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つがい解放戦線ー運命のつがいとかいう害悪制度をぶっ壊すー  作者: wag


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6/12

垣間見る被害者の暮らし

「…どういうことだ」


闇夜に紛れたグレースは、とある一人のつがい被害者の屋敷に忍び込んでいた。あらかじめ調査した屋敷の見取り図で、奥方の寝室だと書かれた部屋を覗き込む。


果たしてそこには一人の女性が眠っていた。

だが。


「…別人だ」


そこで高価なネグリジェを身に纏って眠っていた女性は、聞いていた姿形とも姿絵とも似ても似つかない。


不審に思ったグレースは、今度は昼間にごみ回収業者のふりをして忍び込んだ。回収したごみの中に使えそうなものを見つけ、屋敷の中で働く掃除婦に尋ねる。


「こちらの奥様はガードルートというお名前ですか?」


「ああ、そうだよ。

 ごみ回収業者が奥様に何の用だい」


「実はごみの中に、奥様宛の未開封の手紙が」


「あぁ、預かろうか?」


「いえ、ごみから何か取得する場合、

 許可が必要でして」


「なるほどね、丁度あそこだよ。

 旦那様と散歩しておられる。

 さすがは運命のつがいだ、

 いつまでも仲睦まじいお二人だよ」


…平民には、「運命のつがい」がハッタリであることはあまり知られていない。


しかし妙だ。


確かに庭園には仲睦まじい夫婦の姿があるが、やはりあの奥方はグレースが聞く「ガードルート」とは似ても似つかない。


グレースは接触を試みた。


「失礼いたします、ご主人様、奥様」


跪いて頭を下げ、屋敷の主人に声をかける。

主人はあからさまに嫌悪感を剥き出しにして答えた。


「…なんだ、ごみ業者か。

 あまり汚いナリで近づくな」


「申し訳ございません。

 実はごみの中に、奥様宛の未開封の手紙が」


「手紙?どんなの?

 間違って捨てたのかなあ」


奥方は間延びした声で、だがこちらに歩み寄ってくれる。手紙を渡すグレース。


「なあんだ、これはいいのよ。

 ドレスメーカーからのご用窺いよ。

 イマイチな店だったから読まなかったの」


「さようでしたか」


「じゃあそれも回収しておいてね」


「かしこまりました」


そして夫婦の前から去ったグレースは、確信を持つ。


『やはり別人。

 ガードルートの名を騙った、平民だ』


先ほどの奥方の発音は、貴族では嫌われ、避けられる抑揚だった。ガードルートは元は男爵令嬢。下位貴族とはいえ歴史ある家門、あえてその発音をするはずがない。


『どういうことだ』


グレースは探った。

すると分かったことがある。


屋敷の主人、ハウエル伯爵は自らのつがいを愛する余り、奥方を公式の場に出さないこと。


ガードルートが途中で入れ替わったということではなく、屋敷に来た時からあの女性であったこと。


…そして、ガードルートの輿入れと同時期に、ひとりの女性使用人が雇われたこと。


グレースはある夜、その使用人を尋ねた。


彼女は広い屋敷の中の最も奥、小さな繕い部屋にいた。

繕い部屋、と言っても貴族の服ではなく、使用人の破れた服の繕いや裾上げ、テーブルランナーなどの繕いをたった一人で担当していた。


突然現れたグレースに驚きながらも、作業の手を止めて迎え入れてくれる。


「こんにちは、ロマ。

 …いえ、ガードルート様」


その使用人は、グレースが入手した姿絵そのままの姿だった。


「…あなたは?なぜその名を…」


「私はグレース。禁足地のグレース。

 …ミゲーラ様よりお手紙です」


グレースが差し出した封筒を、使用人ロマこと"本物の"ガードルートは受け取った。中身を読み、うっすらと涙ぐむ。


「ああ、なんて嬉しいこと。

 見て、脱出するなら支援する、ですって。

 私を正しく見つけてくれる人がいた」


「ガードルート様、どうなっているんです?」


ガードルートは語った。


「ハウエル伯爵には平民の恋人がいたの。

 それがロマ…今のガードルートよ。

 私は最初から、身代わりとして娶られたの。

 力の無い男爵であるうちが狙われたのよ」


「逃げ出せはしなかったのですか?」


ふるふると首を横に振る。


「仕事をさせることで監視されてるの。

 この屋敷では誰も知らないけれど、

 彼と婚姻しているのはロマでなく私なのよ。 

 有事の際ちゃんと姿を見せられるように、

 閉じ込めて生かすつもりみたい」


「…外に手紙は出せますか?

 我々とのやりとりはできる?」


「いいえ、手紙は送れないわ。

 レターセットなど貰えないもの」


「なるほど。

 ではこれを使ってください」


グレースはあらかじめ用意したたくさんのレターセットを渡した。宛先は既に書いてあるものだ。


「さて、どうやって手紙を受け渡しするか」

「…グレースさん」


ガードルートは立ち上がり、ランプの明かりを消した。


部屋に闇が満ちる。

だが、グレースには問題とならない。この国の淑女は夜目も利く。夜間訓練があるからだ。


そしてそれは、ガードルートも同じ。


音もなく勝手口から外へ滑り出ると、ふたりは屋敷を囲う塀の足元にやってきた。


「この塀のすぐ向こうに、郵便ポストがあるの」

「…ガードルート様」

「声を控えて」


ガードルートはおもむろに塀を触ると、その頂きを見つめた。


ざ、と2.3歩後ろに後ずさる。


そして勢いよく助走を付けると、塀を蹴り上がり、見事な壁登りで塀の上に立ち上がった。


明るく照らす月の光を背後に、ガードルートはグレースを見つめる。


「針仕事に閉じ込められても、

 トレーニングを欠かしたことはなかった。

 思えば私は、ずっと期待していたのかも。

 …誰かが私を見つけてくれるのを」


それはまさしくこの国の、心身を鍛え上げた戦う淑女の姿だった。



ーーーーーーーー


ガードルートはあれから、怪しまれぬよう屋敷に留まりながら、逃げ出す準備を進めている。


なぜ、これまでは新規のつがい被害者の救済に徹していたミゲーラが、突然その手を過去の被害者まで広げたのか。


グレースはそれが疑問でならなかったが、答えはある日明かされた。


夕食のさなか、ミゲーラが言ったのだ。


「諸君、重要な話がある」


と。


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