……」


 その横で、大輝の母親がカンナを見つめた。


「あなた……カンナさん?」


「はい。そうです」


 母親の顔が少しだけ和らぐ。


「大輝がいつも話してる……」


 そして、救急隊員を見る。


「この子も一緒に行ってもいいですか?」


「ご家族の方が一緒なら、大丈夫ですよ」


「ありがとうございます!」


 カンナの顔が少しだけ明るくなる。


「さあ大輝、行こうね」


 大輝の母親が、優しく声をかける。


 担架が救急車へ運ばれていく。


 カンナも、その後を追った。


     *


 救急車の中。


 サイレンの音が、車内に響いている。


 大輝はまだ目を覚まさない。


 カンナは、大輝の手を握っていた。


「大輝……」


 何度呼んでも、返事はない。


 カンナの目には、涙が浮かんでいた。


 その様子を、大輝の母親が静かに見つめている。


「大丈夫よ」


「……え?」


「この子、強いから」


 母親は、穏やかに笑った。


 カンナは顔を上げる。


 改めて見ると、どことなく大輝に似ていた。


「いつも大輝が家で自慢してるのよ」


「……え?」


「『とても可愛い子が僕のことを応援してくれるんだ』って」


「……」


 カンナの頬が、少し赤くなる。


「カンナさんは、本当に可愛いのね」


「い、いえ……」


 カンナは照れながら首を振った。


「いつも……わたしのほうが、大輝から勇気をもらっています」


 そして、大輝を見る。


「大輝……」


 握った手に、少し力を込める。


「早く起きてよ……」


 母親は、そんなカンナを静かに見つめていた。


 そのとき――。


「……」


 カンナの手の中で、大輝の指がわずかに動いた。


「……え?」


 カンナが顔を上げる。


「大輝?」


 もう一度。


 今度は、はっきりと指が動いた。


「動いた!」


 カンナが叫ぶ。


「大輝ー!」


 大輝の瞼が、ゆっくりと開く。


「……う……」


「大輝!」


 カンナが身を乗り出す。


「大丈夫!?」


 大輝はぼんやりとカンナを見る。


「……カンナ……?」


「うん!」


 カンナの目から、涙がこぼれた。


「カンナだよ!」


「……そっか」


 大輝は、少しだけ笑った。


「よかった……」


 カンナは大輝の手を、ぎゅっと握った。


「大輝、良かったー……」


 その様子を見ていた母親も、ほっとしたように微笑んだ。


     *


 病院に到着すると、大輝はすぐに検査を受けることになった。


 カンナと母親は、病院の待合スペースで結果を待った。


「大丈夫かな……」


 カンナは落ち着かない様子で、何度も診察室のほうを見る。


「大丈夫よ」


 母親が言う。


 それでもカンナは、心配そうに扉を見つめていた。


 しばらくして――。


「お待たせしました」


 医師が出てきた。


「検査の結果、大きな異常はありませんでした」


「本当ですか?」


 カンナが立ち上がる。


「はい。ただ、今日は安静にしてもらって、しばらく様子を見てください」


「分かりました」


 母親が頭を下げる。


 カンナも、大きく息を吐いた。


「よかった……」


 その日のうちに、大輝は帰宅できることになった。


     *


「やっぱり、うちの子は丈夫さだ(・)け(・)が取り柄だからね」


 病院を出たところで、大輝の母親が笑った。


「母さん、『だ(・)け(・)』って何だよ」


 大輝が少し不満そうに言う。


「ふふっ」


 母親が笑う。


 その様子を見て、カンナも思わず笑った。


「でも、カンナさん」


 母親がカンナを見る。


「こんな子でも、こんなに心配してくれてありがとうね」


「いいえ、こちらこそ……!」


 カンナは首を振る。


「大輝は、わたしにとって大切な人だから」


「……」


 大輝が少し驚いた顔をする。


「カンナ……ありがとう」


「うん」


 カンナは笑った。


「でも、本当に大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「少しでもおかしかったら、すぐ病院に行ってね!」


「分かってるって」


「本当に?」


「本当だよ」


 大輝が笑う。


「僕は丈夫さだ(・)け(・)は取り柄だからね」


「『丈夫さだ(・)け(・)』って、自分でも認めてるじゃん」


「……あ」


 大輝と母親が笑う。


 その笑いにつられて、カンナも笑った。


 けれど――。


 笑いながらも。


 カンナの目は、何度も大輝の顔を確かめるように見つめていた。

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