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オリトは副官と共に元の持ち場に着いてから、誰とも目を合わせず黙々と仕事に勤しんだ。そして食事の時間を告げられると、その場の監視役として副官が立つ横で、パンとスープを食べた。昨日、皆と一緒に食べたものと変わらないのに、味がしなかった。鼻の奥では、土と草の香りだけが残っている。
すると、辺りが騒めいた。床に視線を落したまま聞いていると、怯える感情を無理矢理に抑えようとする誰かの震えが伝わってきた。何が起きているのかと気になっても、顔を上げることはしなかった。
そして、隣に立つ副官が敬礼するのを聞きつけると、目の前にぐわんと大きな影が落ちてきた拍子に、そっと首を持ち上げた。臭い煙を立たせながら睥睨するムワンバが、薄ら笑みを浮かべて立っていた。
「何だその形はァ……俺の可愛い“使い魔”が台無しじゃねェかァ……」
ムワンバは言いながらオリトの髪を崩し、こびりついて取れない土を雑に払いのける。そして視線を副官にギロリと向けるも、副官は首を振り、言い添えた。
「自分でやったと言っています」
ムワンバは肩眉を引き上げると、オリトに向き直る。じっと口を噤んだまま、瞬きすら見せない彼女に、葉巻を離して問いかけた。
「何がそうさせたァ……」
そして、薄っぺらいオリトの胸に、ドンと指を突きつける。
「てめェを大事にしねェと、イイ風が吹かねェぞ」
石のようになっていたオリトは、ふと瞬きし、ぼそぼそと答えた。
「自分が人ではないと分かったからです」
ムワンバは葉巻を咥えると、小さく鼻を鳴らした。
「これまで信じて疑わなかったもんが覆ったかァ……だがな」
オリトがぱっと目を見開いた途端、ムワンバの顔が迫った。額にかかる髪が掴み上げられ、そこからの痛みがじわじわと顔に広がっていく。
「風ォ、お前ェは、俺がちゃァんと役に立たせてやる」
気味の悪い歯の色をチラつかせて笑うムワンバに、オリトは目の力が抜けていくと、半端な瞬きをして言った。
「そんなこと、誰にも分りっこない……皆、あたしに蓋をしてきたんだから……その理由が分かる時が、いつか来るんじゃないかしら……」
特別用意していた言葉ではなかったが、舌が勝手にそう告げていた。実に可愛気のない発言だったのだろう。ムワンバは笑みを引っ込め、つまらなさそうにオリトの髪を振りほどいては立ち上がった。そして、ぬるりと踵を返すと、その先で監視を務めていた兵を呼んだ。
「アシャァ……」
アシャは監視の姿勢を変えないまま、オリトを注視しながらムワンバを見た。
「餓鬼には趣味の悪ィ訓練をするもんだなァ」
「……チームの未来がかかっていますから」
熱気が籠る狭い食事処に、二人の声が矢のように往復した。その後に向けられたアシャの視線に、オリトは凍てつくものを覚えた。個を無くしてしまっている彼女は、ラテガがするそれよりも圧倒的に尖っていた。
ムワンバは鼻で笑うとアシャに近づき、その顔に煙を強く吹きかけた。
アシャは慣れたように優しく瞼を閉じると、数秒で冷酷な目を晒して見せた。ムワンバは、そんな彼女の項や耳の裏に鼻を擦りつけていく。
「えらく臭ェ女になったんだな」
「アレの時はご勘弁を」
「こいつァ鉛だ。或いは火薬か」
アシャはムワンバに目を合わせると、羽織っていた軍服のアウターを半端に開き、ベストに張りつくマガジンの数々を見せた。
「この後の訓練に。それに聞いたところ、警戒すべきかと」
アシャはギッとオリトに視線をやると、そっとアウターのジッパーを上げた。
監視役の姿勢に戻ったアシャに、ムワンバは歯をチラつかせると、副官に顔を向けないまま、指先だけで招いて去った。
副官は、オリトが食べずに床に根を張ったままでいるところを足で突いた。
「食わねぇなら立て」
オリトは副官の足先にチラと目をやると、思い出したように食事を無理くり口の中へ放り込んだ。




