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あの空 〜of kanna〜  作者: kooy


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第21話 『君の応援』

 七月。


 今年の梅雨明けは、例年より早かった。


 第二日曜日。


 カンナたちは、野球部の夏の大会、第二回戦の観戦に来ていた。


 第一回戦は授業日と重なっていたため、一般生徒は観戦することができなかった。


 カンナは学校を休んででも応援に行こうとしていた。


 けれど――。


『ダメだよ。学校休んじゃ』


 大輝に止められた。


 結局、その試合に大輝が出ることはなかった。


 だが、チームは勝ち進んだ。


 そして今日。


 二回戦の日がやってきた。


「わぁ……!」


 球場に入ったカンナが、目を輝かせる。


「やっぱり、こういうところで見ると違うね!」


「そうだね」


 美香が笑う。


「カンナ、今日はちゃんと大輝を応援しなよー」


「もちろん!」


 カンナは元気よく答えた。


 奈緒も、緊張した様子でグラウンドを見つめている。


 スコアボードには、両チームのメンバーが表示されていた。


 カンナは選手の名前を目で追っていく。


 メンバー表に、大輝の名前はなかった。


「今日もスタメンじゃないみたいね」


 奈緒が言った。


「そっか……」


 カンナは少しだけ唇を尖らせて、グラウンドへ視線を戻した。


「あ!」


 ベンチに大輝の姿を見つける。


「大輝いた!」


 帽子をかぶり、グラウンドを真剣な表情で見つめている。


「よかったね」


 美香が笑う。


 そのとき――。


 試合開始を告げるサイレンが、球場いっぱいに鳴り響いた。


     *


 先攻は大輝たちのチームだった。


 試合が始まると、大輝はベンチからグラウンドへ出ていった。


「……あれ?」


 カンナが首を傾げる。


「大輝がファーストの横に立ってるよ」


「ああ」


 奈緒が頷く。


「ファーストコーチだね」


「ファーストコーチ?」


「ランナーに進塁や帰塁の指示を出したりする、重要な役目よ」


「へぇー」


 カンナは感心したように大輝を見る。


 そのとき、一塁ランナーが塁から離れた。


「バック、バック!」


 大輝の声が響く。


 ランナーが、あわててベースへ戻る。


「大輝、ちゃんと指示出してるね」


 美香が笑った。


「頑張ってる!」


 カンナも嬉しそうに頷く。


 次の打者が打席に入る。


 そして――。


 打球が一塁方向へ飛んだ。


 ファーストが捕球する。


「アウト!」


 チェンジ。


 大輝はすぐに走り、打者が外したヘルメットを拾った。


 そして、戻ってきた選手へ手渡す。


「大輝、忙しそう」


 カンナは呟く。


 ベンチに戻る大輝を、カンナはじっと目で追った。


「大輝ー!」


 カンナの大きな声が球場に響く。


 大輝が振り返り、アルプススタンドを見上げる。


 カンナは嬉しそうに腕を振った。


 大輝も少しだけ笑って帽子の鍔をずらすと、すぐに真剣な表情へ戻った。


     *


 試合は投手戦になった。


 相手チームのピッチャーは速球を武器にしている。


 なかなか打ち崩せない。


 一方、大輝たちのチームのピッチャーは――。


「魁、頑張って!」


 奈緒が祈るようにグラウンドを見る。


 マウンドに立つのは、奈緒の彼氏、魁だった。


 多彩な変化球を武器に、相手打線を抑えていく。


「ナイスボール!」


 奈緒は一球一球に反応しながら、腕を組んでハラハラしていた。


「奈緒、緊張しすぎじゃない?」


 美香が笑う。


「だって……」


 奈緒はグラウンドから目を離さない。


「一球で試合が変わるから」


 その言葉どおり、試合はなかなか動かなかった。


 五回裏。


 ツーアウト。


 ランナー、一塁。


 魁が投げる。


 相手打者が、バットを振った。


 カキンッ!


 打球はライト線ぎりぎりへ伸びていく。


「抜けた!」


 ライトが追う。


 しかし、打球はそのままフェンス際まで転がっていった。


 一塁ランナーが一気に三塁を回る。


 ライトからの送球が中継される。


 そして――。


「ホーム!」


 ボールが本塁へ返ってくる。


「セーフ!」


 先制点を許した。


「……あぁ」


 奈緒が小さく息を吐く。


 それでも魁は、その後の打者を三振に抑えた。


 五回終了。


 大輝たちのチームは、一点を追う展開になった。


     *


 試合はそのまま八回へ進んだ。


 八回表。


 ノーアウト。


 相手チームのピッチャーがマウンドに立つ。


 ベンチから、一人の選手が出てきた。


「大輝……?」


 代打として呼ばれたのだ。


 カンナは、自分のことのように喜んだ。


「やったぁ!」


 美香も立ち上がる。


「頑張れ、大輝!」


 大輝がバッターボックスへ向かう。


 カンナは、大輝が休日も自宅で自主練を続けていることを知っている。


 レギュラーになれなくても、諦めずに努力していた。


 だから――。


「大輝ー!」


 カンナは大きな声援でエールを送った。


「頑張ってー!!」


 大輝がアルプススタンドを見る。


 カンナと目が合った。


 大輝は、ほんの少しだけ頷いた。


 そして、バッターボックスに立つ。


 相手ピッチャーが、投球動作に入った。


 第一球。


 大輝が振る。


「カキーン!」


 鋭い音が響いた。


 打球は大きく伸び、相手チームのアルプススタンド方向へ飛んでいく。


「おおおっ!」


 観客席が沸いた。


「ファウル!」


 大輝は一度、バットを握り直した。


 吹奏楽の演奏とともに、観客席から再び大きな声が上がる。


「大輝ー!」


 カンナも叫ぶ。


 大輝の強い意気込みが、そのバットの構えから伝わってきた。


 二球目。


 相手ピッチャーが投げた。


 ボールが――。


 内角へ抜け込んでくる。


「……!」


 大輝が咄嗟に身体を縮める。


 避けようとした。


 しかし――。


 鈍い音がした。


 ボールが、ヘルメット越しに大輝の頭部へ直撃した。


「――っ!」


 大輝の身体が大きく揺れる。


 そして。


 バッターボックスに倒れた。


「大輝ー!!」


 カンナの悲鳴のような声が、球場に響いた。


「……」


 大輝は動かない。


 球場が、一瞬で静まり返る。


 審判が駆け寄る。


 ベンチからも選手たちが飛び出してくる。


「大輝!」


「橋本!」


 試合は中断された。


 球場係員が駆けつけ、担架が運び込まれる。


「どうしよう……」


 カンナの顔から、血の気が引いていく。


 ただ、グラウンドに倒れている大輝を見つめていた。


「カンナ」


 奈緒が立ち上がる。


「大輝のところへ行こう」


「……え?うん」


 カンナは、震える手で手すりを掴んだ。


 そして――。


 奈緒と美香と一緒に、ベンチ裏へ向かって走り出した。


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