三時間の告白
三時間ほど経った頃、スズムラさんはようやく話すのをやめた。
テーブルの上のコーヒーカップは、とうに空になっている。
途中で頼んだ水も、氷だけが残っていた。
「はあ……」
大きく息を吐いて、スズムラさんは背もたれに体を預ける。
「めちゃくちゃ話しちゃいましたね」
そう言って、満足そうに笑った。
私は曖昧に頷いた。
ほとんど聞いていただけなのに、なぜか少し疲れている。
頭の中に、いろんな言葉がまだ残っている気がした。
子どもの頃の話。
学校の話。
恋人の話。
裏切られた話。
好きだった人の話。
三時間。
濁流みたいに流れてきた言葉が、まだ胸のどこかで渦を巻いている。
スズムラさんは時計をちらりと見て、立ち上がった。
「そろそろ帰りますか」
会計を済ませて店を出ると、外はすっかり夕方になっていた。
ビルのガラスがオレンジ色に光っている。
少し歩いたところで、スズムラさんが立ち止まった。
「あ、そうだ」
ポケットからスマートフォンを取り出す。
「連絡先、交換しましょう」
そう言われて、一瞬だけ言葉に詰まる。
断る理由が、思いつかなかった。
嫌だと言うほどでもない。
でも、積極的に交換したいとも思っていない。
その曖昧な気持ちのまま、私はスマートフォンを取り出した。
QRコードを読み取る音が、小さく鳴る。
「ありがとうございます」
スズムラさんは軽く手を振った。
「じゃあまた、ショートケアで」
そう言って、さっと駅の人混みに紛れていった。
私はしばらくその場に立っていた。
ポケットの中のスマートフォンが、少し重く感じた。




