こもれびの外の春
「お花見ですか?」
思わず聞き返すと、にしひがしの佐東さんはにこにこと頷いた。
「今度のショートケアはお花見に行こうと思ってるの。ちょうど来週頃が見頃だと思うから」
お花見。
その単語だけで、頭の中に薄いピンク色が広がる。
「ショートケアって、外に行くこともあるんですね」
部屋の中でワークをする場所だと思っていた。
テーブルとホワイトボードと、観葉植物。
それがショートケアの全部だと。
「たまにね。プラネタリウムとか見に行ったり、鎌倉散策をしたこともあるのよ」
鎌倉。
遠足みたいだ、と思う。
「もちろん、参加は自由よ。人が多いのが不安なら、室内プログラムに残ってもいいし」
“自由”。
その言葉に少しだけ安心する。
外に出る。
みんなで歩く。
桜を見る。
想像するだけで、少し胸がざわつく。
歩くスピードを合わせられるだろうか。
会話に入れなかったらどうしよう。
疲れてしまったらどうしよう。
でも同時に、桜を“ひとりで”じゃなく見るという選択肢があることに、驚いている自分もいる。
ここ数年、季節はただ過ぎていくだけだった。
咲いた、散った、暑い、寒い。
それだけ。
「外に出るのも、リハビリのひとつなの。春だなあって感じることも、大事だから」
佐東さんは、そう言って笑った。
春だなあ、と感じること。
そんなことまで、リハビリに含まれるんだ。
私は少しだけ考えてから、言った。
「……行けそうだったら、行ってみたいです」
満開の自信はない。
不安も、きっとついてくる。
でも、こもれびの外にある光を、一度くらいは見てみたいと思った。




