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*新作 完結* 風のオリト  作者: Terra
第三話 あたらしい仲間
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<14>




 しばしその場の仕事に打ち込むと、子ども達はふと、空を仰いだ。灰色の雲の向こうに微かに太陽を見ると、ジャバリは箒を置き、どこかへ行ってしまう。マライカは再び手を動かすのだが、オリトは彼が気になり、その後を目だけで追う。ジャバリは足早に、一枚の崩落したまま残っていた壁の向こうにいなくなると、その先にある別の一棟の入口へ姿を消してしまった。



 首を傾げるのも束の間、オリトはここにきてようやく、あることにはっとした。 


「ラテガはどこ?」


 その(かたわ)ら、共に仕事をしていた大人達もぞろぞろと手にしていた道具を置き、ジャバリが向かった先へ向かいはじめた。ヒビがたくさん走った建物の入り口には、一人の兵が銃を抱えて立っていた。


「ラテガは食べ物を取りに行ってる。今日は時間がかかってるみたいだけど。ジャバリはいつも食事の支度をするの」


 食事を持ってくるのはラテガの仕事と知り、オリトは、彼がどこにいるのかと辺りを見回した。


「変よ。彼は足が悪いのに」


「だから食べ物をもらいやすいの。でも、そうじゃない時もある。それが今日かもね」


 オリトは眉を寄せずにはいられなかったが、まずは手を止め、皆が向かった建物へ歩き出すマライカを追いかけた。


「お金があるなら、どうして交換しないの?」


「あたし達が決められることじゃないの。この地はムワンバのもので、これからもっと広がる。あんたのところだって、あいつらがウロウロしてたでしょ」


 オリトは顔を曇らせるうちに村を思い出すと、だんだん、そこで暮らしていた時に思い描いていたものとの違和感が、胸に渦巻いていく。


「“追いかける世界”では……あたしの村では、皆が持ってるものを分け合った。壊れたものは直して、それに対するお礼をした。気持ちを廻してた。“先ゆく世界”では、それがもっとたくさんできてるのかと思った」


 足元の砂がサラサラと流れ、薄い砂煙が立ち込める。温かさを取り巻く柔らかい風が、そっと吹きつけてくると、脇から声がした。


「静かにしろ」


 マライカとオリトがくるりと振り返ったそこに、少々汗ばんだラテガが、大きな袋を担いで杖に縋るように立っていた。マライカは手を差し出すと、ラテガは素直に肩の袋を渡した。そして、ギロッとオリトを見下ろした。


「ここが追い求めてるモンを、お前がいた天国のソレと同じにするな」


 オリトは足が(すく)んだ。冷や水を浴びせられたように、しばし身体が言うことをきかなくなった。



 マライカを先頭に、ラテガは歩いていく。容赦なく小さくなっていく彼らが、オリトの視界の中でかすみはじめた。

 マライカもジャバリも話しやすく、優しさを感じる。けれども時々、どこか冷ややかだった。

 そしてラテガは冬の川のようだ。パリパリになった葉や、殺風景になった木のようでもある。眼差しは決まって鋭く、心を引っ搔いてくる。そんな彼と、マライカやジャバリのように、自分はここで上手くやっていけるのだろうか。オリトは、あの夜から泥にまみれたままの服を両手で握りしめると、やっと、一歩一歩と足を動かした。




 二人が先に建物の中に入ってしまうところを眺めていると、オリトは不意に、アシャとエシェを思い出した。

 唯一アシャが、笑って抱きしめてくれた。マライカが言う、アシャが見たことのある“自由”は、自分が知るそれと同じだろうか。彼女は何を知っていて、何を教えてくれるのだろう。誰かにもう一度生きたいと思わせられる人が持つような力は、一体どんなものなのだろう。ムワンバ達の横で子どもを抱きながら、兵として奴隷としても動いている。それでいて何故、他人までも包む余裕が生まれるのだろう。彼女は昨晩、血を流し、酷く痛かったはずなのに――



 建物の前まできて、オリトは足を止めた。食事の微かな匂いが漂ってくる。その、巨大な生物が大口を開いたような真っ暗な四角い入口を、じっと仰ぎ見た。壁の所々には銃創が散り、辺りに走っているヒビ割れは、先の戦闘によるものか後の震災によるものかは分からない。今にも崩れそうで、オリトはすぐに中へ入る気になれなかった。しかし、見張りの兵がこちらに銃口を向け、無言で圧力をかけてくる。風に混ざる小さな鉄の音に、オリトは眼差しを変えないまま、その兵を見上げた。



 何も言うつもりのなさそうな男は、ジャバリが言っていたようなゴールドや、オリトが遭遇した集団が飾っていたものなど着けておらず、装備を脱げばマーケットにいるような人のようだった。そしてその想像の向こうに、微かにアシャの影が浮かび、重なった。


「アジャニを知らない?」


 それを聞いても問題ではないのではないかと感じた矢先には、もう口走っていた。ところが彼は小さく首を振るだけだった。彼を通して吹く緩やかな風が、スルスルとオリトを抜けていく。そして風は、“ただの人”と小さく囁くようにして吹き上がると、オリトは目を(しばた)いた。


「電工のアジャニよ。父さんなの」


 男はまた首を振り、銃口を向け直した。目を細めるのだが、尖ってはいない。

 オリトは微風を受けていると、答えられない、もしくは話すことが出来ないのだという気配を振動として感じた。そして小さく頷くと、彼に微笑んだ。


「見たら言っておいて。皆、生きてるって」


 男が銃口を下ろしきるまでに、オリトは建屋の中に姿を消した。



 ぽつりと取り残された彼は、行ってしまった少女に静かにしばし驚くと、姿勢を戻した。そして何となく、辺りや街へ続く道筋に視線を巡らせた。






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