表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*新作 完結* 風のオリト  作者: Terra
第五話 こんなものいらない
PR
62/83

<9>




         *



 オリトは副官と共に元の持ち場に着いてから、誰とも目を合わせず黙々と仕事に勤しんだ。そして食事の時間を告げられると、その場の監視役として副官が立つ横で、パンとスープを食べた。昨日、皆と一緒に食べたものと変わらないのに、味がしなかった。鼻の奥では、土と草の香りだけが残っている。



 すると、辺りが(ざわ)めいた。床に視線を落したまま聞いていると、怯える感情を無理矢理に抑えようとする誰かの震えが伝わってきた。何が起きているのかと気になっても、顔を上げることはしなかった。

 そして、隣に立つ副官が敬礼するのを聞きつけると、目の前にぐわんと大きな影が落ちてきた拍子に、そっと首を持ち上げた。臭い煙を立たせながら睥睨(へいげい)するムワンバが、薄ら笑みを浮かべて立っていた。


「何だそのなりはァ……俺の可愛い“使い魔”が台無しじゃねェかァ……」


 ムワンバは言いながらオリトの髪を崩し、こびりついて取れない土を雑に払いのける。そして視線を副官にギロリと向けるも、副官は首を振り、言い添えた。


「自分でやったと言っています」


 ムワンバは肩眉を引き上げると、オリトに向き直る。じっと口を噤んだまま、(まばた)きすら見せない彼女に、葉巻を離して問いかけた。


「何がそうさせたァ……」


 そして、薄っぺらいオリトの胸に、ドンと指を突きつける。


「てめェを大事にしねェと、()()()が吹かねェぞ」


 石のようになっていたオリトは、ふと瞬きし、ぼそぼそと答えた。


「自分が人ではないと分かったからです」


 ムワンバは葉巻を咥えると、小さく鼻を鳴らした。


「これまで信じて疑わなかったもんが覆ったかァ……だがな」


 オリトがぱっと目を見開いた途端、ムワンバの顔が迫った。額にかかる髪が掴み上げられ、そこからの痛みがじわじわと顔に広がっていく。


(オリト)ォ、お()ェは、俺がちゃァんと役に立たせてやる」


 気味の悪い歯の色をチラつかせて笑うムワンバに、オリトは目の力が抜けていくと、半端な瞬きをして言った。


「そんなこと、誰にも分りっこない……皆、あたしに蓋をしてきたんだから……その理由が分かる時が、いつか来るんじゃないかしら……」


 特別用意していた言葉ではなかったが、舌が勝手にそう告げていた。実に可愛気のない発言だったのだろう。ムワンバは笑みを引っ込め、つまらなさそうにオリトの髪を振りほどいては立ち上がった。そして、ぬるりと踵を返すと、その先で監視を務めていた兵を呼んだ。


「アシャァ……」


 アシャは監視の姿勢を変えないまま、オリトを注視しながらムワンバを見た。


「餓鬼には趣味の悪ィ訓練をするもんだなァ」


「……チームの未来がかかっていますから」


 熱気が籠る狭い食事処に、二人の声が矢のように往復した。その後に向けられたアシャの視線に、オリトは凍てつくものを覚えた。個を無くしてしまっている彼女は、ラテガがするそれよりも圧倒的に尖っていた。



 ムワンバは鼻で笑うとアシャに近づき、その顔に煙を強く吹きかけた。

 アシャは慣れたように優しく瞼を閉じると、数秒で冷酷な目を晒して見せた。ムワンバは、そんな彼女の(うなじ)や耳の裏に鼻を擦りつけていく。


「えらく(くせ)ェ女になったんだな」


「アレの時はご勘弁を」


「こいつァ鉛だ。或いは火薬か」


 アシャはムワンバに目を合わせると、羽織っていた軍服のアウターを半端に開き、ベストに張りつくマガジンの数々を見せた。


「この後の訓練に。それに聞いたところ、警戒すべきかと」


 アシャはギッとオリトに視線をやると、そっとアウターのジッパーを上げた。

 監視役の姿勢に戻ったアシャに、ムワンバは歯をチラつかせると、副官に顔を向けないまま、指先だけで招いて去った。



 副官は、オリトが食べずに床に根を張ったままでいるところを足で突いた。


「食わねぇなら立て」


 オリトは副官の足先にチラと目をやると、思い出したように食事を無理くり口の中へ放り込んだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ