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代表作シリーズ最終作「大海の冒険者~不死の伝説~」
第一話 東の島の出来事(6)-(13)の部を、別視点でお送りします。
長く暗闇に閉ざされていると気づきはじめた頃。腹から手足へ、じわじわと温もりが拡がるのを感じた。
その感覚を辿っていると、肌にザラザラしたものが当たった。指でおそるおそる確かめてみると、乾いた草の匂いがふわっと立ち込めた。何枚も重なり、厚みのあるそれは、きっと毛布だろう。それが分かると、縋るように頭から被り込んだ。
けれども何故、こんな感覚がするのだろうか。違和感と共に気の焦りがむくむく膨らむと、跳ね上がるようにして身を起こした。そして辺りを忙しなく見回すと、すぐそばに知らない女の人がいた。彼女は驚いた様子ではあるが、静かにこちらを見つめるだけだった。
衣類は、端切れや草を織ったものを合わせて作っているのだろうか。またこの空間は、全て木でしっかりと覆われている。隙間風がうるさい窓があるが、奥の薪をくべられている小さなスペースでは、凛とした火が揺れている。外は夜らしく、尚のこと炎が際立っていた。
一体ここはどこなのか。それだけでなく、自分の身に何が起きたのかすら分からず、胸の奥から喉にかけて震えが込み上げた。それは息になり、いよいよ喉を叩いてきたかと思うと叫びになり、目が熱くなっていく。“怖い”という、心の叫びが溢れ出るように――
やがて、周りにたくさんの大人が集まってくると、その中にいた一人の老爺に目が留まった。ところが、その集まりをぐいぐい押しやりながら、我先にと割って出てきたのは、長い黒髪をした女の子だ。その子も周りの人達も、こちらを見て何かを話している。ところが、その様子にもまた困惑してしまう。彼らの話し方には抑揚があり、速さがあった。聞き覚えのある言語のような気がするも、どういう訳か、何を言っているのかがさっぱり分からない。ザワザワ、ザラザラと、不快な音に変わってしまうと、思わず耳を塞いでしまった。
その時、こちらを穴が開くほど見つめる女の子の後ろに、二人の男の子がやって来た。自分とさほど変わらないように見える三人の子ども達。皆の髪は、くるくるとも、くねくねともしていない。日に焼けて赤らんだ肌や、少し小麦色の肌をしているが、自分と比べるとずっと明るい。
再び前に出た老爺に、首が竦んだ。彼は見たことのない青い瞳を子ども達に向けるや否や、彼らは静かになり、椅子へ横並びに座っては、またこちらをじっと見つめてくる。
ごちゃごちゃと飛び交う言葉に、更に耳を塞いだ。分からないやり取りに、鼓動が涙を押し出していく。これから自分に何かをしようとしているのだろうか、しかしそれが何なのか、全く想像できなかった。
何か言い返したいのに、声はこれ以上出てはもらえず、身体が縮んでいく。熱くなる喉に合わせるように、雨風が窓を叩きつけた。
その音を聞きつけるや否や、周りの声がしんとなり、焚火の音だけになる。そして人々がこちらを見つめた後、子ども達が短い言葉を口にした。何かを訴えかけているようだが、それが何で、どう発音しているのかと、口の中で重い舌を微かに動かしてみるも、上手くできなかった。
しかし、子ども達や大人達の眼差し、落ち着いた呼吸は、形でたとえるならば美しい丸だった。心地よい空気を自然と放っているようで、鋭いものを感じない。何故そんな人達が今、自分の目の前にいるのかと、胸の中で首を傾げてしまう。
二人の男の子は椅子に座ったままだが、女の子は急に立ち上がると、隣にちょこんと座ってきた。彼女はとてもニコニコしており、この胸の中で幾つも渦巻く不安が、木の皮がめくれるように少しだけ剥がれた。
すると子ども達は、大人達と何かを話しはじめた。会話の中には、先ほどこちらに放たれたような短い言葉が混ざっているが、どこか違う音を含んでおり、ころころと耳を打ってくる。またその中でも、茶髪をした男の子のことは、少しだけ長い音で呼びかけていた。
それをじっと観察していた次の瞬間、思わず口が開いた。だが、そこで止まってしまい、視線が宙を彷徨った。声を出せないどころか、自分の名前が分からなかった。
そのまま置き去りにされ、身が引ける思いをしたのも束の間――不思議なことに、彼らが作り上げる温もりには一体感があり、肩の力が少しずつ抜けていく。
女の子は、頭を布で覆った勇ましそうな男の人が話し終えると、とても嬉しそうに笑った。
その子と同じ髪色をした男の子は、金髪をした男の人の話を分かっているのかどうか、無表情のまま小さく頷いた。
そしてその隣の、きっとこの子達の中で歳が上であろう茶髪の男の子は、ふてくされている。彼は気持ちが悪いのだろうが、それよりもどこか寂しそうに見えた。子ども達の中で、最も大きな違いを醸し出している様子に、瞬きしてしまう。
その男の子は、何かを決心したように椅子から立ち上がった。すると、コツンと、何かが床を細く打った。
それを見るや否や、黒髪の男の子が慌てた声を上げた。茶髪の彼は落としたものを咄嗟に拾い、ポケットに隠してしまう。
女の子もまた、急に大声を上げて床に飛び降りた。こちらの寝床がぐわんぐわんと上下するところ、その先を覗き見ると、彼女は転んでいた。だがそれよりも気になったのは、床に散らばった小さな物の数々だ。
すると、その唯一大きな男の子が、短い言葉で女の子を怒鳴った。そしてその騒ぎは、大人達の影に小さく治まっていく。
この時、思わず毛布の中に顔を引っ込めた。子ども達に何かが振り落とされるのではないかと感じてならなかった。けれども辺りは静かで、何かが落ちた様子はなく、そろそろと毛布から彼らを覗いた。




