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ライフコース  作者: 只野 唯
ショートケア編

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全部受け止めなくていい


ショートケアの帰り道。

ビルを出て駅へ向かう途中、後ろから声をかけられた。


「高橋さん、ちょっとだけいいですか?」


振り返ると、マツムラさんが立っていた。

いつもの明るい顔ではなく、少しだけ真剣な表情をしている。


「はい」


自然と背筋が伸びる。

何かあったのだろうかと、少し緊張した。


マツムラさんは一度口を開きかけて、やめて、少しだけ視線を落とした。

それから意を決したように言った。


「スズムラさんのことなんですけど」


意外な名前が出てきて、思わず瞬きをする。

スズムラさん。

ショートケアの中でも、ひときわ目立つ人。

おしゃれで、話し方も軽やかで、誰にでも気さくに話しかける。

私は続きを促すように、小さく頷いた。

マツムラさんは少し迷った様子で言葉を選んだ。


「無理しなくていいですから」


無理。

どういう意味だろうと考えていると、マツムラさんが続けた。


「スズムラさん、悪い人じゃないんですけど……距離感、近いじゃないですか」


思わず、苦笑に近い息が漏れる。

確かに。

何気ない会話の中で、家族の話や前の職場の話がぽんぽん出てくる。

知り合ってまだそんなに経っていないのに、急に心の距離が詰まるような感じがする。

嫌ではない。

でも、少し戸惑う。

マツムラさんは、静かに続けた。


「全部、受け止めなくて大丈夫ですから」


その言葉は、思ったよりもまっすぐ胸に落ちた。

私は何も言えずに立っていた。

マツムラさんはそれ以上説明しなかった。


「じゃあ、お疲れ様でした」


それだけ言って、軽く手を挙げて駅の反対方向へ歩いていく。

その背中を見送りながら、私は考えていた。

全部受け止めなくていい。

そんなこと、今まで考えたこともなかった。

誰かが話してきたら、ちゃんと聞かなきゃいけない。

誰かが悩んでいたら、理解しなきゃいけない。

誰かが心を開いたら、受け止めなきゃいけない。

ずっと、そう思っていた。

でも。

受け止めなくていいという選択肢も、あるのかもしれない。

駅へ向かう道の途中で、私は少しだけ肩の力を抜いた。


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