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つがい解放戦線ー運命のつがいとかいう害悪制度をぶっ壊すー  作者: wag


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11/12

あるいは、被害者かもしれない

「誰よもう、せっかく格好良く決まったのに」


王女がもはやアクセサリーのように未だナイフを首につきつけたまま振り返る。


息を切らし、肩を大きく上下させて飛び込んできたのは、



「……誰?」

「さあ……」

「…いいや、儂も知らん」



誰も知らない、太った男だった。


ずいぶん仕立ての良いシルクの服を着ているが、

いや待てそれ部屋着だろう。


不自然なまでに大きく張り出た腹と、逆にぶよぶよと弱々しい足。

べったりと海苔のように張り付くテカテカの髪。


どう見てもまともではない。


「異常者でしょうか」

「憲兵、侵入者を捕らえよ」


王の一言で憲兵が動くが、すかさず男の背後に控えていた侍従らしき男が飛び出してくる。


「お、王よ!!

 少し、少しばかりお時間をくださいませ!!


 …坊ちゃま、名乗らねば!!

 名乗らねばなりません!!」


太った男は嫌々と口を開く。



「ワドルディ・ジャン・ポール…侯爵だ」



グレースは驚きに口を開いた。


「ワドルディ・ジャン・ポール?!

 っていうか侯爵継いだの?!」


それはかつてアーチーを害した、グレースのつがいの名だった。

王は気まずそうに言う。


「お、おぉ、貴殿がジャン・ポール…

 お主、外に出れたのか」


どうやら相も変わらず引き籠もっていたらしい。


「俺のつがいを置いていけ!!」


王の言葉すら耳に入れず、そう張り上げるワドルディ。


「つがい?誰が?

 私もうお腹いっぱいなんだけど」


王女がうんざりと言う。まだ首にナイフ付きで。

ワドルディは辺りを見回し、


「いるだろう!!俺のつがい!!

 グレース・ゴルチエ、出てこい!!」


とわめき散らした。


『…指名されちゃ仕方ないか』


グレースは堂々と、鎧をガチャガチャ言わせながら前に進み出た。


「グレースは私だ。

 もっとも、ゴルチエ子爵家とは既に縁を切っている」


逃げも隠れもせず宣言したグレースを、ワドルディは信じられないといった顔で見ている。


「う、嘘だ。

 俺のつがいは、こんな雄々しくない。

 

 どこだ、グレース!!

 つがいである俺が迎えに来てやったぞ!!」


そう言ってグレースを無視し、みっともなくうろうろと女を捜して徘徊するワドルディ。


「おいおい、こんなに凜々しい、

 上等な女性を前にして失礼な。

 ジャン・ポール侯爵、なぜここに?」


アーチーが徘徊するワドルディの肩を捕まえ、問う。

ワドルディは唾を飛ばしながら答えた。


「それは!!

 俺のグレースがとうとう村を出たと聞いたから、

 迎えに来たんだ!

 待ってるはずなんだ、俺の運命のつがい!

 可憐で、華奢で、グラマラスな俺のつがい!」


その言葉に、アーチーはじろりとワドルディの侍従を見た。


「…おい。

 お前の家、どうなってんだ」

「ヒィ」

「答えなさい、王女命令よ」

「ヒィ!!」


王女も参戦し、侍従に詰めよる。

すると観念したように語り出した。


「ワドルディ坊ちゃまはあの通りですので、

 他に嫁の当てもなく…。

 仕方無いので、禁足地に見張りをつけていました。

 グレース様が市井に出たら、

 再度つがい取りをしようと」


「最悪だわ…」


思わずグレースは唸る。


「ですが長い年月の中、

 徐々に女性に飢え癇癪を起こす坊ちゃまを、

 ご両親が変に慰めてしまいまして。


 ワドルディのつがいは素敵な女性になって、

 再びあなたの前に舞い戻るのよ、と…。


 どうやらその言葉が、

 過度につがい様のイメージを美化させてしまい」


「で、あの有様」


「凄いわね、妄想の妖精を探す浮浪者のようだわ」


相変わらず王女のコメントが殺傷力抜群である。

そして後ろに向き直り、王に向かって告げた。


「ほらお父様、

 何か言っておあげなさいよ。

 まがりなりにも国を支える侯爵なのよ、

 その人」


「む、娘よ…!!」


「逃げたら死ぬ」


「娘よ!!!」


盛大に自らの命を盾に取る王女の圧に負け、王は渋々ながら、なおも徘徊するワドルディの前に立った。


「ジャン・ポール侯爵よ、

 私が分かるか。この国の王だ」


「王?そうか、初めまして。

 俺のつがいを知らないか?」


「あぁ…そうだな…。

 ジャン・ポール、よく聞いてほしい」


「?何だ。

 俺のつがいはやらんぞ」


「ジャン・ポール…

 実はな。つがいとは嘘だ」


「は?嘘?」


よしよく言った、事務官書き記せ!一言も漏らすな!と小声で王女が檄を飛ばす。


どっちが為政者かわかりゃしない。



「ああ。運命のつがいなど存在しない。

 古くにいた虚言吐きの男が作った、

 偽の神話だ。


 …これから国は、

 つがい制度を全面的に禁止する」



ミゲーラはガッツポーズを取った。

グレースも喜びに胸を震わせる。


隣にいたアーチーが「やったな」と拳を差し出し、グレースはそれに自らの拳をぶつけた。


王女もよしよしと、ようやく首元のナイフを下ろした。


「つがいが…嘘…?」


ワドルディは呆然と王を見つめる。

王は視線をそらせず、額から汗が伝っている。


「ああ、嘘だ。

 運命など、ない」


「じゃあ、俺の嫁は…?

 可愛い嫁は、やってこないの…?」


「ああ、すまない。

 嫁とは何もせずやってくるものではない」


「どうして…?

 俺という運命を待ち焦がれて、

 日々肌を磨き上げてるんではないの…?」


「き、気色悪いことを…

 磨き上げる必要があるのは貴殿だ、侯爵。

 嫁取りとは、互いが手を取り合えるよう、

 それぞれ己を磨いた先に成るもの。

 

 なにもせず棚から落っこちてくるものではない」


『分かってんじゃないの。

 よくも今まで放置しやがって』


グレースは心の中で王に牙を剥く。



ワドルディは、ひ、ひ、とわずかにしゃくりあげると、



わぁーーーーーん!!!!



と、大の大人が大声で泣き出した。


王はおろおろと辺りを見回し、自らの部下に何とかせよ、と押しつけようとする。


そこを王女が一喝した。


「お父様!!逃げたら死ぬ!!」

「娘よォ!!」

「責任取りなさい、国王でしょ!!

 ほら、あんたも!!」


王女が蹴り出したのはアーチーに首根っこ掴まれたボン・ドレである。


蹴っ飛ばされてワドルディの前に転がり出たボン・ドレの肩を、逃げ出さぬようアーチーががっつりと組む。


「ほら言ってやれよ、伯爵。

 お前らモテない男から集めた金で、

 いったい何をしてたか」


「ご、ご勘弁を…後生ですから…」


「つがい斡旋のための金、

 相当払ってたんだろう?ジャン・ポール侯爵」


「ああ、毎年神への上納金だと…

 納めねばつがいとの縁が切れると…」


アーチーの言葉に、ワドルディは素直に頷く。


「それな、

 ボン・ドレのギャンブルの資金になってたんだよ」


「…!」


ワドルディはショックを受けた。


「そ、そんな…それでは、

 すでに俺とつがいの縁は切れて…?!」


「いやだから、その、な。

 つがいってのがそもそもハッタリなのだ。


 貴殿は、ただの独身の、引き籠もりなのだよ」


ヤケクソになった王は、一言一言、言い含めるように言葉を置いた。


ワドルディは再びひ、ひ、としゃくりあげると、


やっぱり、


わぁーーーーーん!!!


と声を張り上げて泣き出した。




ーーーーーーー


ワドルディをジャン・ポール家の侍従に任せ、国王は王女の監視の下、そのまま庭園でつがい制度禁止の条例文を作成した。


チラチラと王女のほうを見、


「行かないよね?

 禁足地、行かないよね?」


とご機嫌伺いをしている王を見て女達はため息をつく。


「ここまでにならないと動けないなんて、

 本当にこの国の男って卑怯よね」


「まったくです。

 どうしますか?王女」


「うーん…。行くわ、禁足地」


「娘よ!!」


嘆いている王に向かい、


「簡単な事よ、

 お父様がその条例を間違いなく発表したら、

 戻ってくるわ。

 それまで社会勉強してくる。

 

 女達だけで自活する街なんて、

 そうそうあるもんじゃないし」


そう言って、ミゲーラ行くわよ、と王女は侍女を連れてさっそうと正門へ歩いて行く。慌てて後を追うグレースを、王女は振り返った。



「あなたは、他にやることあるでしょう」



そう言って、アーチーのほうへ顎をしゃくる。


アーチーを見ると、気まずそうに頭を掻いていた。


「じゃ、先に行ってるわね」


正門のほうに落ちる夕陽に向かって、王女はふたたび歩き出す。


その背を呆然と見送っていると、王女は振り返らず腕をまっすぐ横に突きだし、


ビッ、と、


親指を立てた。



『王女…漢だわ』



グレースは思わず、感嘆のため息を吐いた。

10話で…終わんなかったんですよねぇ…。

あと1話で終わりますので!

すみませんお付き合い願います!

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