ムーンショット計画の失敗 女になるために巨額を投資したのに……
わしは大富豪ジェミニ。
死ぬまでに女になってイケメンに抱擁されたかった。
酒も金も土地も欲しいものは何もかも手に入れた。司法や行政に圧力をかければ法だって曲げることができた。
だが、心は渇いていた。
それは、女として男に愛されたかった長年の夢が叶わなかったことが原因に他ならない。
わしはムーンショット計画というものに多大な財を投資した。人間が死んだ後もデジタル上に人格を残せるという壮大な企みだ。
女型のアンドロイドの開発と共に、研究者の頬を札束で叩き、完成をいそがせた。
そして、15年の年月を費やし完成した。
わしは、ヘッドギアを装着し、眠りにつく。
そして、目が覚めると、女型アンドロイド、バーゴになっていた。豊満な胸、くびれた腰、それは、わしが長年待ち望んだものだった。
ふと、周囲を見渡すとわしの姿があった。
「おお!研究は成功したのか!」
思いっきり抱きしめられるが、おじいさんに抱かれても嬉しくはない。
わしは、メイドロボットとして、ジェミニ邸で働くことにした。
そして、ある日、客人としてやってきたレオがわしを見初めた
「アンドロイドとは思えない美しさだ。恋人として付き合いたい」
わし、いや、私は胸が幸せでいっぱいになった。ジェミニだった頃には、得られなかった女の幸せが手に入ろうとしている。
「まて!そいつはわしの分身じゃぞ。貴様なんぞに譲るものか!」
血相を変えてジェミニが反対した。
「確かに彼女はあなたのコピーかも知れない。だが、今は独立した人格じゃないか!彼女にも幸せになる権利がある!僕は彼女を幸せにする覚悟がある」
「黙れ小僧!わしがその研究のためにどれだけ巨額の財産を注ぎ込んだかわかるか?帰れ!」
レオはすごすごとその場は引き下がった。
「おかしい。わしは女になるはずじゃなかったのか。研究の成果として得られたものが以前にも勝る女への嫉妬だとは」
「ジェミニさん。疲れているのですよ。今日はおやすみしましょう」
私はその後も、レオからの熱烈なラブコールに押され、密会を繰り返した。
「愛しているわ」
「俺もだ」
そして、ある日、ジェミニにそのことが知れることとなった。
「許さぬ!断じて許さぬ。はあ」
その日以来、ジェミニは寝込むようになった。
「わしは女として幸せになりたかった。可愛がられたかった。わしの望みの全てをお前は奪うのか」
ジェミニは失意の中、亡くなった。
私はジェミニの財産を受け継ぎ、レオと幸せな結婚生活を送った。彼が渇望した幸せを私は抱えて生きていく。
私はバーゴ。かつてジェミニだったが今はジェミニではない。ただ一人の女アンドロイドである。





