距離の近い人
スズムラアキトと名乗ったその人は、いわゆるイケメンと呼ばれる部類の人だった。
服装もお洒落で、話し方もスマートで、ショートケアの空気の中では少し浮いて見えた。
ある日、テーブルに座っていると、スズムラさんがふと私の手元を指さした。
「そのハンカチ、可愛いですよね」
見下ろすと、キャラクターの刺繍が入ったハンカチ。
何となく買ったものだった。
いきなり話しかけられて、私は動揺した。
「あ、はあ……」
自分でも驚くくらい気のない返事が出る。
それでもスズムラさんは気にした様子もなく、
「いいですよね、こういうの」と笑っていた。
それから、スズムラさんにはちょくちょく話しかけられるようになった。
ショートケアの帰り際。
お茶の時間。
席が近くなったとき。
「前の仕事は何してたんですか?」
「兄弟とかいます?」
「僕はですね――」
何気ない会話のはずなのに、気づくとスズムラさんの個人情報がたくさん混ざっている。
前の職場のこと。
家族のこと。
学生時代のこと。
どう返せばいいのか分からなくて、私は相槌ばかりになる。
正直、少し困惑していた。
ショートケアで会ったばかりの人に、そんなに話して大丈夫なんだろうか、と。
でも同時に、思う。
こんなふうに誰かが心を開いて話してくれることなんて、
ずいぶん久しぶりだ。
私は聞きながら、小さく頷く。
戸惑いと、少しの嬉しさを、
同時に胸の中に置いたまま。




