第14話 『君はそれだけで幸せ』
朝の教室。
「美香! おはよー!」
「おはよう。カンナ、今日は何かご機嫌だね」
「うん!」
カンナは満面の笑みで答えた。
「昨日さぁ、あのあと大輝とお話して帰ったんだけど……」
「うん。で?」
「『カンナ』って、下の名前で呼んでもらえたんだ!」
「……」
美香は一瞬、黙った。
「それだけ?」
「うん。それだけだよ」
「はーぁ!?」
美香が呆れたように声を上げる。
「それだけ……。カンナ、相当幸せだね」
「うん! 幸せだよ」
カンナは嬉しそうに笑った。
「……どうして?」
「え?」
美香は、少しだけ呆れた顔をする。
「それだけで、そんなに嬉しいんだ」
「うん!」
「はーぁ……」
美香はため息をついた。
カンナは首を傾げながら笑った。
その笑顔を見て、美香も笑う。
「まぁ、カンナが嬉しいならいいけど」
「うん!」
カンナは嬉しそうに頷いた。
「カンナ。今日は、一緒に帰ろうね」
「うん。駅前のイオシに寄って行こうよ!」
「いいよ。私はいつでも暇だから……」
そう言って、美香はカンナの顔を見る。
「……」
カンナは、嬉しそうに笑っていた。
美香も、つられるように笑った。
「じゃあ、決まりね」
「うん!」
そのとき、美香が教室の窓のほうを振り返った。
「あ!」
「何?」
「大輝。カンナのこと見てるよ」
「え?」
カンナは、すぐに大輝のほうを向いた。
目が合った。
「……」
カンナは、ぱっと笑顔になる。
そして、右手を小さく上げた。
ひらひらと、可愛らしく手を振る。
大輝は少し驚いたように目を逸らした。
耳が、少し赤くなっている。
「ふふっ」
カンナが笑う。
「大輝、カワイイね」
「ハズいに決まってんじゃん」
美香は呆れたように言った。
「カンナは、さすがだよ……」
「そう?」
「そう」
美香は苦笑する。
「カンナに振り回される大輝が、ちょっと可哀想に思えてきた」
「えーぇ!」
カンナが頬を膨らませる。
「それ、ひどくない?」
「ひどくない!」
「ひどいよー!」
「はいはい」
二人は顔を見合わせて笑った。
教室には、朝の明るい声が響いている。
今日も、いつもの一日が始まる。




