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つがい解放戦線ー運命のつがいとかいう害悪制度をぶっ壊すー  作者: wag


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5/12

禁足地の女として

「グレース、今日も精が出るじゃないか」


「ミゲーラ様」


リーダーであるミゲーラに声を掛けられ、畑を耕す手を止めるグレース。

この地に来て覚えた農耕は、すっかりグレースのライフワークになっていた。


「どうだ?今年の土は」


「いいですよ。

 昨シーズンいい種芋も取れましたし、

 きっと今年は美味しい芋ができます」


黒くふかふかした土を手ですくい、グレースは微笑んだ。


「ならば備蓄ができるな。

 グレース、今年は多めに植えてくれ。

 開いた土地を開墾して畑を拡張してもいい」


「あら、どうされたのです?

 新たなつがいの報せが?」



…この地、「禁足地」では噂通り、女達が村のようなコミュニティを作って生活していた。


絶対的なリーダーであるミゲーラの統治の元、女達は働き、耕し、家事を分担し、そして心身を鍛える日々を送る。元が貴族の女たちということもあり、数は少ない。増減はあるが、多くて30人ほどの所帯となっていた。


女達はここで傷を癒やし、一人で生きる術を学び、

そうして門を出て市井へ還っていく。


元の国に戻る者、他国へ渡る者それぞれだが、

グレースはそのいずれにも属さなかった。


季節が巡る度、ミゲーラはグレースに問う。

「グレース、君はどこで生きる」と。


その度にグレースは答えるのだ。

「この地で生きる」と。


今ではグレースの後に入ってきた女性のほうが多く、年を重ねたグレースはミゲーラの側近と言っても過言ではないところに位置していた。




ミゲーラはグレースの育てた土を確かめ、


「なるほど良い土だ」


と唸った。そしてグレースの肩を叩く。


「今年は事が動くぞ。

 我らの悲願が近づくことになるだろう」


詳細は後で話す、と去って行ったミゲーラの背を見送り、グレースは畑を離れた。

やってきたのは城門近く、グレースに与えられた家だ。


城門側の壁に取り付けられた棚の上、簡易の墓標に手を合わせる。



「アーチー…

 いつか、いい報告ができるように頑張るね」



ボウガンの直撃を受けたアーチーは、その場で動かなくなったという。

その骸を馬が引きずっていき、グレースの家、ゴルチエ子爵家への土産となったそうだ。


それらの事は皆、あの日自分の代わりにおとりになってくれた戦士が教えてくれた。


あの日、つまらぬ迷いで脚を止めた己を、

グレースは悔いた。


悔いて悔いて、しばらくは動けなかった。

食事も受け付けず、水も飲まず、このまま朽ちていくべきだと自らに言い聞かせた。


そんなグレースにミゲーラは言った。


「彼が守ろうとした君の命を、

 君自身が粗末に扱ってどうする」


その言葉に、あの日背中を押してくれたアーチーの声が、グレースの胸に鮮やかに蘇った。



『行け!グレース!』


『グレースが、

 自分を殺して生きていくのを見るのは嫌だ』



そしてグレースは生きた。


水を口に含み、身体を清めた。

食事を取って体力を取り戻し、天に召されたアーチーのために木を削って墓標を作り、日夜祈りを捧げた。


また身体を鍛え、作物を育て、恵みに感謝する。


そうして日々を過ごした。



…全てはグレースの胸に新たに宿った「悲願」のために。



「アーチー、私、やるよ。

 つがい制度を、ぶっ壊す。

 ミゲーラ様と一緒に」



ーーーーーーーーーーーーー


「…ミゲーラ殿、

 これは我らの悲願。

 共に戦ってはくださらんか」



村のすぐ外の簡易に作られた小屋にて、ミゲーラは客人と会っていた。


「この血判状は…偽物ではあるまいな」


「もちろん。 

 正真正銘、本物ですよ」


ミゲーラが手に取ったのは、一枚の羊皮紙。

書かれているのは幾人もの名前と、その隣に彼らの血で押した拇印。


「騎士爵、男爵、子爵、伯爵…。

 …侯爵まで名を連ねるか」


書かれている名は全て貴族家の現当主。

これだけの数の当主が一枚の紙に名を連ねるなど、この血判状に篭められた強い気持ちをくみ取り、ミゲーラは目を細めた。


「高位貴族の中にも、

 孫娘をつがいに取られた者はいるのです」


「…なるほど」


「我らはつがい制度に娘や孫娘を奪われた、

 いわば被害者の会。

 このところ被害は減るどころか増えるばかりだ」


「さよう。

 我が禁足地に逃げ込む女も後を絶たない」


「それでも、貴殿の村に入れたのは半分ほどだ。

 ボン・ドレと男達の態度は傲慢になり、

 追っ手のやり口もどんどん残酷になった。

 先日はつがい指名と同時に足の腱を切られた者が」


「なんだと?!」


「まるで狩りだ。

 この悪しき制度を放置していては、

 この国は内から崩れていく」


そう言って、客人はすっと紙の束を取り出した。


それは手紙だった。


つがいとして望まぬ家に嫁がされた、女達の悲鳴。


…簡単に手に入れたものを、人は大切にできない。


偽りの「つがい」の名目で娶られた妻の多くは、

ろくな思いやりも受けられず、軽んじられた。


子供を幾人か産んだあとは、

ひたすら仕事させられる者。


そもそも愛されることなく、

夫は平民の愛人に構いきりな者。


ろくな食事も与えられず、

使用人のような生活を強いられる者。


目を盗んで実家に送られたそれらの手紙は、ミゲーラの目から涙を誘うのに充分だった。


「もちろん…もちろん、

 私も彼女らを救いたい」


「ああ。

 ミゲーラ殿、手を組んではくださらんか」


「承知した。

 だがどうする?相手は手強いぞ」


「実は我らを動かし、結託させた男がいる。

 彼なくしてはこの血判状はなかった」


「…ほう」


「その男は自ら先陣を切り、

 突破口を作るつもりだ。

 彼の案に、我らは乗ろうと思う」


客人の鋭い視線に、ミゲーラはふっと笑う。


「どうやらその男、よほどやり手らしい。

 貴殿がそのような顔をするようになるとは。

 …なぁ、気弱だったゴルチエ子爵よ」


客人とは、グレースの父、ゴルチエ子爵その人であった。


「…娘を傷つけた悪しき制度を、

 残りの人生賭けて壊すと決めたのです」


白髪が増えた頭を掻き、子爵はふにゃりと笑った。


「ミゲーラ殿、よろしいか」


「ああ、共に立ち上がろう」



二人は固く握手を交わす。


長く止まっていた時が、動き出そうとしていた。



ーーーーーーーーーーー


「グレース、仕事だ」


「ミゲーラ様」


今日も畑で作物の世話をしていたグレースの元に、ミゲーラがやってきた。

ミゲーラに連れられ、村の集会所に向かう。


こうして集会所に連れられる時の「仕事」とは、つがい被害者救済に関する仕事であることが多い。


グレースは歩きながら腹の下に力を入れ、ふうっと息を吐いて気合いを入れた。



「……手紙を、届けるのですか」


集会所の机の上、ミゲーラの前に積まれていたのは、たくさんの上等な封筒だった。


「ああ。

 内密に、宛先の人物に確実に頼む」


「心得ました、が。

 この量は何ですか?こんなにつがい取りが?」


「いいや。これはな。

 過去につがい制度で娶られた女たちへの手紙だ」


その封筒はうず高く積まれ、10や20の数ではない。

改めて数としてその現実を見、グレースは絶句した。


「こんなに、逃げられなかった女達が…」


「ああ。

 内容についてはいつか話す。


 繰り返すが、確実に本人にだけ届くよう。

 そして彼女らの状況を見てきてくれ。


 返信が出来そうにない女達には支援を。

 頼んだぞ、グレース」


「…は。

 お任せください」



こうしてグレースはしばらく、夜な夜な闇に紛れて隠密行動を行うことになったのである。


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