第13話 『君の名を呼ぶ』
「ありがとうございましたー!」
野球部員の終わりの挨拶がグラウンドに響く。
カンナはグラウンドの脇で、大輝が出てくるのを待っていた。
そして――。
部室から出てきた大輝に、カンナが手を振る。
「大輝ー! お疲れさまー!」
「朝倉さん……」
大輝は少し驚いた顔をした。
「……今日はダンスの練習?」
「うん!」
カンナは嬉しそうに、大輝のところへ駆け寄った。
「……『カンナ』でいいよ」
「え?」
「だから……名前」
カンナは少し照れながら笑う。
「『朝倉さん』じゃなくて、『カンナ』でいい……」
「……う、うん」
大輝は少し考えるように頷いた。
そのとき、美香がカンナに声をかけた。
「カンナ。私、先に帰るね」
美香の隣で、咲良も手を上げる。
「うちも帰るよ。美香、一緒に行こう」
「バイバイ!」
「バイバイ。また明日ー!」
カンナが手を振る。
二人が帰っていく。
カンナの少し先では、奈緒も彼を待っていた。
「魁……」
部室から出てきた男子たちに、奈緒が近づく。
「魁ー。駐輪場で待ってるわ」
野球部員の声が飛んできた。
「ああ。後から行く」
魁はそう答えると、奈緒に向き直った。
「疲れてるから、あまり時間とれないけど……」
「うん、いいよ」
奈緒は笑った。
「ダンスの練習がさっき終わって、私もちょうど帰るところだったし」
「そっか」
「練習、お疲れ様」
「ありがとう」
そんな二人の様子を見ていたカンナが、ぽつりと言った。
「奈緒たちって、お似合いだね」
大輝も二人を見る。
「美男美女だよね」
「……」
カンナが大輝を見る。
「わたしは『美女』じゃなくて、すみませんねぇー」
少し意地悪そうに言って、笑う。
「え……?」
大輝が慌てる。
「いやいや、そうじゃないよ!」
「じゃあ、何?」
「朝倉さんは……キレイだよ」
「ほーぉ」
「それに……」
大輝は少し困ったように言葉を探す。
「とても可愛いって言えばいいのかな……」
「……!」
カンナの顔が赤くなる。
「……だ、か、ら」
カンナは照れながら、大輝を見る。
「カンナでいいよ」
「……う、うん」
「……でも」
カンナは嬉しそうに笑って言った。
「大輝に『可愛い』って言われちゃった」
「……」
「ありがと」
大輝も、少し照れたように笑った。
「じゃあ、僕たちは駐輪場に行こうか」
「うん!」
二人は、奈緒たちと離れ、並んで歩き始めた。
「今日の練習、大変だった?」
「今日は走り込みが多かったかな」
「へー。大輝って足速い?」
「普通だと思う」
「じゃあ、今度競争しようよ!」
「え?」
「わたし、けっこう速いよ!」
「……そうだった?」
「ひど〜いっ!」
二人の笑い声が、夜の校舎に響く。
そして、駐輪場に着いた大輝は、自転車にまたがり、少しだけ照れながら言った。
「うん。さようなら。……カンナ」
カンナの顔が、ぱっと明るくなる。
「うん、大輝! また明日ね。バイバイ!」
大輝は自転車を漕いで、ゆっくりと走り出した。
カンナは、その背中を嬉しそうに見送った。
そこへ、魁と分かれた奈緒がやってきた。
「カンナ、行こう」
「うん!」
二人は自転車に乗り、駅へ向かった。
しばらく走ったところで、奈緒が言った。
「大輝って、いい彼氏だね」
「そうでしょう!」
カンナは嬉しそうに答えた。
「……まだ、付き合ってないけどね」
「あ、そうね」
奈緒が笑う。
「なんか、もう付き合ってるみたいに見えるね」
「えー? そうかな?」
カンナは照れながら笑った。
「うん……」
奈緒は前を向いた。
「……私の彼、魁は主将でピッチャーで、顔もいいけど……」
「けど?」
「……うんうん。何でもない」
奈緒は少し笑った。
「あっ、電車の時間。急ご」
「え? ちょっと、奈緒ー!」
二人は自転車を漕いで、駅へ向かう。
夜の道に、二人の声が響いていた。




