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つがい解放戦線ー運命のつがいとかいう害悪制度をぶっ壊すー  作者: wag


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2/12

戦慄の茶会

「ふ…っざけてんじゃないわよ!!」


時は茶会目前。

"神話の茶会"を控え、招待者からドレス一式が贈られてきた。


これは慣例である。

ピンからキリまである貴族家の娘が茶会で恥をかかぬよう、茶会側がドレスを用意し贈るのだ。


グレースはその豪奢なドレスをフィッティングし、天を仰いで唸った。


「どうした?グレース」


ひょっこり顔を出したアーチーがグレースの姿を見てひゅう、と口笛を吹く。


「さっすが、よく似合ってんじゃん」


アーチーの軽い口調に、グレースはむっと口を尖らせる。


「持ってみなさいよ!!このドレス!!」


「は?」


グレースはドレスの裾をつまみ上げ、アーチーに触らせる。


「うげ…なんだこれ」


アーチーは持たされたドレスの裾を何度か上下させ、信じられないという顔をした。


「何だこの重さ?!」


「それぞれのドレープの中に重りが仕込んであるのよ!!

 あと袖も!!靴も!!!」



…そう。

とんでもなく重いのである、このドレス。


鍛え上げられたグレースだからこそ難なく立っていられるが、弱々しい女性であれば立つことすら難しい代物だ。



「ほんと、手段を選ばねえな、あいつら…」


「まぁ、彼らも必死でしょうからね」


いきり立つグレースと、あきれ顔でため息をつくアーチーと侍女。


…運命のつがいに逃げられること、それは恥である。


大仰に神のご意志を謳った途端にその相手に逃げられ、しかも逃げ切られるとあっては、一生その恥はついて回る。しかも神の意志を謳うもんだから、基本的に一発勝負。二度目はない。


このドレスはその試金石。


娘がどれだけ鍛えているか。

逃げ切られる可能性はあるか。


それを量るため、このように嫌がらせの域に達する重いドレスを寄越したのだ。


「この重り、抜いちまえば?」


アーチーが言うと、侍女が首を振る。


「この縫製、ものすごく手が込んでます。

 細工をしたら一発でバレますわ」


「なんでそんなとこに労と金を費やすんだよ…」


そんなことに使うくらいなら、女に花束のひとつでも贈れよ…


アーチーはそう零すが、

それができないのが彼らが彼らたるゆえん。

彼らがモテない理由でもあるのだ。


「仕方ないわ。

 たった数時間よ。耐えきってみせるわ」


「なあ、ひとつ確認するけど、

 茶会で見初められてそのまま拉致…ってことはないよな?」


「昔はあったらしいわ。

 むしろ流行った時期もあったんだけど、

 さすがに非貴族的だってことで今は禁じられてる」


確かに、気に入った相手をそのまま囲って家に帰さないなど、神の意志があったとしても貴族の礼に欠ける。


「それに、こんな重いドレスを纏った女、

 抱えて帰ろうったって難しいわよ」



たしかに。



侍女とアーチーは揃って頷いたのだった。



…それからグレースは、可能な限り多くの時間をこのドレスを身につけて過ごした。


重さに慣れ、足さばきに慣れたその頃、


ついに茶会の日がやってきた。



ーーーーーーーー


「ご武運を」


侍女が悲壮な顔で、メイクアップしたグレースに縋る。


彼女は頑張った。

血色の良いグレースの肌をなんとか土気色にし、目の下には隈を描いた。

張りのあるグレースの顔に皺を演出し、しみを描いた。


かたちのよい唇の輪郭をぼかし、

眉を荒く描き、

何とか美しさを秘匿しようと頑張った。


鏡を見、顔面から漂うあまりの幸薄さに、


「おうふ…良い仕事。

 私、年を取ったらこうなるのかしら」


と軽くショックを受けるグレース。

そんな様子を笑い、


「きっちりそっぽ向かれてこい」


とアーチーもグレースを激励する。

しかしグレースは軽く肩をすくめて言う。


「知ってる?

 "運命のつがい"に指名される女って、

 圧倒的に子爵家と男爵家が多いの」


「そうなのか」


「彼らモテないから、

 高位貴族に運命をふっかける度胸ないのよ」


「な、なるほど」


「…でも、できるだけやってくるわ」



そう言って、憔悴しきった父ゴルチエ子爵と共に馬車に乗り、グレースは出陣した。



心なしか、馬がいつもより重たそうな顔をしていた。



ーーーーーーーーーーーー


嫌がらせのように重たいドレスを引きずり、

茶会の門をくぐったグレースは一目見て理解した。


これはモテないわ、と。


まず空気からして違う。

何か黄色いのである、空気が。



『何?この匂い。

 酸っぱい…?油…?

 いや、この刺激臭。劇薬…?!』



辺りを見回すと、ほんの数人の女性とあとは男、男、男。


男女比10:1くらいのおぞましいアンバランス加減である。


その男達から降り注ぐ視線、視線、視線。



『少しは遠慮しなさいよ!!

 頭の先からつま先までじろじろ見ないでよ…!

 何ニヤニヤしてんのよ、不愉快な!!』



グレースの身近な男と言えば父やアーチーを始めとした屋敷の人たちであるが、ここまであからさまに人を値踏みするような視線を寄越す者はいなかった。


『ふ、不快だわ』


その這うような視線から逃れるように会場に足を踏み入れると、さらなる驚愕がグレースを待っていた。


『茶会なのに…立食…!』


会場に用意されていたのは背の高いテーブルのみ。

そこに装花が用意されており、どうぞお楽しみくださいと言わんばかりだ。


『こんなに重いドレスを着て、

 さらに立食って…虐めたいのかしら』


さらに足を進めると、会場の最も奥にたった一つ、ベンチが置かれていた。

ベンチは二人がけぴったりといった小ぶりのもので、どういう訳かその周りを不自然にうろつく男達がちらほらいる。



『ま、まさか、あれは』


グレースは察した。

重いドレスを着た淑女が休息のためにあそこに腰掛ければ、すかさず誰かが隣に座る仕組みなのだ。


エスコート役の家族が共に座れればいいが、彼らがそれを許すだろうか。


あそこに座ったが最後、強制ツーショットタイムの幕開けなのだ。



そのとき、高らかな声がした。

どうやら主催の挨拶のようである。

どうにも胡散臭い神父風の服を着た貴族の男。

多分高貴貴族だと思われるが、姿絵ではグレースは見たことがなかった。


父がそっと耳打ちする。


「主催のボン・ドレ伯爵。

 もともと公爵家の出だが、今は家を出て伯爵位だ」


「なるほど」


ボン・ドレ伯爵は高くグラスを掲げ、


「ようこそ、神話を愛する諸君。

 此度も運命の出会いがあらんことを」


と腹を揺らして挨拶した。

それにおう、と答えたのは会場中の男達だ。

やたら気合いの入った、ぎらついた目をしている。



異様だ。



……それから数時間、グレースは産まれて初めて、心を折られかけた。



まず匂い。

入った瞬間不快だと思ったその匂いが、まさか生身の人間から発せられるものであるとは信じがたかった。だが何度発生源を辿っても、それは人間だった。特別発する匂いの強い者もいた。残り香が目に染みたことなど初めてだ。


そして料理。

茶会だと謳っているのに、テーブルには酒が並んだ。

さらに料理もこってりとした肉料理や揚げ物が並び、淑女が喜ぶであろう可憐なお菓子や香り高い紅茶など影も形もない。


男達は笑って言った。


「爪の先ほどのお菓子をもてはやすなど、

 まったく理解におよばぬ。

 やはり女という生き物は甚だしょうもないものだ」


それを女性であるグレースをちらちら見ながら言うのだ。


最初は愚弄されているのかと思った。


だが違う、とやがて気付いた。

彼らは本気で言っているのだ。


こういう言葉が、「強い男」を演出できると思っている。

女のやることになびかぬ、男らしい男。

そういうアピールだったのだ。



キャァ、かっこいい。

憧れちゃう。



本気でそう言われるとでも思ってんのか。



思ってるんだろうなあ。



…そして奥のベンチ。


時折盗み見ると、やはり強制ツーショット案件が複数発生していた。


顔を青くして休みたそうな令嬢に男がノー距離で詰め寄り、何やら気持ちよさそうにまくし立てている。


匂いと食べ物の油っぽさで思わず胃を押さえたグレースに対しても、


「ベンチ行く?」


と目をギラつかせてすかさず聞いてきた男がいた。


「いえ結構です」


と即断したが。




あら清潔感のある方、と珍しく思った男も相当に難ありだった。


話し始めるとすぐに露呈する、蔑みの姿勢。


「女のために茶会を開くなど恥だ」

「そもそも女など、男の劣化版でしかない」

「男に媚びるしか能のないあばずれ」


そこまで言われてグレースも黙っていない。


「ではなぜあなた様はここに?」


怒り半分、興味半分で問いかけたグレースに、男は鼻で笑って返した。


「お母様が行けと言うからな。

 俺のような良い男は女が放っておかないだろうと」


それから始まる、自身のお母様自慢。

お母様は、お母様が、お母様と、お母様。



そんなにママが好きなら一生ママにくっついていろ。



そう思ったグレースだったが、要は「お母様と同じようにできるお母様の代わりの女」を探していると悟ってからは乾いた笑いしか出なかった。




こうして一生分の不快感を一度に食らったグレースは、

這々の体で屋敷に帰還した。


「うっ、クサ…」


出迎えに出た侍女は、たった数時間のうちにグレースの身体に染みついた不快な匂いに鼻をつまんだし、その様子を見ていたアーチーは驚きに顎を落とし、


「いったいどこの戦場帰りだよ」


とグレースの疲労困憊度を哀れんだ。




…そして案の定。


「運命のつがい」の指名が、ドカドカ舞い込んだのである。

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