第10話 『君と話したい』
翌朝。
カンナが学校へ行くと、教室の前に美香と奈緒が立っていた。
「良かったー。カンナ、おはよう!」
美香が笑顔で手を振る。
奈緒も、ほっとしたように笑った。
「お、おはよう!」
カンナは、声も表情もぎこちなく固かった。
「どうしたの?」
カンナが首を傾げる。
すると、美香と奈緒は顔を見合わせた。
二人は、合図するように頷く。
「……?」
次の瞬間。
奈緒がカンナの鞄を持ち、美香がカンナの手を取った。
「え? ちょっと、何?」
「いいから、いいから!」
「入って!」
二人に連れられるまま、カンナは普段ほとんど使わない空き教室へ入った。
「何? どうしたの?」
カンナが振り返る。
「……え?」
教室の中に、大輝がいた。
「大輝くん……?」
カンナが目を丸くする。
美香と奈緒が外へ出る。
そして――。
ガラッ。
ドアが閉まった。
空き教室には、カンナと大輝の二人だけになった。
「え……?」
カンナは戸惑いながら、大輝を見る。
大輝は、いつもより明らかに緊張していた。
そのことが、カンナにも伝わってくる。
「朝倉さん……」
「う、うん」
「昨日……僕のことで、いろいろ悩ませたみたいで」
大輝は一度、言葉を止めた。
「ごめん……」
「え?」
カンナが驚く。
「美香が何か言ったの?」
「そういうことじゃないんだ」
大輝は首を振った。
「昨日、向井に告白されたとき……朝倉さんが僕のことを『好き』だって、みんなの前で言ってたから」
「……!」
カンナの顔が赤くなる。
「僕は……向井みたいに、簡単に『好き』って言えない」
大輝は少し俯いた。
「でも……朝倉さんの気持ちを知って、すごく嬉しかった」
「……」
「だから、ちゃんと向き合いたいと思った」
カンナは、じっと大輝を見る。
「朝倉さんも、僕のことをまだよく知らないよね」
「うん……」
「僕も、朝倉さんのことをよく知らない」
大輝は、ゆっくり顔を上げた。
「だから……まず、たくさん話しませんか?」
「……」
カンナの顔が、ぱっと明るくなる。
「うん!」
大輝が、少しだけ笑った。
カンナも笑う。
そのときだった。
「カンナーー!!」
廊下から、美香の大きな声が聞こえてきた。
カンナが教室の時計を見上げると、もうチャイム直前の時間だった。
「やばっ、もう戻らないと……!」
二人は空き教室を出る。
廊下を走りながら、カンナがちらっと大輝を見る。
大輝も、カンナを見る。
「……」
目が合った。
カンナが、笑う。
大輝も、小さく笑った。
教室の前では、奈緒が担任の土井と話していた。
「先生、昨日の提出物のことなんですが……」
すでにチャイムは鳴り終わっている。
そこへ、美香が教室から駆け寄ってくる。
「カンナ、早く!」
「うん!」
カンナと大輝は、笑顔で教室へ入った。
「セーフ!」
「……あっ。お前ら遅刻だろ」
土井が呆れた顔をする。
「先生、二人とも鞄はもう机に置いてありますよ」
「いや……。それは関係な……くないか?」
教室に小さな笑い声が広がった。
すると、咲良がカンナに声をかけた。
「カンナ……昨日、ごめんね」
「え?」
「カンナの気持ちも知らないで、勝手に噂して騒いじゃって……」
「私も、ごめん」
「俺も……ごめん」
思いもよらない謝罪に、カンナは一瞬言葉を失った。
昨日、自分が教室を出たあと。
美香と奈緒が、みんなに話してくれたのだろう。
カンナは、ふっと笑った。
「いいよ。もう大丈夫だから!」
「ほんと?」
「うん!」
いつもの笑顔。
その笑顔を見て、クラスにも少しずつ笑顔が戻っていく。
「やっぱり、カンナは笑ってるほうがいいな」
「うん。朝倉がいると、なんか明るくなるし」
「それ、土井先生も思ってるでしょ?」
「俺に振るな!」
「ははは!」
カンナも笑う。
その隣で、大輝も笑っていた。
昨日とは違う朝。
カンナはとても嬉しかった。




