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惨劇の時、政界は終わりの見えない渦に堕ちた。目指していた開港と、国際鉄道の開設は、新設されたばかりの高速道路ごと崩れ果てた。
風は、崩落した大都会の味方などしていなかった。外側には澄んだようにみせかけながら、拭えない臭いを淀ませたままだった。
まだガラクタの撤去が追いついていない路上には、亀裂が走っている。その上で、動かなくなった身体が白砂にまみれていた。一体、また一体と、同じように横たわっている。
それらが誰なのかを、他所で剥ぎ取った軍服や自ら手掛けた隊服を身に着けた者達が、ガサガサと亡骸の中を弄り、調べていく。そして、嘗て自分達からあらゆるものを奪った人間だと分かると、脇に蹴りよせた。
彼らは、倒壊物やガラクタで堰き止められた川に掛かる橋を渡ると、その先の、割れ目や弾痕が際立つコンクリートの建屋内に消えた。立ち込める砂煙の向こうにはまだ、似たような建物が数棟並んでいる。
ザッザッと、砂地が擦れる音がする。誰かが地面を掃き掃除しているようだ。大小の影が、はたはたと慌ただしく揺れている。そこは、朝を迎えていながら陽射しは届かず、ぼかされてしまっていた。
乾いた破裂音がした――
硝煙の臭いは、生臭い空気に溶け込むことを知らず、いつもしつこく立ち込める。
その男の脇には、武器回収者によって、この地で出来る限り集められた銃器が山積みになっていた。
乾いた破裂音が散った――
とっかえひっかえ、良品と不良品を選別していく。護衛用、戦闘用、狩猟用。それらに対する弾の仕分けは、それに向いた目を持つ者に託されていた。
報酬は、あの百数十年以上も生き永らえているスラムの家よりも広い寝床と、食事と、金銭だ。四畳がやっとの空間に、何人も詰め込みで暮らさねばならなかった貧困の地――“追いかける世界”。そこよりもこちらは、手足がゆうゆうと伸ばせる。食事の質はまちまちとはいえ上等だった。それもまた、息絶えず残った料理人、狩人、漁師をはじめ、あとから雇った者達の腕があるからだった。
刃の音が響いた――
悲鳴になりきれない震える吐息が、サラッと砂地を這う。
そこに寝そべる、汚れた身形をした者達は怯えた。枷で繋がれた手足を動かすと、鎖の音がした。
使いものにならないのは誰か。役割を得られるものは誰か。その狭間で、もうどのくらい息をしてきたかは分からない。日数を数える余裕は、この地に対して抱いていた希望は、歪んだ権力者集団によって奪われてしまった。
刃と刃の音が皮膚を這った――
その男は煙を吹かせながら、とりつかれたように武器の点検をする。
そこに横たわる、今日まで自由に選択をして生きてきた者達に、熱いものが常に渦巻いてならない。消えゆく煙から、彼らの怯える眼差しを睨んだ。立場が綺麗に入れ替わっている現状に、静かな笑みが滲み出る。
遠くで馬の嘶きがすると、僅かに視線を向けた。向こう岸か、或いはこの近辺からの求職者達が、荷台から降りてくる。
陣地が広がりつつある今、ようやく必要とされる時が訪れると、歯を見せた隙間から煙を深々と吐いた。
そこへ、駆け足の音が近づいてきたかと思うと、男は点検の手を止め、副官を振り返った。
「司令官、大工の男が一人いません。逃げたかと」
その選択をしかねない誰かのことなど、おおよそ見当がつく。司令官と呼ばれた男は、葉巻を手に持ち替え、溜め息交じりに細い煙を吐いた。
「そいつァ、連れがいたろう……」
読みが正しければ、逃亡者の連れは電工だ。他国の支援を通じて引き継がれた技術者の二人には、見込みがあった。だが副官は、その彼に関しては分からず、首を竦める。
「……お気にめさなくて残念だァ」
司令官は言いながら葉巻を咥えると、未点検のショットガンを舐めるように眺めた。
「代償がいるなァ」
照準の目は、壁から砂地、怯む者達の足先から身体、頭へと移っていく。
「女と餓鬼が二人だったろう。連れてこい」
副官は耳を疑い、司令官に眉を寄せる。
「お言葉ながら、比較になりません。腕ありの技術者ですよ――」
――弾が散った壁から、硝煙が立った。
「跡を埋めるのが目的じゃあねェ」
灰色がかった空気に恐怖の息遣いがする。副官は姿勢を整えると敬礼した。そして背を向けると
「情報屋はァ」
その問いに足を止め、脳内に視線を左右させる。
「向こう岸にいます。まだ姿は見てません」
記憶力と偵察に長けたその者を送ることは、他の集団よりも先に所有地を広げるためだった。司令官は点検を終えたショットガンを左脇に放り投げると、右脇から未点検の手榴弾を拾った。そしてそれを、おもむろに副官に差し出し、耳元に近づいた。
「逃亡者を追えェ。思いつきの行動だ、その辺でちょこまかしてるだろうよォ。まだ桟橋にいたならば、よォく聞きつけろ」
言い終えると、静かに笑みを浮かべた。副官は了解すると、この場の至るところの清掃に当たる子どもを乱暴に除け、任務についた。
転んだ少年が、出ていく副官を睨むと、箒をかえし、杖替わりにして立ち上がる。
「ラテガァ」
司令官の声に、少年は肩越しに振り向く。司令官は、鎖の枷をつけた者達を指差しながら言った。
「食いモンがいる」
朝一番に適当に集めた食料を出せと意味している。そう受け取った少年は、副官と同じ了承を小さく返すと、右足を引き摺りながらその場を後にした。
周辺にいた子ども達は、目の前を通り過ぎていく彼を見届ける。その時、もう一人の少年が、隣の少女に肘を突いた。
「いっしょにいってやれよ。きみは、ゆびがおおいんだから」
「バカなの? うでが多いならまだしも、指が多いだけで人よりたくさん物を持てると思うなんて」
そこへ誰かが、しーっと息を強めた。赤子を抱いた女性が忍び足で、しかし足早に二人の元へやって来た。
「ジャバリ、昼食の準備をしてちょうだい。マライカ、口には気をつけるの」
彼女は早口に言うと、二人の背中を外へ押しやっていく。すると、少女がくるりと振り返った。
「アシャ、エシェを抱いたままじゃやりにくいでしょ?」
腕を伸ばしてきた少女に、彼女はふわりと微笑むと、その気遣いを優しく断った。そして、先に姿を消した少年を手伝うよう告げた。
物騒なその場からいそいそと駆けていく子ども達を見届けると、その場に散らかったままの箒を片手で軽々と仕舞っていく。そこへ娘が、機嫌のいい声を漏らした。




