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子ども達は、二人の男に鎖を引いて導かれるがまま、冷たい廊下を歩き続けた。暗い洞窟を歩いているようで、息遣いが響いている。ここには陽が射さないのか、地面は湿っていた。どこかの廃墟なのか、まるで箱を寄せ集めたような造りをした建物は、息が詰まりそうだった。
やがて男達は足を止めると、鉄格子を開ける音がした。錆びついた音がギイイッと擦れ合う音が、扉を開放していったかと思うと、子ども達は激しく背中を押され、重なるように投げ入れられた。
男達は何も言わないまま、何も与えないまま、その場を去ってしまった。オリトは目を見開き、慌てて扉に手をつくのだが、握れるものを探り当てられなかった。見上げると、覗き窓のような小さな格子が辛うじて見えた。
「はぁー……しぬかとおもった……」
オリトは肩をピクッと縮め、声の方を振り返る。
「アシャは分かんないわ」
「……きっともどってくるよ」
「だから、分かんないでしょうがっ!」
「いたいな! やめろよ!」
二人の会話は後から乱暴になっていった。オリトは話の内容がよく解らないまま、暗闇を手探りで進み、彼らの身体に触れた。声が止むと、少しずつ顔が見えてきた。二人と赤ん坊が、オリトをどこか警戒しながら見つめてくる。
声のない静かなやり取りが続くと、オリトは身震いし、くしゃみをした。その時、小さな突風が吹きつけた。
「ぶわっ!」
「ちょっと、何よあんた!」
顔に風を受けた二人は咳き込み、赤ん坊はまた泣きだした。オリトはここにきて寒さを覚え、身を縮める。湿った服が骨身を冷やしてくるのが、今になって伝わってきた。
「"寒い……寒い……"」
今の自分は、火が吹き消されてしまったロウソクだった。失われた温かさを、どうして取り戻せばよいのかが分からない。連れられた場所が分からず、一緒にいる子ども達もどこか遠くに感じてならなかった。先ほどの男達を相手に、自分を全て出し切ってしまい、途方もない疲れが押し寄せてくる。
「この子ずぶぬれだ」
男の子の声がすると、オリトは、女の子が肩や背中に触れてくるのを感じた。
「あんたのかけぶとんがちょうどいいわ」
「えー! やだよ、ぬれるじゃないか!」
「バカね、あんたがそれをかさないせいで、この子がこごえ死ぬの。人殺しよ人殺し。あいつらと同じ」
オリトは震えながら、彼らに視線を往復させた。そこへ
「静かにしろ」
少し奥まったところから、また違った低い声が飛び込んできた。オリトは、その声の出所を探すのだが、どうにも手前の様子しかとらえることができなかった。
すると、コツッと、何か細いものが地面を叩くような音がすると――
「ひゃあ!」
オリトは、急に頭から被さったものに声を上げた。不意に落ちてきた柔らかいものが、どこからか吹く風にふんわりと膨れ上がったかと思うと、床に落ちてしまう。
「ぶへっ! なんなんだよコイツ! あばれんぼうだな!」
男の子の早口に、オリトは落ちたものを咄嗟に抱きかかえると、そこから目を覗かせた。その毛布には温もりが沁み込み、薄っぺらいけれども心地よさをくれた。砂埃の臭いが酷いが、今は心の支えになってくれた。
「ラテガ、いたの」
女の子の声がするとまた、コツッと音がした。今度は何かが軋む音も紛れている。
子ども達が振り向く方に、オリトもじっと目を凝らした。僅かに見上げた先には、小さな格子がついた窓があった。そこから射す薄明りは月からのもので、ここがどの様な場所かを更に浮かび上がらせてくる。
やがて、格子の下に誰かの影が見えてきた。きっとその誰かが、格子の引き戸を開けたのだろう。外から入り込む風が、その人の服と思しき布を微かに揺らした。
オリトは立ち上がると、吸い込まれるように、薄い光の柱の中へ向かった。時折泣き声をこぼす赤ん坊が、首だけでオリトを追いかける。
「わぁ……」
その時、後の二人は驚いた。光の中に立つオリトは、まるでそこに月が降りてきたようだった。
その声を背に、オリトは、壁と影と同じになってしまっている誰かを見つめた。光のお陰で、視界がだんだん緩やかに広がっていく。その先に大きな目が浮かんだ。頭には、以前の自分と同じターバンのような布を、ただ被せている。ここの皆よりも背が高い男の子がおり、肩には杖を預けていた。その杖の上から下までをずっと眺めていくうちに、何やら太い影が見えたかと思うと――
「っ!」
オリトは思わず目を瞑った。彼の杖の先が、今にも鼻を叩こうとしてきたのだ。
「いいよラテガ。ぼく、その子とくるまるから。ほら、かえしてやって」
よく喋る男の子がそそくさとオリトの隣にやってくると、オリトがくるまる温かい毛布を剥がそうとする。
「かれの足にわるいんだ」
しかしオリトは不安が込み上げ、取られてしまいそうになる毛布の端を引き留めてしまう。
「ジャバリ、その子に言葉は分からないわ」
女の子が赤ん坊を抱きなおすと、ともに明るみの元に現れた。彼女はジャバリと呼ぶ男の子を脇にどけると、オリトの手をそっと掴んできたのだが――
「っ!?」
オリトは反射的に、その子の手を振りほどいてしまった。毛布が落ちてしまうと、女の子は何食わぬ顔でそれを拾い、奥の彼の方へ向かう。
「ラテガも分かってあげて。こんな金色で、しかも話したり動いたりするたびに風がふくのよ? ムワンバのやつ、“使いマ”だとか言ってニヤニヤしてた。気持ち悪い」
女の子は言いながら、オリトから受け取った毛布を、暗がりに潜むラテガの足元にそっとかけた。
「おどろかせたわね。でも、いつまでもそんなんじゃダメ」
言いながら、女の子はオリトに自分の両手を明るみに突き出した。オリトは目を丸くさせ、まじまじと、自分よりも多く指を持つその子の手を見つめた。
「指の数が多いの。だからいらないって。でも、ここでは仕事をくれた」
女の子の両方の親指の横には、指が二本ずつ付け足されたようになっていた。オリトがそっとその指に触れても、彼女は嫌がることをせず、オリトが納得するまで自分の特徴と向き合わせた。




