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日が傾きかけても、訓練兵の声はいつまでも拠点に響いていた。まるで、時を気にすることを許されていないかのように、皆、喉を枯らしていた。
副官やチームリーダー格の者達は、新たな兵に怒号の鞭を打ち続けていた。訓練場にはいくつかの短い隊列が組まれ、一人ひとりの訓練兵の脇に立つ指導兵が、部下達の構える銃の位置を乱暴に正していく。
「思考を乱すな、ターゲットのことだけを考えろ」
指導官によって構えを強めた若い訓練兵は、照準を覗いたまま了解の声を上げた。
「一人前になれば仇を取れる。いいか、次は我々の番だ!」
指揮を執る副官に、太い返答が同時に重なる。
「法など守らなかった奴らを殺すんだ!」
「やります!」
部下によっては腕が震えていた。それが分かると指導兵が目を覗き、静かに威嚇する。
「我々は、権利を踏みにじられた」
「そうです!」
「我々の暮らしや、その源は、易々と売り飛ばされてきた」
「そうです!」
中には、枯れることを知らずに大声でレスポンスをする青年もいる。その眼差しは照準をも貫くように鋭く、腕にも迷いがない。
幾度となく目にしてきた訓練を、マライカとジャバリは壁を背に見つめているだけでよかったのに、今日からは違った。二人の両腕には、抱えたことのない銃が不格好に収まっていた。手足、首の枷が外されても、それは決して“自由”を意味するものではなかった。
何も言えない二人こそ震えが止まらなかった。だが従わずにいられる訳もなかった。銃を抱え、隊列を組んで歩く先にも暮らしが存在することを知っていた。住まいと食、金銭を得られるという、歪んだ潤いのある暮らしが。
そんなことを考えていたマライカは、冷たくて重い銃を両腕に抱えるのがやっとのジャバリの横で、訓練をする皆に目を細めた。そこへ、ぬるりと影が落ちた。
「それで仲間を守れるのか?」
近づいてきた指導兵を二人が見上げると、ジャバリの細い腕が強引に揺すられた。落としてはいけない――それは分かっていても、震えと枷による怠さが邪魔をし、銃を落としてしまった。
「この一瞬で殺られるぞ。絶対に落とすな」
小さな悲鳴をこぼしながら、ジャバリは慌てて銃器を取り直す。指導兵はそれから、すぐにマライカを見やった。
マライカは一度目を合わせると、何も言わずに隊列の方を向き、重すぎる銃を抱え直した。だが、汗が滲む手から滑り落ちそうになる。
それを見た指導兵は、そのまま次の兵の元へ去っていった。かと思いきや、今度は反対側から足音が迫り、二人はチラリと振り向いた。
「……アシャ!?」
静かに、とアシャは二人に指を立てると、手振りだけで元の構えに戻れと促した。先ほどの指導兵と入れ替わりで訪れたアシャは、どこか違って見えた。この威厳とした雰囲気は、今までに感じてきた彼女の優しさなど食いつくしてしまったようだ。
ジャバリはふらふらと首を振り、アシャから滲み出る恐怖に今にも泣き叫びそうになる。結局、元兵士ならではの腕をムワンバに差し出したのかと、裏切りすら垣間見えると、銃を抱える腕に力が入ってしまう。
それに気づいたマライカは眉を寄せ、ジャバリの両腕に滲む感情を鎮めようと、そっと手を添えた。だがジャバリは、その腕を乱暴に振り払ってしまう。そして、すっかり尖ってしまった目を、アシャに向けてしまった。
なぜそのようなことをするのかと、マライカはつい小声でジャバリを叱りつける。だが、ジャバリは何も言わずにアシャを睨め上げた。その目からは、じんわりと涙がこぼれていく。
「我々の生きがいは、未来は、奪われた!」
「そうです!」
耳に大きく飛び込んできた掛け声に、ジャバリの目は大きくなる。
「そうだっ……」
ジャバリの震える呟きに、アシャとマライカが振り返る。
「そうだっ……そうだっ! そうだっ!」
片足で何度も地面を踏み、ジャバリは頬を濡らしながら繰り返した。
そんな彼の前を、アシャはただ無言で通り過ぎていく。と、おもむろに彼の脇についた。
マライカは、落ち着かないジャバリを更に抑えようとした。しかしアシャと入れ替わるように、隣にまた別の指導兵がやって来た。
「聞いてるか!?」
「っ!」
一度もレスポンスをしないマライカに、指導兵は声を荒げた。マライカは肩を大きく竦める。
「できるか!?」
「できま……すっ……」
「もっと大きな声で!」
「できますっ……!」
声を張り上げることに全ての力を使ってしまう。銃など手前に抱えるのがやっとだった。心臓は今にも胸板を破り、自然と引きつけてしまう武器を押しのけようとしてくる。この状況こそが自分の答えだと、マライカはそう信じながら、息切れするまで兵になる者として装った。
その時、未だに無言を貫いたままのアシャの腕が、二人の目の前にするりと伸びた。静まるようにという合図が、しなやかな影を落としてくると、小さな身体に密集する緊張感を解してきた。その不思議な現象は、ジャバリの熱された眼差しを和らげていく。まるで、忘れていたものをゆっくりと思い出させようとしてくるようだった。
アシャが二人を制した後に、前方の兵達も静まった。不意に現場に現れたムワンバに、一斉が敬礼する。
ムワンバはサングラスを取ると、兵士を見渡した。一人ひとりを舐め回すじっとりとした眼差しを、蛇のように這わせていく。
風が、ムワンバが吐く煙を拭った。兵士達は、その僅かな隙間から最高司令官の目が光るのを見た時、背筋を伸ばした。




