表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライフコース  作者: 只野 唯
ショートケア編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/66

最後のメッセージ


 お花見から帰ると、ポストに一通の手紙が入っていた。


 白い封筒。


 差出人を見なくても、何となく分かる。

 退職した会社からだった。


 部屋に入って、コートを脱ぐ前に封を切る。

 中には事務的な文章が二枚。

 今月分の傷病手当金を振り込んだこと。

 健康保険に関する今後の手続きの案内。

 必要なことだけが、きれいに並んでいる。


 会社を退職してからの手続きは、すべて総務を通して行われていた。

 書類が送られてきて、記入して返す。

 また別の書類が届く。

 それだけのやり取り。


 あれから、上司からの連絡はない。

 私から連絡できるわけもなく、

 スマートフォンのメッセージ画面には、最後のやり取りが残ったままだ。


『傷病手当の申請書類送りました』


 短い、事務的な文章。

 その上には、私が最後に送った言葉。


『申し訳ありません。よろしくお願いいたします』


 画面をスクロールしても、その先はもう続かない。


 大人として、最後まで責任を全うできなかった。

 そう思う。

 きちんと仕事を終わらせること。

 引き継ぎをすること。

 お世話になった人に挨拶をすること。

 本当なら、全部やるはずだった。

 でも私は、途中で止まってしまった。


 封筒の中の紙をもう一度見る。

 振込完了。

 保険の案内。

 会社は、何事もなかったみたいに手続きを進めている。


 それは当然のことだ。

 社会は、誰か一人が止まっても、ちゃんと回り続ける。


 だからこそ、余計に胸が重い。

 この後悔は、たぶん消えない。

 懺悔に似たこの気持ちは、

 これから先も、ずっとどこかに残り続けるんだと思う。 


 窓の外を見ると、夕方の空が少しだけ赤い。

 数時間前、桜の下で道明寺を食べていたことが、同じ日の出来事とは思えなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ