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つがい解放戦線ー運命のつがいとかいう害悪制度をぶっ壊すー  作者: wag


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1/12

昔、とある国では

サクッと読める軽めのお話をお送りします。

「こっちよ!!急いで!!」


今日も今日とて、淑女の走る音がする。


「大丈夫!!振り返らず走って!!」


高い高い城壁の中から、走る淑女を呼ぶ声がする。


「も、もう駄目、走れない、」


泣き言に息も切れ切れ、それでも重いドレスで走り続ける淑女。


「止まっちゃ駄目!!追っ手が来るわ!!」


前方からかかる声に再度奮起し地を蹴る淑女。



そのとき、後ろから野太い声が轟く。



「いたぞー!!つがい様だ!!

 お捕らえしろ!!引っ捕らえろー!!」



もはや本心を隠し切れていないエセ敬語で迫ってくる追っ手の男達。



「つがい様ー!!どうかお捕まりを-!!

 後生ですからー!!」



彼らも彼らで必死だろうが、淑女はそれ以上に必死であった。



「絶っっ対、いやよ!!

 つがいになんてなるもんですか!!

 助けてー!!ミゲーラ様ー!!」



その声に応えるように、前方城壁の正面、淑女を受け止めんと大きな門が開かれる。



「不味い!!あそこに入られたら終わりだ!!

 捕らえろ!!つがい様を逃がすな!!」



走る淑女、なんと馬で追ってくる男達。



「もう、脚が、無理!!追いつかれる!!」



もはや半狂乱で走る淑女に、門の中から援護の手が上がる。

門の中に横一列に並んだ女達、何やら大きなパチンコらしきものを肩にかついでいる。



「グレース、行けるか」


「もちろん」


「よし、3.2.1、ッてーーーーッ!!」


そのかけ声で一斉に馬に向かって何かを放つ女達。




「うげぇッ!!生卵だ、気持ちわりい!!」



白い貴重なタンパク源を眉間で摂取し、後方でひるむ男達の声。


女達は叫ぶ。



「靴を!!靴を投げ入れなさい!!

 早く、思いっきり投げて!!」


その声に淑女は履いていたフラットシューズを器用に脱ぎ、


振りかぶって大きく、

前方に、

投げた!!


ぽおん、と弧を描いた靴の軌道を、淑女も、女達も、男達も固唾を呑んで見守る。


くるり、と鈍く回転した靴は、


開け放たれた門の中に、


ぽとり、と、


落ちた。



勝ち鬨を上げたのは女達だ。


「…よくやった!!


 分かるな、追っ手ども!!

 靴がこちらに入れば逃亡成功の約定!

 

 今この時より、こちらの淑女は我らの客人!!

 手出し無用である!!」



頭に生卵を纏わせた馬上の男は大きく肩を落とし、


「分かってますよ、決まりは決まり。

 …まぁ、気持ちは分かりますからね。

 今後のご健勝をお祈りします」


と、踵を返して去って行く。



疲労困憊の淑女は、呆然と座り込んだまま、



「やった…逃げたんだわ…

 "運命のつがい"から…!!」



と、感涙の滴をこぼすのであった。



さて、今回のお話の主役はこの淑女ではない。


先ほど見事、卵爆弾を追っ手の男の眉間にヒットさせた狙撃手、


グレース…過去の名をグレース・ゴルチエ子爵令嬢。


彼女こそが、この物語の主人公なのである。



ーーーーーーーーーーーー



昔、とある国では。


貴族女児は隠すべきものであった。



もう何世代前だろうか。



ひとりのモテない男がいた。



容姿が悪かったのか性格に難があったのか、

はっきりとしたところは伝わっていないが、


とにかくその男はモテなかった。



しかし彼は運の悪いことに、

とてつもなく身分が高かった。


となればフラれてばかりで立派に嫁取りもできない男のことを、周囲が黙っているわけもない。


責められた続けた男は自棄を起こした。


吟遊詩人を呼び、楽器をかき鳴らさせ、朗々と語った。


ーそれは自らが作った神話だった。



「かつて、神が人間を作るとき。

 寂しくないよう夫婦揃いで作った。


 その後も同様、人間が産まれるときは、

 必ず夫婦一対が一緒に産まれることなっていた。


 だがあるとき、人間は神の怒りに触れる。

 怒った神は夫婦を引き離し、

 一対でなく一体ずつ別の場所で産まれるように、

 その身体を作り替えた。


 だから私たちには、必ず存在するのだ。

 巡り会うべき、"運命のつがい"が…」



それから、どうしたか。

以前から気になっていた下級貴族の少女の元に出向き、


「君は僕の"運命のつがい"だ。

 ・・・これは変えられない宿命なんだよ」


とやったのである。


なるほどそれは良いアイデアだと、男の周囲は全力で乗っかった。


やれ導きだの、

やれ神のご意志だの、

やれ惹かれ合う定めだの言いくるめ、


どこで仕立て上げたのか急ごしらえの神父を使って連日連夜説得に出向き、


「NO」と言っては罰当たりであるかのように囲い込んで婚姻を迫ったのである。




…そして愚かなことに、


この"運命のつがい"戦法は、

モテない貴族男子たちに流行ってしまった。



世代を経ると共にその拘束力は強まっていき、

今やひとたび「運命のつがい」として指名されると、

それは実質拒否権のない、強制婚姻となってしまうようになった。



甚だ残念なことではあるが、

この"運命のつがい"戦法を使うのは、

おおかたモテない男達だ。


つまり"運命のつがい”に指名されたが最後、

何らかの難がある男の生涯の世話係に任命されたのと同義なのであった。



世の親たちは恐れた。


産まれた子が女児であればすぐさま、

モテそうにない息子を持つ親からの、

"運命のつがい"としての吟味が始まる。


そのせいで産まれた子の性別を隠匿する貴族が増え、

おかげで出産の際の貴族院職員立ち会いが義務づけられるまでになってしまった。


しかしそれでもなお、

良からぬ者に目を付けられないよう、


この国では貴族女児は、隠すべきものなのである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…すまない、グレース」


話はとある春の日、ある子爵家の屋敷から始まる。



淑女の必須科目である持久走のトレーニングを終えたばかりの子爵令嬢、グレース・ゴルチエは、蒼白になって帰ってきた己が父を見据えた。


グレースは御年18、慣例によりほとんど公の場には出ないまま日々を過ごす、引き締まった体躯の健康的な女性である。



「…お父様、まさか」


「まだだ、グレース。

 最悪の事態には至っていない。


 …だが、"神話の茶会"に参集された。

 すまない、娘がいると気付かれてしまった」


父と娘との間に、ぴりりとした緊張感が走る。



"神話の茶会"とは、件のエセ神話にあやかるモテない男達の茶会。

簡単に言うと"運命のつがい探し"の茶会なのである。


こうしてめぼしい貴族の娘を順に呼び出しては、

つがいにしようか物色する、この上なく趣味の悪い集まりだ。


「…なるほど。 

 …いつか来ると思っていました」


「グレース、しかし」


「仕方がありません。

 あの界隈は高位貴族が多いし、

 茶会には行くよりほかないでしょう。


 …トレーニングもより実践に近づけるわ」


「グレース…」


そう言って、また屈伸運動を始めた娘を切ない目で見つめる父親。


この国の淑女の多くは、

このグレースのように肉体を鍛え上げている。


走り、跳び、重きを持ち上げる。


それはなぜか。


その理由は"運命のつがい"ルールの唯一の抜け道にあった。



ーーーーーーーーー


「精が出るね、グレース。

 今日のメニューはなんだい?」


「パルクールよ。

 屋敷の端から端まで、最短距離で突っ切るの。

 相手して頂戴」


身体を伸ばすグレースの元に、ひとりの青年が声をかけた。

彼の名はアーチー。子爵家の居候の青年で、長年のグレースのトレーニング相手である。


こうしてグレースのトレーニングの際呼び出され、重要な役割を担うのだ。



「分かった。準備はいい?」


「いえ、まだ。

 ちょっと待って」



準備運動を終えたグレースは侍女に目配せし、どこからかトレーニング用ドレスを持ってこさせる。


フリフリの袖、開いたデコルテ、締め上げたコルセット。

そして纏わり付くパニエ、重いスカート。


それらを手早く身につけると、


「よし。

 じゃあアーチー、30秒ディレイでよろしく」


「オーケー。

 本気で行くよ」



3.2.1. Go!!


の掛け声で一目散に駆けだしたグレース。

腹のベルトに隠したナイフで器用に正面のドレスを切り裂き、足を前に出す空間を作る。

切り裂いたドレスの裾を思い切って後ろに捌き、とにかく走った。


前方には生け垣、グレースはそれを回避しない。


「行ける!!」


グレースは生け垣の脇の縁石を踏み込むと、高く跳躍した!!


…ドレスを抱えて身体を丸め、生け垣の上を転がるようにすれば引っかからずに済む。


そうして着地し、また猛然と走る。


その後ろを少し遅れて同じようにアーチーが生け垣を跳び越え、グレースを追う。



グレースは走りながら叫ぶ。



「ぜっったいに!!!!!!

 逃げ切ってやるわ!!!!


 つがいなんてくそ食らえ!!

 ぜったいに逃げ切ってやる、"禁足地"まで!!!」



そう、この国の淑女が身体を鍛える理由。


男子禁制の"禁足地"に自らの足で逃げ込むことが、


指名されたつがい相手から逃げる唯一の方法だからだ。




……かくして、今回のパルクール・トレーニングではグレースは見事アーチーから逃げ切った。


息を切らして座り込む二人。

アーチーはグレースを見遣り、


「どうした、グレース。

 ずいぶん気合いが入った逃げ方だったじゃないか」


と笑う。


そう、アーチーの役目は、模擬「追っ手役」だ。


"運命のつがい"から逃げたい淑女たちの多くは、こうしてトレーニング相手に男性の追っ手役を雇っている。


「ええ、気合いも入るわ。

 ついに茶会に呼ばれたのよ」


「……え?」


その声にがばりと身体を起こし、眉を顰めてグレースを見るアーチー。


「"神話の茶会"よ。

 ついに私も見つかってしまったみたい」


「グレース!」


アーチーはグレースの両肩を掴み、心配そうにその顔を覗き込む。


「大丈夫。

 もしつがいに指名されても、

 どうにかして逃げ切ってみせるわ。

 

 だからアーチー、もう少しだけ付き合ってね」




…禁足地に逃げ込んだ令嬢は、家を捨て俗世へ還る。


つがいの指名。


それはグレースにとって、


身分も日常も全て捨てて走る、

人生を賭けた逃亡劇の号砲なのであった。 

多分10話くらいで終わります。多分。

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― 新着の感想 ―
…すげえ。『魔女の鉄槌』を書いた欲求不満の修道士並みの傍迷惑さ。 つがいネタは数多かれど、こんな気色の悪い自称つがいの男どもは初めて見た。スパダリからの溺愛とかまるで別の惑星の話。……これは絶対に打…
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