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まどろみの中で話し声がし、耳の奥を震わせてきた。オリトは一時の気絶から目覚めると、暗闇の中で徐々に意識を取り戻していく。目を開けたにもかかわらず、空間は真っ暗なままだった。身体が丸くなったままで狭苦しかった。
緊張に鼓動が速まっていく。低い声のやりとりが全身に微かに響くのを感じると、声は鮮明になっていく。
「餓鬼相手だってのに、あいつらは信じられねぇ負傷だそうだ。骨がつくか分からんと」
「それで、情報屋が言ってたやつなのか?」
「仮に違おうと、使い道がありゃいい」
聞き慣れない言語でのやり取りに、オリトが両手を結んだ時――ザリザリとした音と共に誰かが近づいて来る気配がすると、小さく身構えた。すると、ふわっと身体が宙に浮いては、ゆらりと揺れながら移動させられ、分厚い何かがドンッと半身にぶつかった。
「その棚こっちへ寄せろ」
ゴロゴロと大きなものが引きずられる音がする。何をされるのか――と、考える間もなく身体が持ち上がり、頭が逆さまになったかと思うと、明るみに転げ出た。
オリトは固いところに放り出され、仰向けになる。橙に灯る電球に視界を遮られながらも、どうにか両手の隙間から辺りを覗う。そこへ、二つの大きな影が覆い被さると顔を隠した。そして再び、おもむろに手を退けると、目はじわじわと見開いていく。
「……見るからに異国の血だ。肌がここらの人間よりも明るい。髪は……天然ものか」
こちらをまじまじと見つめる二人の男は、オリトを追っていた銃の男達とよく似た姿をしており、何かの骨でできた首掛けや、小さな金色の装飾を服に着けていた。
腕が伸びてくるのを見た途端、オリトは息を呑む。男の一人が髪を掴み、そのままオリトの首を明るみにさらして見回した。
「弾いたらすぐ折れちまいそうだ」
オリトの細い身体に対し、片側にいた男が呟くと、ジャリジャリとした音の連なりを率いてくる。冷ややかな音はやがて、ゴトッと重い音を立てると、オリトの足元に寝そべった。
「俺達の仲間をえらい目に遭わせたのはお前か?」
オリトは髪を持ち上げられる痛みに唸ると、鷲掴んでくる男の巨大な手に掴みかかる。そこへ男は、腰からピストルを引き抜いた。
「お前なのか、吐け!」
「わあっ!」
近づく銃口に声を上げた途端、細い旋風にピストルが弾かれた。男は手首を強く叩かれ、オリを放してしまう。
それにもう一人の仲間が目を見張ると、机に置いたモノを透かさず取り、オリトに手を伸ばす。だが、オリトは颯爽と台の上から飛び降りると、真向かいの壁に背を預け、二人を睨みつける。その時、目前に鉄輪のついた鎖が二本、ジャラジャラと揺れながら迫ってきた。不可解なものに腹の底から熱が沸き上がると、そのまま喉まで突き上がり――
「きゃあああっ!」
寸秒、熱が喉から顔に迸ったかと思うと、足元から砂煙が舞い、机と男達が瞬く間に宙に弾けては、床に叩きつけられた。
鎖が下がる二本の枷が呆気なく落ちるのを見たオリトは、全身の震えに邪魔されながらもその場を駆けた。しかし、あと僅かのところで銃声が轟き、腰を抜かした。
「”静かにしやがれェ……"」
馴染ある言語に、オリトは顔を上げた。砂煙の中にぼうっと浮かび上がった影は、太さを増し、ゆるゆると大きくなると、頭からすっぽりと包んでくる。その者は大柄で、煙臭く、靄にジリリと歪な眼差しを滲み出す。激しく揺れる電球にその場が明滅し、煙越しのその表情は定まらない。オリトは、巨大な獣の眼に捕らえられたように縮み上がってしまう。
ギイッと鉄が擦れる音がした。向けられる銃口もまたチラチラと鈍い光を見せ、まるでオリトを小さく嘲笑っている。
男達は慌ただしく立ち上がると、その者の急な訪れに姿勢の乱れを正し、敬礼する。そして一人がオリトに視線をやりながら、チーム内で噂になっていた子どもであることを端的に告げた。するともう一人が枷を乱暴に拾うと、動けなくなるオリトを転がし、手足を鎖で繋いで固定した。
「”“使い魔”かァ……?”」
故郷の言語で話す男に、オリトは小刻みに首を振る。だが男は、表情一つ変えず、オリトに冷たい眼差しを這わせていく。泥にまみれた湿った孤児の、毛先から耳の淵、指の数と肉付きと、細かなところにまで視線を走らせた。
オリトは口を閉ざしたまま警戒を続けた。すると男が、息がかかるまで近づくと、しゃがみ、くすんだ瞳を向けてくる。そして、自分の胸をドンドンと叩くと、緩やかに言った。
「ムワンバ」
喰らいつこうとする圧力に、オリトの歯がカタカタと鳴る。薄っすらと開いてしまった口から、震える息が漏れた。瞬きをしない、気味悪いムワンバという男の瞳に、自分の酷い顔を見てしまった時、涙が滲んだ。すると突然顎を掴まれ、鼻がつくまで顔を引き寄せられた。
「"てめェのそれを下手に使やァ、命は無ェ。覚えてろ”」
彼は言いながら、腰からもう一つ鉄輪を取り出すと、オリトの首に取りつけた。
手足に続き、首にまで重みが圧しかかると、オリトは顎を放された拍子に咳き込んだ。騒ぎが静まっても、地面に風がそよいでおり、砂が微かに鳴っていた。
おもむろに立ちあがったムワンバは、部下の二人を睥睨する。一人が前に出ると、縮こまるオリトの腕を取り、強引に立たせた。
「連れていきますか」
前線に立たせるにはもってこいの魔物――その力がいかなるものかは、子の捜索に出た部下達と、この場の部下二人の身に起きたことで、ムワンバは凡その見当がついた。確かめるべきことはまだあるが、ひとまず自分の目の届くところで管理するのが望ましいだろうと、部下からオリトの首の鎖を預かろうとした。そこへ
「その子は小さすぎます、司令官……前線は私が行く……」
不意に飛び込んだ掠れた声に、オリトは顏を上げた。視線だけで声の出所を探ると、ムワンバが肩越しに誰かを振り返った。オリトはどうにか、その横腹から向こうを覗き込む。




