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*新作 完結* 風のオリト  作者: Terra
第三話 あたらしい仲間
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<4>




         *



 子ども達は、二人の男に鎖を引いて導かれるがまま、冷たい廊下を歩き続けた。暗い洞窟を歩いているようで、息遣いが響いている。ここには陽が射さないのか、地面は湿っていた。どこかの廃墟なのか、まるで箱を寄せ集めたような造りをした建物は、息が詰まりそうだった。



 やがて男達は足を止めると、鉄格子を開ける音がした。錆びついた音がギイイッと擦れ合う音が、扉を開放していったかと思うと、子ども達は激しく背中を押され、重なるように投げ入れられた。

 男達は何も言わないまま、何も与えないまま、その場を去ってしまった。オリトは目を見開き、慌てて扉に手をつくのだが、握れるものを探り当てられなかった。見上げると、覗き窓のような小さな格子が辛うじて見えた。


「はぁー……しぬかとおもった……」


 オリトは肩をピクッと縮め、声の方を振り返る。


「アシャは分かんないわ」


「……きっともどってくるよ」


「だから、分かんないでしょうがっ!」


「いたいな! やめろよ!」


 二人の会話は後から乱暴になっていった。オリトは話の内容がよく解らないまま、暗闇を手探りで進み、彼らの身体に触れた。声が止むと、少しずつ顔が見えてきた。二人と赤ん坊が、オリトをどこか警戒しながら見つめてくる。

 声のない静かなやり取りが続くと、オリトは身震いし、くしゃみをした。その時、小さな突風が吹きつけた。


「ぶわっ!」


「ちょっと、何よあんた!」


 顔に風を受けた二人は咳き込み、赤ん坊はまた泣きだした。オリトはここにきて寒さを覚え、身を縮める。湿った服が骨身を冷やしてくるのが、今になって伝わってきた。


「"寒い……寒い……"」


 今の自分は、火が吹き消されてしまったロウソクだった。失われた温かさを、どうして取り戻せばよいのかが分からない。連れられた場所が分からず、一緒にいる子ども達もどこか遠くに感じてならなかった。先ほどの男達を相手に、自分を全て出し切ってしまい、途方もない疲れが押し寄せてくる。


「この子ずぶぬれだ」


 男の子の声がすると、オリトは、女の子が肩や背中に触れてくるのを感じた。


「あんたのかけぶとんがちょうどいいわ」


「えー! やだよ、ぬれるじゃないか!」


「バカね、あんたがそれをかさないせいで、この子がこごえ死ぬの。人殺しよ人殺し。あいつらと同じ」


 オリトは震えながら、彼らに視線を往復させた。そこへ


「静かにしろ」


 少し奥まったところから、また違った低い声が飛び込んできた。オリトは、その声の出所を探すのだが、どうにも手前の様子しかとらえることができなかった。

 すると、コツッと、何か細いものが地面を叩くような音がすると――


「ひゃあ!」


 オリトは、急に頭から被さったものに声を上げた。不意に落ちてきた柔らかいものが、どこからか吹く風にふんわりと膨れ上がったかと思うと、床に落ちてしまう。


「ぶへっ! なんなんだよコイツ! あばれんぼうだな!」


 男の子の早口に、オリトは落ちたものを咄嗟に抱きかかえると、そこから目を覗かせた。その毛布には温もりが沁み込み、薄っぺらいけれども心地よさをくれた。砂埃の臭いが酷いが、今は心の支えになってくれた。


「ラテガ、いたの」


 女の子の声がするとまた、コツッと音がした。今度は何かが軋む音も紛れている。

 子ども達が振り向く方に、オリトもじっと目を凝らした。僅かに見上げた先には、小さな格子がついた窓があった。そこから射す薄明りは月からのもので、ここがどの様な場所かを更に浮かび上がらせてくる。



 やがて、格子の下に誰かの影が見えてきた。きっとその誰かが、格子の引き戸を開けたのだろう。外から入り込む風が、その人の服と思しき布を微かに揺らした。

 オリトは立ち上がると、吸い込まれるように、薄い光の柱の中へ向かった。時折泣き声をこぼす赤ん坊が、首だけでオリトを追いかける。


「わぁ……」


 その時、後の二人は驚いた。光の中に立つオリトは、まるでそこに月が降りてきたようだった。



 その声を背に、オリトは、壁と影と同じになってしまっている誰かを見つめた。光のお陰で、視界がだんだん緩やかに広がっていく。その先に大きな目が浮かんだ。頭には、以前の自分と同じターバンのような布を、ただ被せている。ここの皆よりも背が高い男の子がおり、肩には杖を預けていた。その杖の上から下までをずっと眺めていくうちに、何やら太い影が見えたかと思うと――


「っ!」


 オリトは思わず目を瞑った。彼の杖の先が、今にも鼻を叩こうとしてきたのだ。


「いいよラテガ。ぼく、その子とくるまるから。ほら、かえしてやって」


 よく喋る男の子がそそくさとオリトの隣にやってくると、オリトがくるまる温かい毛布を剥がそうとする。


「かれの足にわるいんだ」


 しかしオリトは不安が込み上げ、取られてしまいそうになる毛布の端を引き留めてしまう。


「ジャバリ、その子に言葉は分からないわ」


 女の子が赤ん坊を抱きなおすと、ともに明るみの元に現れた。彼女はジャバリと呼ぶ男の子を脇にどけると、オリトの手をそっと掴んできたのだが――


「っ!?」


 オリトは反射的に、その子の手を振りほどいてしまった。毛布が落ちてしまうと、女の子は何食わぬ顔でそれを拾い、奥の彼の方へ向かう。


「ラテガも分かってあげて。こんな金色で、しかも話したり動いたりするたびに風がふくのよ? ムワンバのやつ、“使いマ”だとか言ってニヤニヤしてた。気持ち悪い」


 女の子は言いながら、オリトから受け取った毛布を、暗がりに潜むラテガの足元にそっとかけた。


「おどろかせたわね。でも、いつまでもそんなんじゃダメ」


 言いながら、女の子はオリトに自分の両手を明るみに突き出した。オリトは目を丸くさせ、まじまじと、自分よりも多く指を持つその子の手を見つめた。


「指の数が多いの。だからいらないって。でも、ここでは仕事をくれた」


 女の子の両方の親指の横には、指が二本ずつ付け足されたようになっていた。オリトがそっとその指に触れても、彼女は嫌がることをせず、オリトが納得するまで自分の特徴と向き合わせた。







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